第13話 備えあれば憂いなし!?

「「「うう……」」」


「さぁ、目が覚めましたか? 晩ご飯の時間ですよ。シャーリーの魔法でもうなんともないでしょう?」


 僕達3人はどうやら意識がなくなっていたみたいだ。


 確かに調問題なさそうだ……以前経験した全身が痺れたような感じは無い。


 魔法って凄いな……。


 口の中はおかしいままだけど……。


 パワーアップしたお仕置きドリンクは『毒耐性』と『感覚操作』を貫通してダメージを与えていた事が衝撃だった。


 スキルを過信してはダメだという教訓になったな……。


 というか、これから晩ご飯だけど──味感じるんだろうか?


 僕達はしばらくしてから用意されていた食事を食べ始める。


「まだ苦い感じがする……」


「この世の物とは思えない味でした……」


 レラとフィアの気持ちは良くわかる。


 僕も『感度操作』でパワーアップ前のドリンクに対応出来るぐらいだったし……。


 2人は味を普通に感じる事が出来たみたいだ……。


 ちなみに僕は何も感じない……ダメージが大き過ぎるようだ。


 そんな事を思っていると母さんが話しかけて来る。


「さて、今回ロイ達に足りない事はわかりましたか?」


「注意力不足と知識のなさかな?」


 僕は即答する。正直、昼からの実践訓練まで時間はあった。もう少し調べてから出ても良かった。


 家の花壇にある事も、そういう細かい所に目を配れていなかった事が原因と言っても良い。


 たぶん、そういう意図があったはずだ。


 深読みしすぎだろうと思うかもしれないけど、こうやって考える事を止めると『威圧』や危険な飲み物を飲まされるからね……。


「どうしてそう思ったの?」


 母さんは昔から教える時はこうやって聞き返してくれる。本当に理解しているかの確認の為に。


 だから、僕は答える。


「まず──一つは依頼を受ける時に情報が無いと、無闇矢鱈に探す事になる事かな? これが冒険者の採取や討伐依頼なら魔物と遭遇する事になるかもしれない。つまりどんな敵がいるのかも調べる必要があると思う」


「一つという事はまだあるのよね?」


「そうだね……。もう一つは注意力だよ。今回僕達がしっかり見ていればなんとかなった訓練だし。それにどんな状況でも浮かれていれば命取りになる。冒険者は遊びでやる仕事じゃない──常に命の危険があるからね。こんなとこかな?」


 レラとフィア、シャーリーさんは驚いた表情をしながら僕を見る。


「……ロイ……」


「なに?」


「さすが私の息子だわ! お母さんの意図をちゃんと汲んでくれたのね! 普通はわからないわ!」


 ……普通じゃわからないのか……たまには僕の深読みも当たるもんだな。正解っぽいし良いだろう。


 シャーリーさんの驚いた顔はまた違う意味なのかもしれないけど……。


「ま、まぁね」


「それだけわかってたら冒険者の心構えはばっちりよ! それに──ちゃんと他の薬草も採取してるのもお母さんは嬉しいわ!」


 母さんは僕を抱きしめて言ってくれる。


 おっ、やっぱり薬草採取してたのは高評価のようだ。


「母さんが昔にそう言ってたからね!」


「今日はお母さんが久しぶりにうんっと抱きしめて寝てあげるわ!」


 うんうん、母さんが喜んでくれると僕も嬉しいな。


「もしかしてロイド君ってかなり頭がキレる?」


「シャーリーそうなんですよ! うちの子はとっても賢いんですよ? 言う事もよく聞くしとても良い子なのよ! それに──」


 母さんの僕自慢が始まってしまった……。


 声には出さないけど、言う事を聞くのは母さんが大好きなのもあるけど、大部分の理由としては例のあれを飲みたくないからだったりする。


 勉強も同じ間違えを続けると飲まされたし、必死に勉強した記憶がある。


 母さんは喜んで自慢しているから決して口には出さないけど……。


 シャーリーさんはおそらくそれを勘づいている気がする。僕を可哀想な目で見ているし……。


 そういえば、あれは何か意味があって飲まされているんだろうか?


