第2話戦国時代にタイムスリップ
池に落ちてしまったのだろう、少し…いや、かなり浅いような気がするけど、お尻が水浸しになったのを感じる…。
そっと目を開けると確かに手もスカートもビショビショだったが、池ではなく小さな水たまりに尻餅をついていた。
周りの風景も紅葉がキレイなお寺から、青々した木々に変わっていて、とてつもなく暑い。
夏じゃないか…と思ってしまうほどに…。
周りを見渡しても、さっきまでいた観光客も見あたらない。
友達を呼んで見るけど一向に返事が帰ってこない…。
なんだか、怖くなってしまう。
この世界に一人のような気がしてしまい、心臓の脈が速くなる。
「もし、そこのお嬢さん大丈夫かい。」
後ろを振り向くと、40代ぐらいの着物姿の女性が立っていた。
まるで、時代劇に出てきそうだ。
「もし、もし。」
女性は心配そうにこちらを見ている。
いけない、びっくりして思考が停止してしまった。
「はい、全然大丈夫です。少し池に落ちてしまっただけですから。」
「池かい?この辺に池はないはずだけどねぇ。」
確かに先ほど、自分が尻餅をついていた場所くらいにしか水がない。
「お嬢さん、あたしの家で少し休んでいきなさい。何にもない家だけどここよりはましだと思うからね。」
私のスカートもビショビショだったのと、ここがどこかわからない今この女性についていった方がいいと判断し、よしさんという女性について行くことにした。
「すぐ、そこで料理屋をやってるんだよ。たいした物はつくれないけど。」
「そうなんですね。何ていう料理屋なんですか?」
「名前なんてないよ。旅人が少しよるだけの小さな店だよ。」
よしさんは笑いながら言った。
話ながら歩いていると町が見えてきた。
森を抜けると木造の家々が並んでいる。
けど私が知っている町の風景と違うものがそこにあった。
時代劇のセットそのものの風景が私の目にとびこむ。
いや、まさか自分がタイムスリップしたのか、まだ決めつけるのは早いと思い、よしさんに質問してみる。
「よしさん、やっぱり京都ってお客さん多いんですか?」
さりげなくここは京都かどうか探りをいれてみる。
よしさんはポカンと口開き、少し考えながら言った。
「きょうと、なんて初めて聞いたねぇ。京とか都って大体言うから、もしかしてそう言いたかったのかい?」
「そうです。そう言いたかったんです!」
笑いながら誤魔化すけど、まさか本当にタイムスリップしたのだろうか。
今、自分はどの時代にいるのか気になりよしさんにまた質問をする。
「今って何年かわかりますか?」
「今年かい?えぇっと、確か弘治2年だったはずだけどねぇ。」
ってことは戦国時代!
正直言えば実感がわかないし、これからどうすればいいかもわからない。
「ほら、着いたよ。我が家へようこそ。」
大きいとはいえないがそこには小さなかやぶき屋根の家があった。
家の中を見てみると台所とお客さんが4人ぐらい座れる場所もあり、座布団もしいてある。
「素敵なお家ですね。」
とても懐かしく、可愛くて何処かあったかいような気がした。
よしさんはぷっと吹き出し、笑顔でありがとうと言った。
「さてと、ちょっと待ってね。今、娘が着てた着物を持ってくるから。」
よしさんは立ち上がり家の奥に消えていった。
「いえ、あのおかまいなく。」
しばらくして、よしさんが戻って来て、私に着物を渡してくれた。
ありがたいのだが、自分で着物が着れないので固まってしまう。
着れないと怪しまれてしまうよなっと考える。
さて、どう説明しようか。
「あの、ですね。えぇっと。」
私が言いよどんでいるとよしさんが優しく微笑み何も言わなくても着替えを手伝ってくれた。
「あら、少し小さいかとも思ったけど、ぴったりね。」
「ありがとうございます。でも、よかったんでしょうか?娘さんのなんですよね。」
よしさんは目を細めながら静かに話してくれた。
娘が若くして病気で亡くなってしまったこと、旦那さんは戦でとうの昔に亡くなってしまったこと。
今、住んでいるのは自分だけだという。
「よかったら、一緒に住んでみないかい。行くところないんだろう?」
「どうしてわかったんですか?行くところないって。」
本当にどうしてわかったんだろう。
私何も話してないし、営業スマイルだってしっかりできていたのに。
よしさんは少し考えて、笑顔で言った。
「母の勘!」
あぁ、なるほどと納得してしまった。
二人で笑いあう。
私はよしさんのお世話になることにし、明日からこの食堂を手伝うことになった。
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