第45話 次なる舞台は山の上?

「お待たせしましたー! フランクリンさんの冷凍スーツをお仕立てしましたー」


「ブラボー!」


 もこもこした活動用スーツみたいなのが完成したので、彩色洋品店から受け取って帰る。

 そして冷凍庫からフランクリンを取り出し、スーツに放り込むのである。

 背中のチャックを閉めれば完成だ。


「どうだフランクリン」


『オー! 溶ける気配がナッシングでーす!! これならミーも外の世界で活動できまーす!!』


 フランクリン、完全体である。

 見た目は、一回り大きくなった雪だるま。

 顔のところが透明になっており、フランクリンの単純な顔が覗いている。


『いやはや、洋品店は大したものですなあ。これは、我も服を作ってもらうのが楽しみになって来ましたぞ』


「お店の中にもたくさん洋服? っていうのがあったもんね。私が着れるのあるかなー」


「あるある! またポイントを稼いで買いに行こうな。俺も新しい服を手に入れたいからな。ところで、博物館に色々寄付してきたらレシピが増えたんだが、館長が気になることを言っていたんだ」


『ほう、なんですかな?』


「変わった怪物だったら、デッドランドマウンテンというところにいるそうだ。こいつはテーブルマウンテンという、頂上が平たくなった山でな。地上とは環境が違うから、特殊な生き物が増えるらしい。で、空に近いので浮遊石が落っこちてくることもあるとか」


『ほうほう……。頂上が平たい山など想像もできませんな』


「空に近い場所ってことなんでしょ? 行こう行こう!」


 俺もやる気になっていたし、ポタルもその気だったので行こうということになったのである。


 パカポコと馬車は行く。

 退廃帝領、逢魔卿領、流血男爵領は完全に安全になったので、まったり旅行だ。

 警戒する必要もない。


 万一何かあっても、エーテルバスターキャノンでもぶっ放せば……。


『オー、タマルさん! いけませーん! エーテルバスターキャノンは封印された兵器でーす! タマルさんは指先が軽すぎるのでこれを使うのは禁止でーす』


「えー」


 フランクリンにエーテルバスターキャノンの使用を禁じられてしまった。


『まあそれが妥当ですな』


「今度私が撃ってみたい!」


『ダメ!』


『ダメでーす!』


「けちー!」


 ポタルは俺よりもずっと引き金が軽そうだからな。


 途中、逢魔卿に再会してスローライフの進展を聞いてみた。


『火を使って魚を焼いているだけだがな。美味いものだ! 兄弟神が我々に渡す食料は本当に不味くて……』


「そうかそうか……! これからも創意工夫して色々やってみてくれ。俺は料理の事は全くわからんが、塩を振ったり草とかで香りをつけたり、湯気で蒸したり煮込んでみたりしてもいいらしい」


『ふむ、ふむ……!!』


 逢魔卿が何度も頷いている。

 周囲のリセンボンたちは真剣にメモを取っている。


 彼らは自らの力でスローライフをしているのだ。

 これからも、ヘルズテーブルに彼らのような存在を増やしていきたい!


 俺はスローライフの伝道師として、ヘルズテーブルを染め上げていかねばならぬと決意した。

 けっして侵略者ではない。

 ないったらないのだ。


 次に、流血男爵領を通過である。

 すると、かつてブラッディアンたちがぶいぶい言わせていたところに、人間たちが町を作っているではないか。


 俺が通りかかると、


「あ、あの馬車は!」


「流血男爵が倒れた時、あの馬車がいたんだ!」


「俺たちを助けてくれた人も、あんな馬車に乗ってた! もっと小さかったけど」


「もしや……」


「あの御方が……」


「スローライフ王タマル様……!!」


 ワーッと歓声が上がる。

 なんだなんだ。

 俺のことが知れ渡っているではないか。


『おー!! フェイマスガイ!! タマルさん大人気でーす!!』


『そういえばこいつらをなりゆきで助けましたなあ』


「そうだったっけ!」


「俺らのことを忘れずにいてくれてていいことではないか。ここにもスローライフが広がっていくぞ。心配なのは羅刹侯爵がこっちに攻めてこないかだな」


『攻めてくるでしょうな。今はまだ、流血男爵を警戒していますが』


「ここで羅刹侯爵とやりあってもいいが、あっちは頭良さそうだろ。絶対手間が掛かる。それにこっちが得られるものが少ないからな。後回しだ」


『それがいいでしょうな。あのお方はあまりにも底が知れません。慎重ですぞ』


「こっちを舐めてきたら一瞬でゲットできるけど、慎重な相手は一番怖いな。よし、せいぜいビビらせてやろう」


 男爵領の住民たちから、石材やら土やらを大量に受け取る。

 そしてこれをトンカントンカンとやるのである。


「おい、ラムザー! 流血男爵のゲートをぶっ倒すぞ」


『よしきた! ここでもやるのですな!』


「おう。せっかくだから領土を広げてやろうじゃないか」


 二人でガンガンとゲートをぶっ叩いて粉砕する。

 その後に……。


「よし、石の門を設置だ!」


 石のタマルゲートが設置された。

 俺の顔がどどーんと彫られている。

 それだけではない。


 タマルの石像を六つくらい作って、ゲートに向かう道脇にずらりと並べておいた。


『オーウ! ここまで並ぶとちょっとキモいですねー!』


「威圧感あるよね!」


『ピピー』


 バキューンバキューン。


「おいやめろポルポル。俺の彫像はゴミじゃないぞ」

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