第48話 最強の布陣だ!?

 僕達は客室で待っていると領主が現れ、軽い挨拶をする。社交辞令の応酬で貴族って面倒臭いなと思った瞬間だった。


 僕も軽くお辞儀だけしておいた。子供だし、許されるだろう。そもそも習ってもいない事なんて出来るはずが無いっ!


 そして、席につくと──


 領主は口を開く。


「さて、単刀直入に聞こうと思う。ロイドと言ったね? 君には魔物を操って街を危機に陥れたという疑いがかかっている」


「「あぁ?」」


 その瞬間──


 大気は怒りに満ちた。


 これは戦闘中なのか!? と思うぐらい──


 母さんと姉さんの殺気が凄かった。これぞハウリング威圧だ!


 それにシャーリーさんも口元は笑っているが、目は鋭く見据えている。


 超怖い!


 支度をしている時と比べたら天国と地獄だよ!


 あぁ、おっぱいが恋しい……精神安定させてくれるおっぱいはどこかに無いだろうか? と錯乱した考えをするぐらい体が震えている。


 国を守る為に存在している騎士団長なんか顔面蒼白だよ!


 2人が暴れたら対応出来るよね!?


 なんたって騎士団長だもんね!?


 騎士団長って強い人しかなれないんでしょ!?


 なんとかしてよ!


 そんな事を視線に込めて騎士団長を見ると何やらボソボソと呟いていた。


【聴覚】を上げる──


「……王よ……わしの命はここまでのようです……道半ばで無念……」


 騎士団長……諦めるなよ! あんた何かあったら守るって言ってたじゃないか!?


 僕の思っている以上に──


 もしかしたら母さん達って異常な存在なのかもしれない……。そんな事が頭を過ぎる。



「「「──何事ですか!?」」」


 扉も勢い良く開き、武装した兵士や騎士団の人達が入ってくるが──


「「黙れ」」


「「「──……」」」


 母さんと姉さんの重低音ボイスに沈黙する。


 それだけじゃない。兵士さんや騎士団の皆さんが、その場で四つん這いになっている。


 さっきよりも更に怖い……だって殺気だけじゃなくて、魔力まで噴出してるし──これ絶対に『威圧』も強めてるよね?


 それらが2人分放たれている……これに耐えているのは僕と騎士団長のみ。


 領主さん、メイドさん、執事さんは白目を剥いて気絶している。



 これって貴族の特権である無礼罪適用じゃね?


 無礼罪とは無礼だと思ったら罰する事が出来る法律で上流階級は好き放題出来るシステムだ。まぁ、気軽に殺したりは昔ほど出来ないそうだけど──


 これは立派な無礼罪だな!


 どうしたもんか──




 ◇◇◇



「……ごほん……それで……先程の件だが──ひっ!? 先程の件ですが……」


 あの後、母さん達をマッサージをすると宥めてその場を収めた──


 僕の犠牲のもとに……。


 その場にいた関係者以外からは尊敬の眼差しを受けた。やっぱり皆も怖かったんだね。


 僕はこの場の英雄になったに違いない!


 まぁその甲斐あって、領主さんは意識を取り戻してこうやって話をしているんだけど……偉そうな事を言おうとすると母さん達の殺気をくらって言い直すという繰り返しだ。


 もう、領主さんは目の前の脅威からどう逃れるかしか考えていないだろう。目が泳ぎまくってる。


 これなら無礼罪は適用されないような気がする。


 シャーリーさんも騎士団長に「これはあちらが無礼ですよね?」と凍てつかせるような表情で念押ししてたし……。


 もはや、権力に屈する事は無いであろう布陣だ!



「つまり、ロイド君が今回──魔物を引き連れて操ったという報告が上がってきているわけですかな?」


 途切れ途切れに話し、言い淀む領主さんに代わり、騎士団長が話をまとめる。


 すると領主さんも首がもげるかと思うぐらいの勢いで振っていた。


「また何でそんな事に──」


 それを聞いて僕は呟く。


 って、あれか? もしかして【好感度】を1にして『挑発』使ったからか??


 なんか、あの時の兵士さんや冒険者達の視線怖かったし──嫌悪感からそういう風に思われたのかもしれないな!


 うん、冤罪だ!


「どうやら──君が魔物を連れて行った事で、そういう能力があって──街を滅ぼそうとした、という話が出ている。他にアレク殿からの報告で魔物を討伐したとあったが、それも怪しい……──と、と、と、当然私はそんな事は全く思っていない!」


 途中にまた『威圧』が放たれて領主さんは保身に走る。


「母さん、姉さん──話が進まないから抑えて」


 注意をすると2人は残念そうに頷く。


 母さんと姉さんがちくちく殺気飛ばすから話が進まないよ!


「要はロイド君にそんな力は全く無いと証明出来れば問題ないわけですな?」


「その通り。念の為、『鑑定』が付与されている水晶を用意した。無罪を証明する為に使う──」


「「それが物を頼む態度か? ──こうべを垂れて這いつくばれ」」


「「え?」」


 僕と騎士団長はその言葉に顔を見合わせる。


 何この鬼の親玉感!?


 ドン引きだよ! これ断ったら死ぬやつじゃね?!


「ぐ……ぐぬぬ……ぬぬ……お、お願い──出来ない……でしょうか……」


 いや、なんか前世のドラマで見たような土下座だな!


 土下座ってこの世界にもあったんだな!


「……ロイ、どうする?」


 母さん! このタイミングで僕に聞くとか正気か!?


