門の守人

圭太朗

2021年4月18日(日)☀️/☁️

プロローグ


 久しぶりに郷里が見えてきた。

 見えてるよな?真っ暗だけど。


 何年ぶりだろう?


 俺は大学を就職留年している。


 就職留年する際には、祖母に相談する為に帰省した。


 なぜ、祖母に相談したかだって?

 俺は記憶の無い幼い頃に両親を失くして、祖父母に育てられたからだ。

 もっとも祖父も小学校に入る前に亡くなり、いわば祖母が育ての親だ。

 そうなれば、当然、育ててくれた祖母に相談するよな。


 就職留年の翌年、無事に就職が決まった際にも、祖母を安心させたく帰省した。

 そんな就職留年した俺がようやく入れた会社。その会社に入社した直後に、郷里を大きな地震が襲った。


 実家に連絡しても、


『大丈夫じゃ。心配いらん。』


 そう気丈夫に答えてくれた祖母。


 当時の俺は入社直後だった。

 当然ながら年次有給休暇も発生していない。

 そんな俺に当時の部長と課長が厚い配慮をしてくれて、出張扱いで実家に帰省することができた。


 祖母は大丈夫だと言ってはいたが、実家に戻ってみれば道沿いの壁が崩れるなどした有り様。それでも人的被害は無く、心が落ち着いたのを覚えている。


 実家に帰ってきたのは、あのとき以来だ。


 それからの俺は、厚い配慮をしてくれた当時の部長や課長に報いる思いで、お盆も年末年始も帰省せずに頑張ってきた。


 それでも実家の祖母とは、互いの生存確認を電話でしていた。


 お盆は帰れない。

 今度の年末も無理そうだ。

 来年のお盆には帰りたいけど…


 そんな電話を昨年末までは、数回した記憶がある。


 就職留年までして入社した会社。

 俺に良くしてくれた部長と課長が去り、その後釜に昨年の秋に着任した課長が最悪だ。


 最悪な課長は、着任早々に無理難題な仕事ばかりを持ち込み、課の連中は残業が増え始めた。

 そして今年に入ってからは、毎日が終電帰りとなり、仕事が終わらず休日出勤が当たり前になった。


 そんな日々の中、休日出勤で終電帰りした俺は、独り暮らしのアパートの郵便受けから取り出した宅配便の不在票を手にした。


 祖母からの宅配便。その不在票。


 目が熱くなってきた。


 祖母の顔が見たい。声が聞きたい。

 祖母は元気なんだろか?

 あの年齢では、いつまでも独り暮らしはまずいだろう。


 連日の終電帰りが続く会社。

 休日出勤が続く会社。


 俺、最近、疲れてるのか?

 やっぱり会社がブラックだったのか?

 あのパワハラ課長が来てから、ブラックな企業に変わってしまったのか?


 目から汗が出そうだった。

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