第33話 糖質オフな生活

 えー、実は昨日の我が家の夕ご飯はじゃじゃん! なんと!


 「黒毛和牛のすき焼き」


 おおお! 超いい響き! 黒毛和牛!


 いつも行くスーパーに夕方買い物に行ったところ、鮮魚コーナーも水曜日の夕方特売をやっていてかなりなお得感を出していたのだが、我が家は魚屋の孫だというのに魚介類が嫌いな子供が二人もいるので、お得にたくさん買えちゃう鮮魚コーナーの特売は向いてないと諦めて、いつもの精肉コーナーに行った。さて、本日のご飯は何作ろう?と向かって、そうして出会ったのが! 黒毛和牛すき焼き用6840円! 高っ!! のなんと40%引き! 4104円になってるぅ〜!


 「どうしよう? これを買っていけばすき焼きになるだろうか? 他の材料はあったか?」


 ぶつぶつマスクの下の柔らかい二重顎を撫でながら、しばし見つめる40%引きの高級肉。すると、隣に、おばさんがやってきた。


 「やだ。やめて。今悩んでるから、それに気づかないで!」


 そんな心の声は届くわけもなく、おばさんは私と同じ肉を見ている。


 見ていると言うより、見つめている。


 動きが止まっている。


 これはまずい!先に手を出した方の勝ちだ!


 ああ、 なんてこと! おばさんの方がそのパックに近い! だってさっき私人が来たと思って、一瞬左に逸れたからだ!これはきっと先に手を出した方が勝ち! 負けるわけにはいかない! とっさにそう思った私は、おばさんの左脇からスッと手を出して、おばさんよりも早く高級肉のパックを手にとった!


 え? とこちらを見るおばさん。え? とそしらぬ顔で見返す私。え? とまたこちらを見るおばさん。え? もしかしてこれいりますか? と渡す気はないが一応そのような顔をしたつもりの私。


 あ、どうぞ、どうぞ、とおばさんが手を出して無言の合図したので、この瞬間私の勝利が決まった!


 黒毛和牛のすき焼肉とったどーーー!!!


 と言うわけで、いつもより高い買い物をしたが、お得なのでかなりの良しとした。その他のすき焼き用の材料が冷蔵庫にあったかな? と脳内アルバムをめくってみる。


 まずは両開きのドアを開けて、えっと一番上には、味噌と、アンチョビの瓶と、変ななんか入ってる器と、その上になんか入ってるボウルと、うーん、ここにはないな、次に二段目はっと、えーと、チーズの入ったパックに、全然使ってないギーの瓶、こないだ食べた残りの桜漬け、後、変なパックと変なパックと、変なジップロック、ないな。


 次! 三段目、えっと、いつのかわかんないキムチの瓶と、えーと、バターが二個と、えっと、ちょっとその奥見えないな、もう! なんでドレッシングやら、ステーキソースの残りやら手前にいっぱい並んでるんだ! ちょっとそこどいてくれないかなぁ!そこに豆腐はなかったか? 見えない・・・・。


 あぁ! もういいや! どこのどいつが使ってる冷蔵庫だ全く!


 次! 四段目! 棚が壊れてガタッと落ちるのを防ぐために百均で買ってきたつっかえ棒の奥にきっと豆腐がいる気がする。こんな棒きれ使わないとまともな冷蔵庫にならないなんて壊れかけのRadioならぬ壊れかけの冷蔵庫か! 全く。ぐちゃぐちゃすぎてよく見えない! 大体なんで手前にマヨネーズとケチャップがあるんだ? それは普通はドアポケットじゃないのか? ほんと信じられない! 多分ここにはないな。見覚えがあるようでない真っ白ななんか入ってるっぽいパックはあるが。あれは一体何が入ってるんだ? 使いかけ放置にしてるやつはどこのどいつだ! 全く! けしからん!


 もういい! 次! 引き出し開けるとこ! ガタゴト。やけに重いななんだこれは! とろけるピザ用チーズと、おっふ。私の愛するビールちゃん。まだ三本あるのね。後二本くらい買っておこうかしら。でも、ここにも豆腐も白滝も、糸蒟蒻もなさそうね! でもいいわ。ビールちゃん確認できたから。


 で、次! 野菜室! 早く再生してよね! 高級肉がいたんじゃう。ただでさえ40%引きなんだから!


 出てきたわね。野菜室。キャベツ。ふんふん、ねぎ、おお、ねぎゲット! でもって、白菜は? 変な袋に入ってぐちゃっとなってるのは白菜? いや違うこれはきっと・・・・春菊! よっしゃ! 春菊ゲットだぜ!しなってるけどお湯をかければ元どおりよ!


