第130話 一度おいでよタマル村

 UFOからドクトル太郎が現れて、会場のみんながウワアアアアッと歓声を上げた。

 アフロ犬のドクトル太郎は、あまり表情が分からない顔のまま、ファンたちに手を上げて応える。


『ありがとう、ありがとう。じゃあまず、一曲歌っちゃおうかな。ドクトルフラメンコ』


 ドクトル太郎のギターが唸りを上げる!

 楽器がそれしか無いのに、打楽器の音も聞こえてきたぞ。

 これは情熱のフラメンコだ!


 すると俺たちの間から、ヌキチータとハイドラが出てきた。

 二人ともフラメンコっぽい格好をしてる!

 そしてガンガン踊りだす。


 こりゃあたまらん。


「俺たちも踊るしかあるまい」


『踊りますぞー!』


「いけいけー!」


『オーイェー!』


『なんかわかんないけど踊るわよー!』


『ピピー!』


『アイヤー! フライパンを叩いてリズム取るのはやめるよー!?』


 会場はみんなダンシング状態である。

 情熱的なドクトルフラメンコが終わり、うちのシェフはハッと我に返った。


『もうすぐ全員の料理をサーブできるね! 本格フレンチの威力を見せてやるよー!』


 こうして、ドクトル太郎はリクエストを受けて歌いまくり、シェフがたこ焼きとか焼きそばを次々サーブして、眷属や邪神たちの腹を満たしたりしている。

 まさにお祭りである。


「それはそうとフレンチじゃないなこれ!! 美味いけど。異世界でたこ焼きとか焼きそばが食えると思わなかった……」


「珍味だねーこれ! タマルと一緒にいると、不思議でおいしい食べ物がたくさん食べられるから好き!」


「はっはっは、もっと好きになってくれてもいいのだよ!」


『あんたたちイチャイチャしてるわねー。あたしも混ぜなさいよ。美味いもの食わせる男はあれよ。凄く貴重なんだから』


「うーわー! 私とタマルの間にキャロルがぎゅうぎゅうとー!!」


「ウグワー!」


『あら、タマルを弾き出しちゃったわ』


 転がった俺を、眷属たちが見つけた。


『あっ、タマルさん!』


『おーい、俺たちの救い主のタマルさんがいたぞー』


『胴上げだ、胴上げだ』


「うわー、何をするお前らー」


 わいわい集まってきた眷属と、お祭りだからと加わったバイト邪神たちが俺を一斉に胴上げする。

 こりゃあすごい状況だ。


 背後では、ラムザーがドクトル太郎と、ドクトルロックをデュエットしているではないか。

 あいつには恐れというものがないな。


 俺はポンポン胴上げされつつ、高いところから周囲を眺めた。

 砂漠とオアシスがある。


 その向こうにはタマル村とヘルズテーブルが広がっているのだな。

 思えば遠くまで来たものだ。


 最初は裸一貫でヘルズテーブルの戦場跡に放り出された。

 死ぬかと思ったが、なんとかなった。


 仲間も増え、次々に世界を切り開き、理想のスローライフが行える場所にしていった。


 地下を行き、海を行き、空を行った。

 ヘルズテーブルの外側も、こうして開拓して行っている。

 よくぞここまで来れたものだ……。


 俺はポンポン胴上げされつつ、感慨に浸った。

 まるで最終回みたいな勢いで、今までの思い出が走馬灯となって流れていく。


『タマルさんタマルさん!』


「どうしたヌキチータ」


 いつの間にかヌキチータも胴上げされており、俺の横に浮かんでいる。


『とんでもない奴らに目をつけられたんだなもし!』


「とんでもないやつら?」


『環境保護団体……いや艦隊、スペースフルピース! 略してスペピと言う連中なんだなもしー!』


「環境保護だとぉ」


 俺はその響きに恐ろしいものを感じた。

 現実世界で俺が遭遇してきた環境保護は、よっぽど裏付けがちゃんとしてるもの以外は全部トンチキだったからだ。


『僕たちがヘルズテーブル開発をしていることに対して、正式に抗議が届いているんだなもし! 読み上げるんだなもしー! “我々スペースフルピースは、邪神ヌキチータによる惑星ヘルズランドの環境破壊に断固抗議する。ヘルズランドに生息する魔人侯や兄弟神は賢くて友達になれる存在であり、これへの介入は自然環境を破壊することになる。まさに悪魔的開発行為を止めるべく、我々は実力行使に出る。辞めてほしかったら惑星ヘルズランドからの即時撤退と、我々の活動資金をこれくらい支払うように。なお、まだ開発を続ける場合は我々を査問機関とし、随時査察の手数料を払えば開発を許可することとする”』


「恐喝してきてるじゃん」


『ろくでもない連中なんだなもしー! 基本的にオーバーロードから資金提供を受けて鉄砲玉をしているんだけど、もっともらしいことを述べての破壊活動で、宇宙にいる神々の一部が常に騙されるんだなもし。そういうバックアップもあって、こうして惑星開発を辞めさせられる神もいるんだなもしー!』


「なんてことだ。これまで俺が頑張って来た成果を横取りしようって言うのか! 許せねえ! ふてえやつらだ!」


『だけど、こいつらをやっつけることができれば、この星はしばらく平和でいられるんだなもし! タマルさん! お願いできるかなもし!』


「ああ、任せてくれ。魔人侯の大半は頭がおかしくて話が通じなかったし、兄弟神だってろくでもない感じだった。あれは友達になれないだろ。こういう自分の目で見ないでなんとなーくイメージで決めつけて、こっちを悪いと糾弾してくる仕草が気に入らん」


 胴上げは終わり、俺は大地に立つ。


「みんな聞いてくれ! これからヘルズテーブルは、タマル村は最大の敵と戦うことになる!」


『敵!?』


 ざわめきが広がる。

 スローライフは戦わないのではなかったか……!?

 そんな戸惑いだろう。


「例外はある。それは、スローライフそのものを破壊しようとする悪意が現れたときだ! 敵は環境保護団体スペースフルピース! このスペピどもを全員捕獲して売り払う! 俺たちで開発したこの星を、守り通すんだーっ!!」


 一瞬の静寂の後、うわあああああああ、と大歓声が起こった。

 今、みんなの心は一つになったのである。


『なんだ、遅れてきてみたら随分盛り上がっているな。楽しいイベントでもあったのか。あ、焼きそばとたこ焼き? いただこう。リセンボンたちにも配って欲しい。しかし皆、凄い熱気だな。どういうお祭りなのだ?』


 後からやって来た逢魔卿が、ニコニコしながら尋ねるのだった。



(第三部終わり。次が最後の章になります)

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