閑話 レックス4
「ハァ?! ミランダとオスニエルが死んだァ?!」
オレ、レックスは久々の遠征から帰ってきたらギルドでそんな話を聞かされた。
受付の女を睨みつける。
面倒で時間ばかりかかるくせに大した金も出ない遠征の依頼を、A級冒険者のオレに押し付けやがった女だ。……確かに、最近はちょっと調子が悪くて失敗も多かったが、だからと言ってこのオレに面倒な遠征など押し付けやがって。
いや、それよりミランダとオスニエルだ。
「どういう事だ!」
「いえ、ですから……先日オークキングが発生しまして、ミランダさんとオスニエルさんはその犠牲となりまして……」
「ちッ、オレがいないとオークごとき満足に倒せないのか、あの女は!?」
舌打ちをし、受付の机を蹴り飛ばす。
あの女、普段偉そうなことを言っておいてオーク程度にやられたってのか? 使えねぇな……。オスニエルの野郎も妙に上から目線で自分の術を自慢してやがったくせに、大したことなかったな、オイ。
まぁ、A級冒険者でパラディンの
そんな事を考えていると、後ろからダグラスが受付の女に話しかけた。
「ミランダ達の事は残念だが……それで結局オークキングは誰が討伐したのだ? 討伐したのだろう?」
「おお、そうだ! そのオークキングは誰が倒したんだよ。この町でオレ以外にそんなことが出来る冒険者がいたのかよ?」
受付の女に聞くと、女はおずおずと口を開く。
「パーティー『双星の菫青石』です。レックスさんもご存じの、シルリアーヌ王女殿下が率いるB級パーティーです」
「はぁ?! あの女か! しかも王女殿下だと?!」
机をバンと叩くと、びくりとのけ反る受付の女。
「は、はい。シルリアーヌさんが、本当は王女殿下であった事が王宮から正式に発表されたのです。い、今ではギルドの冒険者はみんな知っていますが……」
「そんな訳あるか! あの女は平民だったはずだろ!」
「す、すみません……私に言われましても……」
「ちッ、使えねぇな!」
あの女は平民だったはずだ。それがなんで王女って事になってやがる?
すると、思い出すのはあの女にそっくりなリリアーヌとかいう王女。ははぁん、きっとあの王女に取り入って自分を王族だと認めさせたんだな? いや、案外リリアーヌの方が自分とそっくりなシルリアーヌを気に入って王族の権力で王族に迎え入れたか。
ちっ、権力を持つ輩の考えそうなことだ。
シルリアーヌも大した力も無いくせに、権力をもつ輩へ取り入る方法だけは上手いらしいな。あの美しさだ。権力を持つ貴族や王族に体を開けば、嬉々として言う事を聞いてくれる奴らも多いだろう。
「気に入らねぇなぁ……」
そもそもあの女には、このオレが手に入れるはずだった
疾風たるファフニール、ちらっと見ただけだが美しい剣だった。パラディンたるこのオレにこそふさわしい剣で、間違っても色仕掛けで地位を手に入れるようなアバズレが手にしていいような剣じゃない。
気に入らねぇなぁ、あの女……。
最近調子が悪いのも、あの女に会ってからだ。
聖遺物も横取りされるし、ここのところ依頼も失敗が続いている。ミランダやオスニエルは使えない奴らだが、そこそこ役に立っていた。奴らが死んだことによる戦力ダウンも無視できない。それもこれも、全部あのシルリアーヌに会ってから起こった事だ。
「あの女が、なにかやってやがるのか……?」
まさかそんな、と思うがありえない話じゃない。
色仕掛けで王族の地位を手にれるような女だ。なんでも言う事を聞く手下が何人いたって不思議じゃない。
本当に、気に入らねぇなぁ。
見ていろ、A級冒険者でパラディンのオレが、このままで終わると思うなよ?
