第14話玄米甘酒と友人(友人目線)
景持が盃に甘酒という酒を注ぐ。
甘酒という酒の名は初めて聞く、酒の匂いはしない。
白く濁っているところから濁り酒の一種だろうか。
盃に口を付け酒を口の中で遊ばせる。
ほんのりと甘い味が広がる。
味から察するにれいしゅに近いものだと思われるが、酒ではないことはわかった。
このれいしゅには米の粒が入っていない、普通は酒粕と米を使うはずだから入っているはずだけど。
その粒が入ってないからかすごく飲みやすい。
こんなに冷えているれいしゅも初めてだ。
これはいい…。
「美味いな…。冷えているれいしゅは初めてだ。」
この暑い季節にはいい酒だ。
「さすが、謙信様。よくおわかりになりましたね。ちなみに材料は米麹、玄米だそうです。」
どうりで酒特有の味がないわけだ。
景持がこの酒を持って来た理由がわかった。
こっちの酒ではない酒に乗り換えて欲しいのだろう。
普段から口うるさく酒をやめるか控えるかどちらかにして欲しいと言われていた。
「景持が持って来ることだけはあるね。いいよ、君の策に乗ろう。どこのお店?」
景持の策に乗ってもいいと思えるほどには気に入った。
こんな酒を売る店はあっただろうか。
景持は少しあきれた表情をしながら言った。
「こちらの玄米甘酒は菜さんがお作りになりました。あなた様が井戸に置いた米麹を使ったそうです。」
なんだって…。
この酒を彼女が作ったのか、私が置いた米麹で…。
驚きを隠せずにいると、景持が続けて話す。
「私も驚きました。まさかこのようなものまで作れるとは思いませんでした。それと、勝手にどこか行くのはおやめください。探すのが面倒です。」
景持の小言が始まる前に話を変えなくては…。
「どうして米麹をこんな形のものにしようと思ったんだろうね。本物のれいしゅを知ってなければこの形にしようとは思わないだろう。」
平民が本物のれいしゅを飲むのは難しいだろう。
そして、れいしゅを知っていたとしても作り方を知っている者は中々いない。
景持がため息をつきながら彼女の事を話した。
「菜さんいわく祖母と一緒に昔作って飲んだことがあるそうです。それを思い出しながら作ったのでしょう。それと、今日帰りに親子丼と大根と卵の煮付けという卵料理も頂いてきました。また食べたいと思えるぐらい、とても美味しかったです。」
昔れいしゅを作っただけでも驚きだが、卵だって…。
普通は食べないだろう物をどうして食べようと思ったのか不思議に思った。
景持がここまで言うのだ。
本当に美味しかったのだろう。
少し抵抗感があるが食べてみたいと思ってしまった。
彼女が作るもの全てに興味がわいてしまう。
「私を差し置いてそんなものまで食べたんだ。」
少し意外そうに景持が言う。
「食べたいんですか?」
食べたいか、食べたくないかで言われると食べてみたい方が気持ちとして勝っているだろう。
「食べてみてもいいかもしれない…。」
そうだ、明日また井戸に何か置こうかな。
何にしよう。
やはり、料理に使えるものがいいだろうか。
彼女と直接話して決めたい所だけど、どうやら私は嫌われているらしいからなぁ。
明日の事を考えつい楽しくなってしまう。
その様子を景持がじっと見つめる。
「謙信様。何考えているんですか。」
景持のことだ恐らく私の考えを見抜いているだろう。
「さぁね。まだ秘密。このお酒また頼めるかな?後おにぎりもお願い。」
景持にお使いを頼む。
私がご飯を頼めば景持も文句は言うまい。
お礼に彼女の欲しいものを送りたいけど、そこは景持に聞いて来て貰うとしよう。
「景持、彼女にお礼がしたいから欲しいもの聞いて来てよ。」
私が聞くより景持が聞いた方が素直に言うだろうと考えた。
「わかりました。ですが、お礼をしたいと言うと正体がばれる危険がありませんか?
今はいいとこの家の人ぐらいだと思っているようですが…。」
彼女だったら自分の正体がばれてもいい気がするが、この男が許さないか。
「だったらいいとこの家だと思わせておけばいいい。お礼の内容次第じゃない?余り高いものじゃなければ大丈夫だろう。」
「ではそのようにします。今私は時次と名乗っていますので忘れ無きようお願いします。」
そういえばそんなこと前に言っていたっけ。
「わかったよ。時次、後はよろしくね。」
景持は静かに部屋から出て行った。
私は残り少ない甘酒をゆっくり飲んだ。
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