第141話 タマル村、宇宙へ

 おらが村の邪神たちがみんなでやって来るというので、軌道エレベーターでも使うのかと思っていたら。

 なんと、タマル村の商店がある一角が、まるごと浮かび上がって来るではないか。


 そうだ、この連中、そもそも宇宙からやって来たんだった。

 タマル村がまるごと宇宙に出たような状況である。


『ああーんタマル様会いたかったですー!』


 タマル村が宇宙ステーションにドッキングした瞬間、通路からファンが飛び出してきた。

 俺はとっさに反応できず、奇襲を食らってしまう。


「うわー」


『ずっと宇宙から降りてこられないのですもの! 夜空を見上げるのは好きですけど、星になってしまった相手を待ち続ける趣味はありませんから!』


『情熱的ですなあ』


『オー! タマルさんプレイボーイですねー!』


「誰にも一切粉をかけたりしてないからな!?」


 なんか分からんが、率先してみんなの前に立って道を切り開いていったらモテただけである!

 生前はあんなにモテなかったのにな!


 そして今までだったら、すぐに駆けつけてファンを引っ剥がしていたポタルが、今日はおとなしい。

 ファンに押し倒されて顔にちゅっちゅっとされている俺だが、周囲に目線を向けてみた。


 ちょっと離れたところから、何か勝ち誇った顔をしてポタルが立っているのが分かる。


『ポタル、珍しいわね。あれは放置してていいわけ?』


「考えてみたんだけど、私ってばタマルのハートはもうキャッチしてるので、この地位は不動なんだよね! だから勝者の余裕なの!」


『そんなこと言ってるとああいう積極的なのに取られちゃうわよ』


「そんなことないよー! ……ないよね? ないよねー?」


「うーん」


 俺は誘惑に弱い気もするので、大丈夫だよとは言えないな……!

 するとポタルはすぐに血相を変えて駆けつけてきた。


「離れてー! 離れなさいよー! はーなーれーてー!!」


『ええい、またあなたなの!? いいじゃない! 私はずーっと村にいるんだからこういう時くらいタマル様を貸しなさいよー!』


 女の戦いだ!

 俺はその隙間からヌルリと抜け出した。


『今、うなぎのような動きをしてましたな』


「二人を刺激しないよう、触れないように移動したのだ。よし、タマル村の邪神たちよ。宇宙ステーションを案内しよう。とは言っても、外のオブジェと農業プラントしか無いけど」


『全然構わないんだなもしー。これは村の慰安旅行みたいなものなんだなもし』


 ヌキチータが物珍しそうに、ステーションをぺたぺた触って回っている。

 パソコンとか持ってきてないな。

 あいつ、ここにいる間は一切仕事をしないつもりだ!

 

 いつも定時で帰っているハイドラもいて、今回は隣にムキムキの半魚人を連れていた。


「ハイドラ、こちらさんは?」


『夫のダゴンです。今回、ヌキチータさんのご厚意で夫も一緒に旅行にいらっしゃいということになりまして』


「ははあ。どうもどうも、タマルです。ハイドラさんにはいつもお世話になっております。優秀な奥様で」


『あなたが大いなる盟友を救ったという異邦の神か。妻も大変神格に優れた存在だと褒めていた。わしはダゴン。よろしく頼む』


 ダゴン氏と握手する。

 しっとりしていた。


 こうして、ステーションを案内して回るのだ。


「うわあ、あちこちでバイト邪神が雑魚寝してますー!」

「してますー!」


 魔人商店の双子姉妹が物珍しそうに、スラム然とした光景を眺めている。


「面白い? ほんとにこれ見てて面白い?」


「面白い環境ですー! わたしたち、いつも商店にいるから見るもの聞くものなんでも珍しいですー!」

「ですー!」


 双子は、近くで寝転がっている邪神に駆け寄るとインタビューを開始した。

 実は好奇心旺盛な神々なのかもしれない。


 ちなみにバイト邪神たちは、異星からカードゲームなどを持ち込んでおり、仲間や人間たちと遊んでいたりする。

 暇つぶしの手段がそこまで多くない宇宙では、カードゲームをひたすらやることになるらしく、ローカルルールが次々と生まれて、居住区画の端と端では全く違うゲームになっているのだとか。


 次は農業プラントに案内した。

 10本接続されているチューブの一つを歩いて行く。

 チューブにある窓からは、外に屹立するガイコツのオブジェとか、力こぶのオブジェ、そして三連装キャノン砲やタワーなどが見えている。


 彩式洋品店の二人はこれを見て、『なんちゅう美的センスやろ。見るものの正気を奪うね』『新しい発想が浮かんできた』などと言うのだ。


 そして農業プラント。


『まだまだ、大半が構造物のままですね。植物が足りないと見えます。どうです? こちらにトウテツを呼びましょうか』


「館長の申し出は嬉しいなあ。あと、可能なら宇宙で育つ植物とかもある? エーテルで育つようなの」


『ありますよ。どこにでも栄養がある状態なので、繁殖力がそこまで高くはないですから大量に購入する必要があるでしょうが』


「構わない構わない。あそこにキャロルが、よく分からん構造体を広げていっているんだ。そこを緑で覆って見栄えよくしておきたい」


『それは面白いですね。いつか、全く新しい自生種が生まれてきそうで私としてもワクワクします』


 館長はその場で、トウテツに連絡を取ってくれたようである。 

 宇宙植物商人のトウテツは、明日にでもやって来るということだった。

 迅速!


「それでヌキチータ、タマル村はしばらくこっちにあるの?」


『そうなんだなもし。スペピの連中を撃退するために、僕たちも総力を結集するんだなもしー! 馬車も持ってきたんだなもし。飛空艇が宇宙でも活動できるようにパワーアップしてるんだなもし』


「便利!」


『吹きさらしだから宇宙服必須だけどねもし』


「不便!」


 こうして、徐々に準備が整っていくのである。

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