「……誤解が解けるなら調べてもらった方が良いんじゃないかな? ほら領主様ももう起きて下さい」


 顔を上げた領主さんは輝いた目で僕を見ていた。


 僕は小声で「貸し一つですよ」と言っておく。


 領主さんは頷きながら立ち上がる。


「……では、済まないが──頼めるかな?」


「わかりました。ただ条件があります」


「条件?」


「はい、僕の情報に関しては他言無用です。これが守れない人はこの部屋から出て行って下さい」


「「「──!?」」」


『詐称』と『隠蔽』使っておいて良かった……だけど、まだだ! 僕には『感度操作』の身代わりになった『絶頂』があるんだ!


 絶対、他に知られたくないッ!


 これだけは譲れない──



「もし、仮に──情報を漏らしたとわかった時は──母さんが裁きます。ね? 母さん?」


 最強のカードをここで切る! 既に最強のカードは最初から場に出て活躍しているけどね!


「ふふっ、もちろんよ。ロイの情報を漏らした輩は夜道に気をつける事ね? 事実を知るのは領主と私達だけで良いでしょうし──他は出て行きなさいッ!」


 更に凄い『威圧』だな……お陰でほとんどの人が慌てて出て行ったけど──


 何故かが残っているんですけど!?




 ◆



 わしは真実を知らねばならん。


 あの魔物の大群を本当に倒したかどうかを。


 ここ数年、魔物の動向が怪しい。


 是非、戦力となるのであれば我が国に欲しい。


 それにこのアホ領主も同じ事を考えておるに違いない。


 今回、領主はロイド君のみを呼び出そうとしていた。おそらく、罪を擦りつける予定だったのだろう。


 そして領主として住民の信頼を得ようとしたに違いない。


 しかし、それをされてしまうとわしの目的に支障が出てしまうのでライラ様達を同行するように手配した。


 そして、その甲斐あって領主の企みは消えかけておる。その代わりにわしと同じ目的──『強ければ取り込みたい』に変わっているだろう。この街は戦力が元々ないからな!



 なんとしてもここに残るッ!


「アレクぅ?」


「はっ! 何でしょうかライラ様!」


 こ、怖いぃぃぃっ! かつてここまで死を身近に感じた事があっただろうか!?


 ──否ッ!


 どんな戦であっても感じなかったッ!


 何故だ!?


 そう、俺は国の為に命を捨てると決めていたからだ!


 しかし──


 このキツい『威圧』──


 心が折れそうだ!


 だが引けぬッ!


 は既に動いておる。ここで情報を得るのは必要な事──


「早く──出て行きなさいッ!」


 い、意識が飛ぶ──


 踏ん張れッ!


「──いえッ! わしは残らねばならぬ理由がございますッ! 報告書にロイド君の真偽を書かねばならぬのです! もし、ここで見れなかった場合は最悪、城に呼ばれる事でしょう」


 ライラ殿にとったら国の軍隊など蟻と変わらん、だが面倒臭い事になると匂わせるッ!


 これがわしの覚悟──


 そして、更にスキル『不屈』を使用する。


 これはどんな苦境であっても心を強く持ち──致死攻撃を受けたとしても生き残れる確率が上がるスキルだッ!


 何回も死にかけて習得した、この特殊スキルさえあれば──


 わしは負けん──負けんぞッ! この老骨──これぐらい根性で乗り切ってくれるわ!


「──では、他言無用の『魔契約』をしたらどうでしょうか? 話せば死ねば良かったと思えるような激痛とかで」


 シャーリー様は『魔契約』用の用紙を取り出す。


 ふっ、この騎士団長であるアレクは何度も死線を潜り抜けておるッ! 一度ぐらい死ぬ思いをするぐらい──


「そうですね。話さなければ問題ありませんし、もし話した場合の事も考えてにしましょう」


 エ、エレン殿ぉぉぉっ!?


「アレクさんが話さなければ問題ないんですよ。話さなければ──ね? それと領主様もね?」


 ロイド君……まさか──子供なのに情報の重要性を理解している?


「──お任せ下さいッ! このアレク──約束は必ず果たしましょうぞッ!」


 仕方あるまい……今は情報を得るのが先決。後の事は後で考える!



 その後、わしと領主は『魔契約』をさせられた後、鑑定水晶を使用する──



 ロイド君の力がついに明かされる──



「「…………」」


 表示されたスキルを見て唖然とするわしと領主。



 確かにスキルレベルはこの年にしては高過ぎるし、スキルもやたらと多い。それに珍しいスキルは確かにある……。


 しかし、魔物を大量に殲滅させるような魔法スキルはおろか攻撃系スキルはない。いや剣術はあるがレベル1……これではゴブリンが関の山だろう。



 可能性があるなら──初めて見る『魔力盾』ぐらいか?


 しかし、言葉の通りであれば魔力で盾を作る能力のはず……。


 この際、魔物の件はこの未知のスキルだったと仮定しよう。


 何故、ロイド君はここまで情報の漏洩を拒む?


 ──あっ……。


 なるほど……『絶頂』か……。


 ロイド君は話し方や、やり取りを見ている限り──聡い。きっとスキルの効果も知っておるのだろう。


 このスキルも習得条件が不明のスキル。『開花の儀』で授けられたんじゃろうな……。


 そりゃあ恥ずかしいわな……しかもやたらと耐性系スキルが多い……『双聖』の扱きを受けたらそうなるか……。


 わしは孫を見るような優しい笑みを浮かべた──



 孫は元気じゃろうか?


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