第35話 寒さは克服したぞ!

 もこもこになった俺たち三人。

 のっしのっしとオーロラの大地を行く。


「飛べないなあ。飛べないけどこれなら寒くなくていいねえ」


『うむうむ、ほかほかですぞー。こりゃあいい』


「おう、防寒をしっかりやれば雪の世界ってのもいいものだ」


 靴までクマ装備なので、大変によろしい。

 問題は三人とも動きが鈍くなっていることであろうか。


 そこは敵対する者が出てきたら、オブジェクトを設置して向こうの動きを止めてやるとしよう。


 周囲は一面の雪原であり、ちょっと向こうは吹雪いてて何も見えない。

 別の側は針葉樹林だな。


 パッと見回した限りでは、魔人候の城みたいなものは見えない。

 天候も見通しも悪い地域だな。

 空はどこでも大体曇ってるから、ここみたいな雪が降る空でも変わらない。


「とりあえず散策しよう」


『もがー!』


『あっ、早速何かけむくじゃらの盗賊みたいなの来ますぞ!』


「面倒くさいなあ! びっくりさせて散らしてやろう! 骨次郎! 潜水艇展開!」


『カタカタ!』


 馬車がすごい勢いで40mの潜水艇に置き換わった。

 襲いかかってきた連中はこれを見て腰を抜かした。


『ウワー』『なんじゃこりゃー!!』


 慌てて逃げ去っていく。


 一見すると、全身に毛皮をまとった連中だが、何者なんだろうなあ。

 だが、気にする必要もあるまい。


「こんな雪原でも、元気に暮らしている連中がいるんだなあ。地獄的なヘルズテーブルだが、彼らの存在がスローライフの可能性を証明してくれている」


『タマル様が言うスローライフというもの、どう考えても至極恐ろしいものにしか聞こえなくなってきますなあ』


「そんなことはない。スローライフは優しいぞ……」


 笑いながら、雪の中をザクザク歩く。

 すると、横をスーッと通過していくものがある。


「あれ? なんだろうあれは。六角形に飾りがたくさんついたような規則的な形状の、キラキラ輝くサムシング……」


 そこで俺、そいつが何なのか気付く。


「で、でっかい雪の結晶だこれー!!」


 本来なら、目には見えないサイズの結晶なのだが、退廃帝の領土では直径20センチくらいあるらしい。

 これ、絶対何かの素材になるだろ。


「ラムザー、ポタル、虫取り網構え!」


『おう!』


「はーい!」


「雪の結晶を捕まえろー!!」


 風にのって流れてくる結晶を次々にゲットしていくのである。

 いや、ふわふわという感じだが、突風が吹くと殺人的な速度で結晶は突っ込んでくるんだが。

 気を抜けば雪の結晶が刺さって死ぬ。そういうアレだこれ。


「あひゃー! あっぶなーい!」


「き、気をつけろー! 殺意高いぞこの雪の結晶ー!」


 だが、俺たちの虫取りスキルがあれば、一撃決めればピョインッと獲得だ。

 ラムザーとポタルも、10個くらい入るアイテムボックスをもらっているようだ。


『タマル様! いっぱいになりましたぞ!』


「私もー!」


「よし、撤収! ストーブ当たりながらDIYしよう!」


 そういうことになった。

 素材のままの雪の結晶では、ストーブで溶かされてしまうことだろう。

 だが、DIYしてオブジェクト化したら、その形状のまま変化しなくなるのだ。


『新しいレシピが生まれました!』


▶DIYレシピ

 ※氷のゲート

 素材:雪の結晶×10


 よしよし!

 魔人候のゲートをこいつで塗り替えてくれよう。

 試しに作ってみたら、本当に魔人候のゲートと同じサイズのができた。


 透き通ってキラキラ光ってて実に美しい。

 そしてひんやりしている。

 こいつがあると車内もひんやりしてくるので、ポタルから抗議されて格納庫に設置しておくことにした。


 ※氷のベッド

 素材:雪の結晶×5


 これは寝転ぶとめちゃくちゃひんやりするベッドだ。

 南国に行ったら使おうねー。


 ※氷の彫像

 素材:雪の結晶×5


 なんかそれっぽい彫像である。

 俺の像じゃない、これ?

 虫取り網とか構えてるんだけど。


『タマル様を知らない者が見れば貧相な彫像ですが、知っていると凄みを感じてきますな』


「褒めてるようで褒めてないよなそれ」


 最後に……。


 ※氷のベル

 素材:雪の結晶×10


 これは完成してすぐに鳴らしてみた。

 すると、ボトッという音ともに、雪だるまが転がり出てきたではないか。


「わあ、なんか出てきた!! 今までのと違っておじさんじゃないよ!」


「ベルがみんなおじさんが出てくるわけじゃないぞ。俺が作ったのは骨次郎やホネノサンダーが出てきただろう」


「そう言えば……。じゃあこの白くて丸いのもおじさんか骨なの?」


「どう見てもどちらでもない」


『なんかもぞもぞ動いてますな』


『と、溶けるうー』


「いかん! 出てきてすぐに死にかけている!!」


 喋る雪だるまだ。

 俺はこいつをゴロゴロ転がして、サイドカーまで押し出した。

 外の風に当たり、雪だるまは調子を取り戻したらしい。


『始めましてエブリワン! ミーは雪だるまです。名をフランクリンと言います! 今後ともよろしく……』


『かなり個性的な御仁ですな。雪だるまとおっしゃる? フランクリン?』


『イエス! ミーは雪の結晶が意志を得た存在です。おそらくはこの地に存在していた、堕ちたる神の仔だったと思うのですが、魔人候に敗れてばらばらにされ、かの地を漂っていたのです』


「雪だるまにドラマありだなあ」


『ミーの望みはこの土地に巣食う魔人候の排除です! ご協力ねがえますかなエブリワン!』


「ベルから呼び出した雪だるまに頼み事をされるとはなあ……」


『事が終われば、ミーはユーの食客として覇道を手伝いましょう!』


「ノー覇道、ノー。俺のはスローライフ。オーケー?」


『オー、ソーリー、オーケー』


「タマルが雪だるまとへんな言葉で喋ってるよ?」


 ちょっとトークを引っ張られただけだ。

 だが、雪の大地でもサイドカーに乗せて見張りができそうな要員はありがたい。

 俺の新たなスローライフの助けとなってもらうとしよう。


▶DIYレシピ

 氷のゲート

 氷のベッド

 氷の彫像

 氷のベル

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