第73話 迷宮、降り注ぐ

 ぶいーんと外に飛び出した飛空艇。

 ばらばらと降ってくる迷宮の破片を躱しながら、安全なところまでやって来た。


 振り返ると、空の迷宮がばらばらになって崩れ落ちていくところである。

 迷宮核をぶっこ抜いたので、迷宮の形が維持できなくなったのだろう。


 赤いレンガに似た構造材が粉々になり、こぼれ落ちていく。

 島ほどもある建物が壊れていく姿というものは、なかなか見ものなのである。


 これを見ながら、みんなで飯を食った。

 ジャイアントバットの香草焼きである。


『あー、食べてたら落ち着いたわー』


 ずっとびっくりし通しだったキャロルが、ようやく人心地ついたようである。


「あっ、なんか登ってくよ」


 ポタルが何かに気付いて指さした。

 見覚えのある石が幾つか、迷宮の天井から空に向かってどんどん上っていく。


 あれは浮遊石だな。

 留めておく力がなければ、ひたすらひたすら空に上っていってしまうものなんだろう。

 次々に、ものすごい数の浮遊石が上がっていく。


「めちゃくちゃ浮遊石を使って迷宮を飛ばせてたんだなあ。何百年空にあったのか。空の迷宮の最後だ」


 感慨深い。

 まったり眺めていたが、まだまだ崩落は続きそうだった。

 見飽きたので村に帰ることにした。


『タマル様、今普通に飽きましたな?』


「絵的に見ててあんまり変わらないからさあ……」


『オー、ミーは前々からタマルさんにはポエットなハートが足りないと思っていましたー』


「いいじゃないかよー」


 ラムザーとフランクリンに突かれながら、迷宮を離れていくのだ。

 なんか地上が降り注いだ迷宮の跡で赤くなっていってない?


 ここって逢魔卿領の沖の辺りか。

 迷宮は崩れ、お魚の住処が増えてしまうだろうなあ……。


「つまり釣りが捗るってことだ」


『魚が食べられるのね! この間のひつまぶしは美味しかったわー。違うのも色々あるんでしょ? みんな天ぷらにできる?』


 キャロルがめっちゃ食いついてきた!


 そうだなー。

 羅刹侯爵の様子を見に行く前に一休みして、こっちで船でもDIYして釣りをしようか。


 逢魔卿も呼んで、みんなでバーベキューパーティーをするのもいいではないか。

 あれはDIYお料理レシピがなくてもいけるぞ。


『何か食べ物のこと考えてたわね? 絶対に美味しいやつでしょ! あたしも混ぜて混ぜて!』


「もちろんだ。みんなで食べるバーベキューは美味いぞ。俺は実は経験が無いのだが、友人がウェイウェイ言いながら川原でやってたのを覚えている。大変楽しく、そして焼き立てをその場で食うのが美味いそうだ」


『早く食べたい! たーべーたーいー!!』


「キャロルが暴れだしたよ! えいっ」


『ぎゅー』


 蔦を使わないキャロルは非力なので、ポタルにも抑え込まれてしまうのだ。

 あれ?

 よく考えると、キャロルは何ができるのだ?


 別に何もできなくても構わないんだが、今のところは飯を食うだけの人である。

 何か得意なことがあったりするのだろうか。


「なあポタル」


「なあに」


「キャロルって何か凄いことができたりしないか? いや、フランクリンも雪だるまというだけで別に特別凄いことはできないんだが」


『オー! ミーの噂をしましたねー! 雪だるまですが、ミーのストレングスは一般ピーポー並みでーす! 足はむしろスロウリィでーす! 熱いと溶けまーす!』


「おおっ! 弱点しかない!! 済まなかったなポタル。キャロルは何もできなくても全く一向に構わん」


「そお? 真水が相手なら、蔦を垂らして釣り竿の代わりみたいなことができるよ? 釣りをマスターしたら、一度に三匹くらい釣れるかも」


「それはスローライフ的には得難い才能だ」


 凄く荒事に不向きなんだってことだけは良くわかった。

 だが、よくよく考えたら俺たち一行は戦いに向いているわけではないのだった。


 俺の能力も全部スローライフ用だしな。

 ラムザーがたまたま戦えるだけの話だ。


 いかんな……度重なる荒事で、俺の頭はスローライフからハンティングライフに向かっていたようだ。

 これは一旦、頭の中をフレッシュにしてスローライフ人に戻らねば……。


 飛空艇は、ぶいーんとタマル村までやって来た。

 あっ!

 見覚えのない建物が村の中心にあるぞ。


 あそこは、みすぼらしい掘っ立て小屋があったはずだが……。

 それがこじんまりしたコンクリート作りの事務所になっている。


「あれがヌキチータ事務所か!」


『そうなんだなもし!』


 事務所から出てくるヌキチータ。


『やったねタマルさん、空の迷宮を踏破したんだなもし。到着して廻天将軍と戦うまでがハイライトだったから、迷宮はあっさりしたもんだったでしょう』


「そうだなあ。というか地上にいるのに、飛空艇上の俺と普通に会話できるのな」


『神だからなんだなもし。お陰で僕のこの世界での拠点である事務所が、立派になったんだなもし』


 飛空艇が着陸する。

 ここでヌキチータと対面しておしゃべりするわけだ。


『この土地の迷宮はカルデラ湖の底にあるんだなもし。これは急がなくてもいいんだなもし。退廃帝は捕獲して売り払われたんだなもし。それで、この土地の兄弟神は僕がやっつけたんだなもし。後からゆっくり迷宮核を取り出すんで問題ないんだなもし』


「ヌキチータの方でもいろいろ動いてたんだな」


『僕も忙しいんだなもし。逢魔卿の方の迷宮は、実はタマルさんが壊した海底神殿だったんだなもし。だからもう一回行って、あっちで迷宮核を回収して欲しいんだなもし』


「おお、ちょうどあっちに船を出して釣りでバーベキューにしようって話にしてたんだ。そのついでに取ってくるよ」


『あ、それはグッドタイミングなんだなもし! それに船は、魔人商店が新しく仕入れてるものがあるんだなもし』


「ほう、船が……!」


 ということで、仲間たちを引き連れて魔人商店にやって来るのだ!


「いらっしゃいませー!」

「ませえー!」


「船は10000ptでえす!」

「でえす!」


「よし買ったあ!!」


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