第6話 赤い妖気
愛美はふんっと桜子を睨んでおいて赤狼に声をかけた。
「赤狼由良、あなた、何者なの?」
愛美はきつい視線で赤狼を睨んだが、赤狼は少し首をかしげただけだった。
「何者って?」
「皇城学園総代表の土御門如月様からお達しが来たわ。今すぐ総代表の部屋へ来るようにと。かすかにあなたから霊波動が感じられるわ。この学園では能力のある者は取り立てられるのよ。光栄でしょう。案内するわ、ついていらっしゃい」
「かすかにねえ……今からカフェ行くんだけど。昼休みだし」
と赤狼が答えた。
「ここでは我々土御門に口答えも反抗も許されないぞ」
と潔が言った。
「くだらねえ」
と赤狼が言い、桜子ははぁと息をついた。
「赤狼君、逆らわない方がいいわよ? 土御門さん、怖いんだから」
と真理子が赤狼をつついて小声で言った。
「逆らったらどうなるわけ? 死刑にでもなるの?」
と赤狼がふざけたように言ったので、愛美の取り巻きがざわめいた。
口々に赤狼の態度を責め始めたので、真理子は口をつぐんだ。
とばっちりで自分まで反逆者のレッテルを貼られるのは怖い、と思ったからだ。
「お前生意気だな! ここで土御門にそんな態度を取ったらどうなるか教えてやるぜ!」
潔が赤狼に向かって人差し指を突きつけた。
「ふざけんなよ、ザコが」
と赤狼が舌打ちをしてから小声でそう言った。
「ねえ、真理子、先にカフェに行って席取りしててよ。土御門には関わらない方がいいわ」
と言ったので、真理子は軽く頷いて小走りに去って行った。
「最近の土御門はずいぶんと偉そうだな。視たところザコばっかりのようだけど?」
と赤狼がからかうような声でそう言った。
「貴様!!」
と叫んでおいて、潔はまじないのような呪文をもごもごと口にした。
「へえ、やんのかよ? 俺は優しくないぜ?」
ぶわっと赤狼の攻撃的な気が立ち上り、周囲の者を威嚇するように囲む。
その瞬間に勝敗は決まった。
愛美を始め、その場にいた土御門の者は皆がその妖気とも言える禍々しい気に身構えたが抵抗する間もなかった。体中の力が抜けて立っておられず地面に膝をつく。
赤狼の放った気をまともにくらった潔は真っ青になり気を失いその場に倒れ込んだ。
「赤狼君!」
桜子が赤狼の制服のブレザーの裾を引っ張った。
「何?」
振り返った赤狼の瞳が赤く光った。
「あなた、何者なの? これは……霊的能力じゃないわね。まるで妖気」
赤狼は桜子にけっけっけと笑ってからまた土御門一同に視線を向けた。
中等部統括を任されている土御門愛美でさえ、赤狼の妖気にすでに指一本動かせない。
赤狼の瞳に魅入られ地面に平伏してしまい、身体が硬直してしまっている。
「何故……この私が」
愛美は悔しそうに唇を噛んだ。
土御門本家よりこの学園の中等部で総括を任命されている人間である自分が一瞬で手も足も出ない状態とは愛美には屈辱だった。
愛美達がかすかにと感じた赤狼の霊波動はとてつもなく強大な物だった。
「赤狼君!」
という桜子の声に赤狼はふっと力を抜いた。
その瞬間に愛美とその取り巻きの身体がふっと自由になった。
「俺に関わるな」
と赤狼は愛美に言い放った。
「ま、待ちなさいよ!」
震える膝を奮い立たしながら愛美は立ち上がった。
「何者なの?」
「さあね。土御門には興味ねえって事だけは確かだ。行こうぜ、桜子」
「へ?」
今日会ったばかりの人間に桜子と呼び捨てにされてた事に拍子抜けしながらも、桜子は歩き出した赤狼の後を追った。
「ちょ、ちょっと赤狼君、いいの? 土御門相手にそんな態度」
さくさくと歩く赤狼の背中に桜子は声をかけた。
「かまうもんか。ここへは人を探しに来ただけだ。土御門なんざ興味ねえな」
「へえ、でも、あなた強いわね。愛美さんは中等部の中じゃ最強の霊能力保持者って噂よ」
ランチ袋を抱えて歩きながら桜子が言った。
「中等部の中じゃ最強? あれで? ってか、桜子の能力はカウントされてないのか? 用途は違えどお前ほどの能力ならあいつら束になっても適わないだろうな」
「……どういう意味?」
「こっちが聞きたい。何故、土御門を名乗りながらも一族には名が連なっていないんだ? 霊能力の高さが一族の中の立場を決定するのなら、桜子は上位につくべきだ。桜子の霊能力が皆無だなんて事をやつらは本気で信じてるのか? 桜子の霊波動を見極める能力さえないのか? 今の土御門はそんなに弱体化してるのか……」
「それは……でも、赤狼君、土御門とはどういう関係が……?」
歩きながら赤狼はこの上もなく優しい笑顔を浮かべて桜子を見た。
「そ、そういえば、人を探しに来たって…誰を探しているの?」
普段ふれ合うことのないイケメンの素晴らしく優しい笑顔に桜子は赤くなった。
「もう会えた」
「そうなんだ。誰に会えたの? 幼なじみとか?」
赤狼は足を止めて桜子の方へ振り返り、
「桜子を探しに来た」
と言った。
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