 あとは何があるのかな? ちょっともうちょっと見せて見なさいよ! そうそう、その奥のほう! は? ぼやけてて見えないですって? え? 壊れた仕切りのトレーを捨てたから、全部がぐちゃぐちゃに詰め込まれてるって? 一体誰だ! そんなことをした奴は! 見つけたらとっちめてやる! まぁいいわ。大体わかった。


 というわけで、すき焼きに必要なのは、


 焼き豆腐、白滝、葛切り、白菜、ってとこね。うどんもついでに買って行こうかしら。そうそう、いつもの調子だとここで、さぁ!いただきます!とかいってから卵がなかった!ってオチになるとこだけど、それはさせないわ。そんな簡単なオチはもう使い古した天ぷら油よ! 私を誰だと思っているの! さっきのおばちゃんに勝利してこのお買い得な高級黒毛和牛すき焼き肉を手にした和響42歳専業主婦よ!


 ふん。そんな簡単なオチなんか用意してないわ!なめてもらっちゃあお里の母さんがなくってもんだい!


 「あのさぁ、ちょっといい?」


 え? 誰? 脳内再生くんか!? ちっ! 気持ちよくのってたのに、水を差しに来たのか!


 「うんそうそう。あのさぁ、僕じゃない脳内再生であなた気持ちよく喋ってるけど、それでさぁ、その中でさっき、そんなオチはもう使い古した天ぷら油よ!っていってるけどさぁ、この話、そりゃ相当なオチなんだよね? たんかきって、お里のお母さんまで泣かしちゃったけど」


 あ、そうね、オチね、うん、そうね、うん、オチね。オチ。考えてるわよもちろん多分、きっとその時が来たら出てくるのよ。いつだってそうだから。きっと、うん、多分。・・・・出てくるに決まってるでしょ!


 「オチがないのがオチでした〜ってやるつもり?」


 ま、まさか! そんなことはしないわ! するはずないじゃない!オチがなくっちゃ話はおしまいよってことでしょ!


 「へぇ、じゃあ聞かせてよ。どんなオチ?」


 そ、そうね、どうしようかしら、パソコンを打つスピードが、遅くなってきちゃったわ。そうね、えっと、そうね、うんと、


 「あのさぁ、ついでにもう一個ツッコミたいんだけどさぁ」


 な、何よ!


 「脳内アルバムめくって見えないところ指でスワイプして拡大して見てたあの冷蔵庫ってさぁ、どこの家の?」


 うちに決まってるじゃない!


 「誰が使ってんの?」


 あたしに決まってるじゃない! うちは同居家族じゃないわ! お気楽な一世代で住んでんのよ! そんなことも知らないの! 脳内再生でいったいいつも何見てんのよ!


 「つまり、あなたの家のあなたが使ってる冷蔵庫だと?」


 そうよ!もちろんそうに決まってるわ!


 「へぇ、すごいね。じゃぁさ。ちょっと上にスクロールして戻ってさ。多分書き始めてから1000文字くらいの辺かなぁ、ちょっとその辺から下に読んで行ってみてよ。多分恥ずかしい人だからさぁ。ま、僕が今日言いたいのはそれだけ。じゃぁね〜」



 はあ?!恥ずかしいだと!どこがだー!

真面目に冷蔵庫チェックしてるだけじゃん!


 全くもって脳内再生くんのいってる意味がわからないので!本日はこの辺で!




追記


黒毛和牛のすき焼肉はそれはそれは美味しかったです。でも糖質が高そうなので、糖質ゼロビールをいただく私としては、少し控えめにいただきました。もちろん夜ですのでご飯はなしです。朝になると、ちょうどいい味が染みているので、子供たちは朝ごはんのおかずとして味の染みたすき焼きの残りを食べました。私はもちろん食べません。朝ごはんはコーヒーだけで充分です。きっと1ヶ月くらい食べなくても死なないだけの脂肪を蓄えていると自負しておりますから。


朝から専業と言う冠をとらなくてもいいくらいの家事をこなし、寝不足だけれど寝る間を惜しみ、本日はガッチーズのリーくんのよもやま話を書き、その後ヨムヨムで恐怖と胸きゅんを楽しみ、これまた一気読みしたい作品を見つけてしまったので、その前に妄想日記書いておこうと思ったのですが、トイレに行くついでに時計を見たらもう午後2時と言うことに気づき、そうだ朝の残りのすき焼き鍋にご飯でと思って、卵を二個入れて卵とじにして、それをご飯に上手に盛って、何が入ってるかわからなかった器の中身の紅生姜を入れて、食べたところ、それはそれは美味しくて、でも味が濃すぎて、ご飯を足して、それでも味が濃すぎて、ご飯を足して食べました。とてもとても白米を食べた気がします。だって、朝三合炊いたご飯がすっかりきれいになくなりましたから。


本当に、うちの子たち。よく食べるわね、と思い込むことに成功しました。まさに糖質オフな生活です。


さて、お昼寝の時間としましょうか。

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