「母さん、話の途中で悪いんだけど──あの飲み物って何か効果でもあるの?」


「……」


 何故黙るんだ……。


「……ただ不味いだけの罰? ──別に言えない理由なら別に言わなくていいよ!」


 まさか、母さんに限ってそんな事はないはずだ。昔から何か目的があって色々教えてくれていたんだ。


 うん、何か言い難い理由があるんだろう……。


 だから僕は最後に無理して言わなくて良いと伝える。


 けど、様子を見るに──


 母さんは話そうと口を動かしている。


 そして言葉を紡ぎ出す。



「あれは正式名称を『マン汁』というの……毒耐性をつける事が出来るわ……」


 飲み物の名前が酷いなっ!


 ……やはり、僕のスキル欄に『毒耐性』があったのはあの『マン汁』のお陰という事か……響きがなんか嫌だな……。


 しかし、子供に飲ませるような物じゃないと思うのは僕だけだろうか?


「……もしかしてけっこう危険な飲み物だったりする?」


「……ちゃんと薄めているわよ」


「つまり、薄めないとヤバいんだね?」


 こくっと頷く母さん。


 薄めなければならない危険物を飲ますとは……。


 レラとフィアの顔色が悪い。


 きっと飲ませた理由があるはずだ。


「ロイ……人は簡単に死ぬわ……お母さんはね……ロイがお父さんみたいに毒をもられないか心配なの……」


 まさか──


 父さんが死んだ原因って毒なのか!?


「つまり、毒で簡単に死なせないように──毒耐性を習得する為に飲ませたって事だね!?」


「そう……ロイはきっと大人になったらモテるわ……その時に嫉妬に狂った女が毒をもってくるのよ! カイルだって何度ももられたわ!」


 この『マン汁』を飲まされているのは父さんが原因なのはわかった……でも理由が僕の予想の斜め上だったけど。


 ……死なせない為というのは間違いんだろうけど。


 まぁ、確かにどんな屈強な冒険者や騎士であろうとも耐性がなければ死にやすいだろう。特に毒なんかは……。


 僕に父さんみたいな未来は来ないと思うけど、毒に抵抗する事はこの先必要なのかもしれない。


 魔物にだって毒を持っている奴もいるしね。


 母さんはきっと遠回しにそう言いたいのだろう。備えあれば憂いなし!


 シャーリーさんが、うんうんと頷いているのが凄く気になるけど……父さんの昔が気になる……。



 この後は話は終わり、レラとフィアに肩揉み10分ずつ、母さんとシャーリーさんに全身揉みほぐし30分ずつを行って、レラを家まで送った。


 マッサージ中は息子が覚醒してる為、あそこが熱すぎて堪らなかった……。


 魔法は使えないけど、この喘ぎ声の中耐えれた僕はお伽話で出てくるような大賢者にだってなれるかもしれない!


 ……はぁ……本当、勘弁して下さい……皆が僕の精神をがりがり削ってくるよぉ……。




 ◆




 子供達が寝た後は私とライラは2人でお酒を飲みながら談話する。


 本当にロイド君の揉みほぐしは気持ちがいいわぁ。


 もう少しで事ができそうなのに寸前の所で止められている気がする。


 まだ10歳だと言うのにロイド君──恐ろしい子。


 でも、今気になっているのは──


「ライラ、ロイド君はいくら何でも賢すぎませんか?」


 今日から始めた訓練は一応前もってライラと話し合って決めた内容。冒険者みたいに依頼をこなさせて失敗させる──


 ここまでは思惑通りでした。


 もちろん、ロイド君の言った事も当然ながらありましたが、こんな事を考える10歳の子供がどこにいましょうか?


 レラちゃんは境遇的にともかく、それなりに教え込んでるフィアもわかっていませんでしたからね……。


 ふと、この間ライラから聞いた事が頭を過ぎります。


 確かロイド君は幼い頃から、この危険物である『マン汁』を飲まされていた事とライラの馬鹿みたいな『威圧』を受けさせられていたと聞いていました。


 その瞬間、なんとも言えない気持ちになりました。


 きっと、罰を受けたくない一心で賢くならざるを得なかったのだろうと……。


「ロイは凄いのよ? 後は実戦と盾の使い方を訓練すれば直ぐに一人前になりそうよ!」


 この間まで危険な冒険者をさせたくないと言ってた癖に……。


「そうですね。しばらくこの調子で続けてみて、個別の訓練を開始しましょう」


「ゾルはOK出しましたか?」


「やる気満々みたいですね。むしろ早くさせてくれと言われています」


 現在の『聖天』で1番の盾使いであるゾルならきっとロイド君を一人前にしてくれるでしょう。


 私はフィア、ライラはレラちゃんを鍛えます。


 将来は若かりし頃の私達みたいになるかもしれませんね。

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