制止するダグラスを無視し、俺はギルドを後にした。
◇◇◇◇◇
目の前にあるのは、王都の端の方に存在する貧しい孤児院。
あちこちに穴が開いていたり崩れ落ちていたりと、年代もののボロボロの孤児院だ。
そこに久しぶりだがオレはやってきていた。
「あ、レックスのお兄ちゃんだ!」
「ほんとだ!」
「勇者のお兄ちゃんだ!」
オレの姿を見つけたガキ達が走ってきて、オレはあっという間にガキ達に囲まれる。
ちっ、みすぼらしい格好のガキばかりだ。
しかも男のガキばかり。しかもガキ達は「お土産は~~」などと言いながらオレの服の裾を引っ張りやがる。触るんじゃねぇ、汚い。貧乏がうつるだろうが。
思わず顔をしかめそうになるのを我慢して愛想笑いをしていると、ガキ達の後ろから孤児院の院長がやってくる。
若い女とかならまだ来る意味もあるってもんだが、今にもお迎えの来そうなしわくちゃのババアだ。しけた孤児院だぜ、まったく。
「これはレックス様、いつもありがとうございます」
そう言って頭を下げるババア。
しかもこのババア、臭い。年寄り特有の匂いがぷんぷんしやがる。
不快でたまらないオレは、「いや、そんなことはない」と返すので背一杯。
……そう、オレは少し前からあちこちの孤児院を訪れて寄付なんかをしている。オレとしては、何が悲しくて命がけの依頼をこなして稼いだ金を、こんな貧乏人共にくれてやらないといけないのか全く理解できない。だが、これはミランダの発案で始めたことで、悔しいが始めてからオレのパラディンの天職の祝福が増した。だから、これはオレにとって必要な事だと我慢してこうして足を運んでいる。
オレの天職である
だから、こうやって貧しい孤児院なんかに寄付をし、孤児院の奴らや周囲の住民なんかに認められることで、天職の祝福は強くなっていく。聖騎士らしいすばらしい行いだと、オレを称賛する声がオレの力となっていく。だからこそ、町の中でオレに馴れ馴れしく話しかけてくる奴らにも我慢して相手をしてやっている。
最近どうも調子の出ない今のオレは、こんな事だって我慢してやらないといけない。
本当に、本当にイライラするがな。
「……これは、今日の分の差し入れだ。みんなで食べてくれ」
爆発しそうな感情を我慢して、通りで買ってきた菓子の入った袋を差し出す。
「やった、お菓子だ! も~~らいっ!」
「あ、ズリィぞ?!」
「追いかけろ!!」
ガキの1人が差し出した菓子をかっぱらって逃げ出し、それを見た他のガキが追いかけていく。
ちっ、菓子ごときで見苦しいガキどもだ。これだから貧乏人は嫌いなんだ。
「ちっ……ンンッ」
思わず出てしまった舌打ちをごまかす様に咳払いをする。
そうしていると、ババアの後ろから身なりの汚い女のガキが進み出てきた。
その女のガキは、一束の花束を差し出す。……花束、ってほど上等な物じゃねぇ。その辺の雑草を拾ってまとめただけの、控えめに言ってもただの雑草の束だ。
「これを、いつもお世話になっているレックス様に」
笑顔でそう言い、その雑草を差し出してくる。
「ほぉう……」
思わず笑みが浮かぶ。
そのガキは、身なりは汚いが顔はわりと綺麗な方だった。
少し痩せているのが気に入らないが、その身体は少女らしい起伏が出始めていて、十分『女』として使える身体つきだ。これなら、あと一年もすれば店に出せるな。
「これは、なかなか綺麗な『花』だな」
この女のガキを娼館に売り飛ばせば、そこそこの金になる。
オレが今まで孤児院に払ってきた金を回収できるし、売り飛ばす前に商品の『味見』をする事だって可能だ。
実際、オレはこれまで何人かの女の孤児を娼館に売り払ってきた。孤児院の院長なんてやってる連中は、どいつもこいつも世間知らずばかり。適当に言いくるめれば、こっちの言う事を簡単に信じて聞いてくれる。警戒しないといけないのは売り飛ばされた女がオレの悪評をばらまくことだが、適当に足の健と喉でも斬りつけてやれば、逃げることも喋ることも出来ない。
それでも誰かに伝えることも出来なくもないだろうが、基本的に元孤児の娼婦の言う事なんて誰もまともに取り合わない。
それに……
今まで馬鹿みたいにオレの事を信じていた女に本当のことを言って犯す瞬間、あれが本当に滾る。純粋に天職の強化の事を考えればやらない方がいいんだろうが、アレは止められん。まぁ一人くらい憎まれても構わないだろうし、どっちにしろ売り払うんだ。問題ないだろうと思っている。
それを思えば、貧乏人のガキの相手をすることも耐えられるってもんだ。
……ああ、かったるい。早く帰りてぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます