第80話 スイムスーツ五人!

 カルデラ湖の前に、スイムスーツが五人揃った。

 俺のはなんかフツーの白黒のスイムスーツ。

 中肉中背なので、遠目でもパッとしない感じである。


 ラムザーは赤いスイムスーツ。

 ムキムキ四本腕が映えるぞ。

 なんていうかリーダーカラーだよな。


 ポタルは可愛いピンク色とイエローのスイムスーツ。

 細身の彼女にピッタリフィットしてて超可愛い。

 ポタルもお気に入りだぞ。


 キャロルは本人がピンク色なので、スーツの色はグリーンで行った。

 むっちりしてる彼女が着込むと、なかなかこう……グッと来るものがある。

 本人は悪い気がしないようで、ふんふん言いながら湖面に自分の姿を映している。


 あ、そういえば鏡が無いよな。

 鏡を作らなくちゃなあ……。

 大きさも色々あるし、レシピを見つけてパワーアップさせる方法なんかも予想はつくし……。


『オー!! タマルさん!! なんでミーのところのコメンタリーが入る前にミラーのことを考えたんですかー!』


「フランクリン俺の脳内を読むな! いやさ、そう言えば女子が二人もいるのに鏡が無かったなーと思って」


「えー? 私たち、いっつも水に顔を映して身繕いとかしてるよ?」


『特に問題ないわよ。慣れてるもの』


「そこだよそこー! 二人は慣れてるって言ってるけど、ここで用意してあげるのが男の甲斐性なの! 待っててくれ。必ず鏡をDIYしてみせる」


『タマルさーん! ミーのスイムスーツ!!』


「わかったわかった! ……というかフランクリンのそれはもう、まんま潜水服じゃないか。本体は俺と同じくらいの大きさなのに、スーツで3mはあるサイズまで膨れ上がってないか?」


『チルドシステムとアンチウォーターシステムを組み込んだせいでーす! イチさんがフェイスシールドをつけて溶接してました!』


「もはや洋品店ではないな……。イチには苦労をかけるなあ」


 色は金色。

 ついでとばかりに、背中に航行用スクリューが装備されており、手足にはモリやロープ発射装置まである。

 フランクリンはどんどんロボ化していくな。


『ピピー!』


「おお、ポルポルもいたな! そのリボン、ただのリボンじゃなくてフックになったり、ロープになったりするらしいな。ポルポル用多目的リボンだ。似合ってるぞ」


『ピポ!』


 ポルポルが飛び跳ねて喜ぶ。


「かーわいいー」


 ポタルが寄って来て、ポルポルをハグしたりしている。

 羨ましい。

 ポルポルはすっかりタマル一味のマスコットだな。


「ではこれより、カルデラ湖の迷宮を探りに行きまーす。本当は火山の迷宮だったらしいんだが、水が流れ込んで多分迷宮も水没してる。俺たちは完全な水中装備をキメたので、これによって迷宮の攻略を行います」


 おーっとどよめき、ワーッと拍手する一同。


「まあ、最初は潜水艇なので安心。乗り込めー」


 馬車から展開した潜水艇が、湖にプカプカ浮かんでいる。

 後部から乗り込み、出発進行だ。


 骨次郎が舵輪を握っている……と思いきや。

 背中にキャノンを背負ったあの影は。


『カタカタ』


『カタカタ』


 骨次郎が骨三郎キャノンに操舵の仕方をレクチャーしているではないか。

 後輩の育成を行っているんだな。

 偉いぞ骨次郎。


 ワンマンだとその人が倒れた瞬間にオペレーションが破綻するからな。

 なお、このスローライフは俺がワンマンで先導しているので、大変気をつけねばならない。

 本当に替えがいないからな!


『カタカター!』


 骨次郎が出発の合図をし、潜水艇は水の中へ。

 巨大な船が潜っても、存分に泳ぎ回れるくらいにカルデラ湖は広い。


 下手をすると、阿蘇山くらいあるんじゃないだろうか。


『どこを目指すのですかな?』


「王道なら退廃帝の城だろう。廻天将軍も迷宮の入り口に住んでた。もしかすると退廃帝もそうかもしれない」


 潜水艇を邪魔するものなどいないので、どんどん突き進む。

 何せ、この地域の危険な魔人や生き物は全部追い出したからな。

 今思えば、捕獲して売っておけばよかった……。


「到着したね。お城の中を調べてみる?」


「そうしよう」


 気を取り直して、見つめるべきは今である。

 仲間たちを率いて退廃帝の城に入っていく。


 氷ゾンビももういないので、城はガランとしている。

 調度品の数々が水の中で、浮いたり錆びついたりしている。


 狭い部屋には小魚が住み着いてるな。


『どうやってサーチしますかー?』


「そうだなー。下からゴボゴボ泡が出てるところとか無い? 地下室が迷宮に繋がってるとかよくありそうじゃないか?」


『よくあるのですかな? ふむふむ、床から泡がゴボゴボ……』


 ラムザーが首を捻りながら、床を叩いて回っている。

 俺の住んでいた世界にある創作物だと、そういうセオリーがあった気がする。

 こっちだと創作物自体が無いだろうからな。


 どれどれ、俺も床を叩いて……。


『アーウチ!』


 おっ、フランクリンが何かにぶち当たったな!

 リアクションがオーバーだからとてもわかり易い。


 振り返ると、地面から吹き出した猛烈な泡に押されて、フランクリンが天井に押し付けられているではないか。

 この泡は……。


『め、迷宮の入り口ね。凄い勢いで水を吸い込んでるんだけど』


「開きかけてるところを全開にしちゃったんだな。ところでキャロルは俺に全力でしがみつくのをおやめなさい」


『吸い込まれそうなんだから仕方ないじゃない! あんた、明らかにこういうのに引っ張られないで突っ立ってるからちょうどいいのよ』


 うーむ!

 スイムスーツ越しなのが大変もったいない……。


 ちなみにポタルがシュノーケル越しにも分かるふくれっ面でやって来て、無言で俺のもう片側にしがみついた。


 むむむっ!!

 両手に花!!


『これはタマル様、完全に拘束されてしまいましたなあ』


『ピピー』


『おっと』


 笑うラムザー。

 すぐ傍らを流されていくポルポルに気づき、サッとキャッチした。


 ちなみにフランクリンも体勢を立て直し、腕組みしながら背中のスクリューでこっちまで泳いでくる。

 ロボみたいなやつだな、雪だるまなのに。


「もうちょっとしたら落ち着くだろ。そうしたら、水没した迷宮を探索だぞ。火山の迷宮だったとしたら、全然勝手が違うことになってそうだおっぱい」


 ハーレム的状況に大喜びする自らを制御しつつ、俺は冷静に告げるのだった。

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