第34話 屈辱

「何ですって? お父さん、それは本当ですか?」

 と左京の元に呼び出された如月が言った。

 さすがに如月も父親で師匠でもある左京にだけは従順なふりをして従う。

 神道会館の最上階にある当主の部屋は主に似て近代的なオフィスだった。

 霊能力によって式神を使役し悪妖をやっつけるのが生業ではあるが、その為にパソコンを駆使しデータを作る。古い文献や巻物に頼り全てを学ぶが、学んだ事を保存するのはメモリーの中だった。

「そうだ、桜子は見鬼だ。しかも滅多に生まれない再生の見鬼。さらに三の位の赤狼が式神となって憑いている。能力の開花が遅かったのは個人の特質だ。だが皇城学園においてはお前に全ての権限を預けているのに、桜子の才能を感知出来なかったのはどういうわけだ? 中等部だけでも生徒の約四分の一が陰陽師の卵ではないか。揃いも揃って誰も気がつかなかったのか?」

「申し訳ありません」

「水蛇と緑鼬によると桜子はこの文献にもある「桜姫」の生まれ変わりだという」

 左京は一冊の古い冊子をぽんと机の上に置いた。

「今から二百年ほど前の安倍家の姫で優秀な再生の見鬼だったという。生まれ変わってもその能力は受け継がれるそうだ。これは銀猫も認めているから本当の話だろう」

「銀猫? あの老いぼれ猫が」

「そうだ、桜姫はずいぶんと十二神に好かれていたようだ。銀猫も水蛇も緑鼬も桜子を歓迎している。そして三の位の赤狼が姫の転生とともに眠りから覚め自ら式神として従っているようだぞ」

「式神が自ら?」

 如月が拳を握った。力が入りすぎて爪の先が白くなってしまっている。

 自分が次代に任命された時、名乗りを上げたのは下位の川姫だけだった。

 これは如月にとって屈辱だった。

 老いぼれの銀猫でさえ、如月にあくびをして背中を向けたのだ。 

「ではすぐに桜子を土御門の見鬼として登録を。その能力がどれほどのものか披露させましょう」

「うむ。優秀な霊能力者と再生の見鬼が一人でも多く欲しいこの時代だ。修行場にも行かせて修練を積ませなさい」

「はい、それに……」

「何だ?」

「桜子に子供をたくさん産ませましょう。優秀な霊能力の子を」

 左京はその案にはすぐに返事をしなかった。

 やはり人としての良心がある。

 能力者として働くのは是非にと願いたいが、その能力の為に婚姻をさせるような時代ではない。

「例えば僕の子供。どんなに素晴らしい能力者が生まれるか、考えるだけでぞくぞくしませんか?」

 如月は嬉しそうな顔で父親のデスクに詰め寄った。

「それに……そうだ! 妖体との間に子をもうけることが出来るかどうか、それも調べなくちゃなりませんね! 赤狼が自ら付き従うほど桜子が大事な存在ならば、桜子の子を産ませればさぞかし能力値の高い子供が生まれると思いませんか? お父さん」

「如月、それは賛成できんな」

「何故です?」

「お前との子なら賛成するし、土御門の為に是非、縁組みをと思う。だが、子をもうける為に実験的な妖体との婚姻など認められん」

「素晴らしく強い半妖半人間の子が生まれるかも、ですよ。見てみたくはないですか? その能力。もっとも、世にもおぞましい化け物が生まれるかもしれないですけどね」

 如月はひゃっひゃっひゃと笑った。

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