第30話 水中では蒲焼きを作れないので悲しみとともに探索する

「早速蒲焼きを作るぞ!」


「やったー! ……タマル。ねえ、水の中だとご飯食べられなくない?」


「あっ」


『タマル様がこんな絶望的な顔したの初めて見ましたぞ』


「魔人候を前にしてもどんなピンチになっても絶対諦めないのにねー」


『これは生きることすら諦めそうな顔ですな。そこまで美味いか蒲焼き』


「お前らうるさいよ!?」


 散々な言われようである。


「仕方ない。飯が食えないなら神殿の探索をするしかないな」


『それが元々の目的ですからな』


 そうだった。

 再び、すいすいと泳ぎだす俺たちなのだ。


 神殿は半開放的な作りをしていて、ちょっと入ってみたらまさしく迷宮という様相だった。


「馬車もないし、水中の閉鎖空間はいやだな。外を回っていこうぜ」


『ですなあ。元々ここは地上にあったのかも知れませんな。その頃は迷宮として機能してたのでしょうが……』


「みんな私と同じように水の中を飛べるもんねー」


 ポタルからすると、飛べることはあたり前のことなので、水中を自在に泳ぎ回るのも飛ぶ、と表現するようだ。


「よし、外側を飛んでいくか」


 神殿を大回りして飛んでいく。

 なんというか、こう、地道に行動するのは初めてな気がするな。

 今までもっと、適当な手段を使ってショートカットしてきていた。


「今回は自力でショートカットだな。ツケのポイントを返せば、また新しいアイテムを買って……買って……?」


 ふと、UGWポイントを確認してみる。

 600ptある。

 ツケは別に表記されている。


 つまり、手元に600あるということ?


「戻るぞ! 魔人商店でお買い物だ!」


『タマル様、確かポイントがマイナスになっていたはずでは?』


「ツケは返す。だがツケがあるままで新たに買い物をしてしまってもよかろう……!!」


『悪い笑い方ですぞ!!』


 ということで。

 魔人商店で買ってきました!


 水中モータースクリュー!!

 でかい消化器みたいなのの腹にスクリューがついててな。

 取っ手が突き出してて、こいつを掴んでギュンギュン水中を移動できるやつだ。


 価格は……3000ptくらいした!

 これ以上ツケを増やすのもアレなので、キングバラクーダの残りの肉をあらかた売ってきたのである。

 これで俺たちはウナギを食うしかなくなった。


 楽しみだなあ!


『爽やかな顔して出てきましたな』


「あれはポイントを使い切った顔だね!」


「そんな些細なことはどうでもいいんだぞ! お前ら、俺に掴まれ!」


 ラムザーとポタルに捕まらせ、モータースクリューを起動する。

 スクリュー部分は触れてしまわないよう、カバーで覆われているのだ。

 安全、安心。そして高機動力!


 バリバリと音を立てて、スクリューが回転を始めた。

 俺たちはものすごい速度で水中をぶっ飛んでいく。


「ヒャッホウ! 速い速い!! やっぱりショートカットはたまらないぜーっ!!」


 水の抵抗もあるが、多分リアルなそれよりも随分軽減されているようだ。

 モータースクリューというオブジェクトの機能なんだろうな!

 ありがてえ。


 神殿周囲をぐるぐる回って、それっぽいものを探す。

 それっぽいものというのはつまり、素材とか、魔人候っぽいものとかだ。


 神殿のあちこちは海藻やら貝やらに覆われ……。


「ふんっ! ふんふんっ!」


「タマルが操縦しながらタモ網振ってる!」


『さてはこの水中の草や石のようなものが食べられるに違いありませんぞ』


「地上に戻ってからのご飯が豪華になるねえ! 楽しみー!」


「ちょっとポタル、これ俺の代わりに操縦して。俺は食材集めに全力を尽くす!」


「はいはーい」


「ラムザー、こいつらなら虫取り網で行けると思う。捕まえてくれ! シーフード祭りだぞ!」


『言ってる意味はやはりよく分かりませんが、ワクワクする響きであることだけは確かですな! やりましょう!』


 こうして、猛スピードで神殿の周囲を巡って探索しつつ、俺とラムザーは海の食材を集めて集めて集めまくるのである。


『レッドシェルをゲット!』

『ケルプをゲット!』

『スクイードをゲット!』

『シーアーチンをゲット!』


「赤貝と昆布とイカとウニな!」


 料理レシピがすげえ勢いで出現しているぞ。

 シーフードだ!

 シーフード祭りだ!


 だが残念なことに……。

 そろそろ、俺のアイテムボックスがいっぱいになりつつある。


「悲しいが、この迷宮ともそろそろおさらばせねばな」


『食材を集めてるだけで何もしてませんぞ』


「タマルをそのままにしてたら美味しいもの集めだけで終わっちゃうねー」


「それは認めよう。そして大きな問題がある」


「問題?」


『いつものことですな。問題しかない』


「そうだけどな! 食材ばかりを集めていると、通常のDIYレシピが集まらないんだ。つまり俺たちの生活は食生活しか豊かにならない。いや、それはそれで」


「いったん潜水艇に戻る?」


「そうしよう。潜水艇の中で飯を食ってから冷静になろう。探索どころじゃなさすぎる。この海底神殿、魔人候の領地かと思ったら廃墟みたいで、廃墟かと思ったら食のパラダイスだった」


『タマル様、絶対にこの海底神殿を作った者の意図とは違う方向で探索を進めてますからなあ。では戻って食事にしましょうぞ! 幾ら作ってくれても構いませんからな!』


 こうして俺たちは、食材を集めるだけ集めて潜水艇に帰還するのだった。

 なお、探索はほとんど進んでいない。




▶UGWポイント

 0pt(ツケ1200pt)


 DIYお料理レシピ

 赤貝のしぐれ煮

 昆布の佃煮

 イカのバター醤油焼き

 ウニ丼

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る