第101話 神話の誕生?
ホクホクしながらタマル村まで帰還してきた。
飛空艇でまるごとである。
ゴッドモジュールを使えば俺たちは帰れる。
だが、ゴッドモジュールは馬車に設置されているから、馬車が帰れない。
つまりホネノサンダーたちが残されることになり、これはかわいそうだ。
ということで、全員が一気に帰るなら飛空艇というわけだな。
なお、湿地の迷宮はスルーした。
後だ後。
「長々と開拓した後で迷宮探索なんてやってられないからな」
『ほう、開拓』
後を振り返るラムザー。
そこには、湿地の三割くらいを覆うまでに広げたコンクリートジャングル。
星の砂は早々に尽きたが、コンクリートは無限に出せるからな。
『確かに家は建てやすそうですな』
「だろ? スローライフとは自然を征服したところにあるものだ。自然との調和なんてのはあれだ。勝者の驕りだよ。俺は謙虚なんで、積極的に自然環境を人工環境に置き換えて行くぞ」
『何か邪悪なことを言っている気がしますが、まあタマル様ですからなあ。暮らしやすければそれでよしですぞ!』
ラムザーとともに、わっはっはっはっは、と笑った。
途中、流血男爵領跡を通過したら、魔人旅団が人間たちの村を襲おうとしているところだった。
おざなりに花火マシーンをぶっ放して驚かせる。
釣り竿を使って、数人釣り上げてゲットしてやった。
「おっ! これ凄いぞ。飛空艇からだと、地上にいる相手を釣れるんだ! こりゃあ大発見だ」
『魔人旅団がパニックになってますなあ』
『オー! タマルさんのパワーが無法なほどにストロングになってまーす!』
「空から一方的に釣られるのは怖いもんねえー」
魔人旅団は大慌てで逃げ帰っていく。
ぜひ、羅刹侯爵に俺が存在する事を伝えて欲しい。
地上からは、人間たちがわあわあと手を振っている。
手を振り返した。
そしてハッと気づく。
「あいつら、大鍋でうすーいスープなんか作ってやがる。ダメだダメだ。もっと腹にズドンと来る料理を俺が教えてやる。飛空艇降りろー」
『カタカター』
『えっ、お腹にたまる料理ですって!?』
『タ』
『タマルだけにって言うんでしょ!? 先に言ってやるわよ!』
『うぐう』
ラムザーがキャロルに先を越されて悔しそうな顔をした。
キャロルも成長しているのだ。
着地した飛空艇から、俺が飛び出す。
「いいか! 再現可能な濃厚な料理は研究してあるんだ! これ! ここに捨ててある獣の脂! これをトロットロに煮込んで、これ! この野草がハーブだから! これで味付けして、これ! 家畜の乳! これでまろやかさを加えられるから! そして岩塩をどーん!!」
「あーっ!」
俺の豪快な料理に、人間たちが驚きの叫びをあげた。
俺だって、DIYお料理レシピ頼みばかりではない。
暇な時間に、再現可能なレシピを研究していたのだ。
そもそも、最初にラムザーと食ったのがこのシチューめいた料理だった。
『懐かしいですな! 家畜の乳が入ってるぶんだけパワーアップしてますなあ』
「おう、野趣あふれる美味そうな香りがしてきた。お前ら、そこに並べ!! 俺がお椀にすくってやる」
俺が声をかけると、人間たちはずらりと並んだ。
「スローライフ王タマル様が直々に……!」
「我らを守ってくれただけではなく、お料理まで伝授してくれるとは……」
「はあー、ありがたや、ありがたや」
「はっはっは。もっと俺を崇めてもいいんだぞ……。だが何も出ないからな。また新しいレシピを再現できたら教えに来るからな。豊かな食生活を楽しむがいい」
シチューをよそってやる俺を見て、ポタルがうんうん頷いている。
「やっぱりタマルって身内にはすごく優しいんだよねー。魔人侯の器って感じ!」
『羅刹侯爵は恐怖と規律で部下を縛り付けるスタイルでしたからな。それに対して、タマル様はスローライフの楽しさとお料理の美味さで我らを惹き付けるスタイルですぞ。あっちは地獄、こっちが天国でしたなあ』
「ねえ、それって!」
『おお!』
ポタルがブレスレットでくるりんっ!とアイドル衣装に変身。
ブレスレットを譲り受けたラムザーが、くるりんっ!とロックスター衣装に変身。
フランクリンが駆けつけて、キャロルがラジカセのスイッチを押した。
流れるのは、『来たら地獄、住んだら天国』である。
タマル一味の合唱が始まり、人間たちにどよめきが走る────。
が、子どもたちがすぐにメロディを覚えて、うろ覚えな歌詞を歌いだした。大人たちもこれに続く。
やがて、この集落を『来たら地獄、住んだら天国』の大合唱が包み込んだ。
なんというかもう、俺のスローライフのテーマソングから、俺のスローライフ王国の国歌まで昇格した感がある。
その後、みんなでシチューを食った。
そしてシチューレシピを教え、「これをアレンジして美味い煮込み料理を沢山試すがいい。毒のあるのは一回失敗したらすぐ覚えろ。トライ&エラーだ」と伝える。
いつしか、人間たちが俺を見る目には尊敬の念というか、崇敬の念が籠もっていた。
『オー……! これはニューミソロジーのスタートという気がしまーす!』
俺が神様の神話だって?
はっはっは、冗談はよすのだ!
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