第1008話 世界を変えうる者
「さあ覚悟しなさい、世界を乱す闇の者たち! 私は星野エトワール!」
「同じく、花森ミヤビ!」
「同じく、雪崎ヒカリ!」
「「「悪しき魔物は、私たち光の使徒が打破します!」」」
しっかりタイミングを見計らって、名乗りを上げる光の使徒たち。
「そしてわたしが――――世界を変えうる者だ」
最後にしれっと、カッコつけた名乗りを上げるメイ。
「きますよ! 世界を変えうる者!」
白の軽鎧に白のコートをまとった、白金の短髪少女。
可変する光の武器を剣にした、星野エトワールが叫ぶ。
強烈な追い風に押される形で飛び込んでくるのは、『緑紫』に輝く結晶を胸元に埋め込んだ黒獅子。
急速に生成された紫結晶の豪爪を、先頭のメイに振り下ろす。
「はっ!」
これを身体の傾け一つでかわしたメイ。
「【アクロバット】!」
そのまま逆の前足で放つ二撃目を、バク転で回避。
だが黒獅子の攻撃は続く。
紫結晶によって伸びた尾の、回転撃が迫り来る。
描かれるエフェクトラインは『橙』だ。
「ふっ、劇毒を含んだ攻撃か……」
『世界を変えうる者』と呼ばれて気分上々のメイ、ちょっと口調をカッコつけたまま、難なくしゃがんでこれを回避。
当たれば炸裂して『劇毒』をもたらす一撃も、問題なくかわしてみせた。
二度のバク転で、生まれた距離。
すると黒獅子は、その大きなアギトを開いた。
そして結晶が『橙緑』に輝き出す。
「これは毒の風砲弾……! 回避を!」
クール顔を作るメイの言葉の直後、放たれたのは【毒爆風砲】
嫌な橙色の風弾が、こちらに向けて放たれた。
足の速いエトワールは、すぐさま回避行動を取る。
白銀の盾とランスを持った花森ミヤビも、盾を構えた。
「【ルミナスシールド】!」
白に黄色と橙の束が混じった長いポニーテールとフードマントを、風が揺らしていく。
「【ホーリーストライク】!」
ミヤビの盾に、守られた雪崎ヒカリ。
大きな白魔女帽の魔導士は、すぐさま魔法での反撃に成功。
こうして見事、先制ダメージを与えてみせた。
「さすが。見事な先読みと身体さばきだ」
メイの驚異的な戦闘能力に、思わずこぼすミヤビ。
「ふふふ、これが『世界を変えうる者』の――――力だす」
「力だ」と「力ですっ」が、つい混ざってしまって生まれた「力だす」
良いスタートを切った四人。
メイの『世界を変えうる者』口調以外は、完璧だ。
「グオオオオ――ッ!!」
二度ほど転がって体勢を直した黒獅子は、すぐさま攻撃体勢に入る。
「「「「ッ!?」」」」
結晶が『紫橙』に輝くと、地面から次々に突き立つ結晶塊。
バラバラの高さの結晶が、メイたちを取り囲むように立ち、黒獅子の姿を隠してしまう。
「……これは厳しいですね」
辺りに視線を走らせながら、息を飲むエトワール。
ミヤビが盾を持つ手にも、力が入る。
「門の方向から、時計回りで王都の方へ……来るっ!」
しかしこの動きを『足音で判断』したメイは、すぐさま位置を通達。
直後、黒獅子が紫結晶をへし折りながら飛び掛かってきた。
砕けた紫結晶が舞い散る中、特攻への反応は本来とても難しい。
「【フラッシュジャンプ】!」
だが前もって方向まで知っていれば、恐れるほどのものではない。
エトワールは、これをしっかりと跳躍でかわす。
すると黒獅子は長めの制動を取った後、振り返って紫結晶を全身に展開。
そのまま爆散させ、無数の結晶片を吹き飛ばした。
「「「「っ!?」」」」
さすがに初見での回避は不可能。
盾を持つミヤビ以外は、防御を選択してダメージを軽減。
だが、黒獅子の結晶片攻撃はこれで終わらない。
「これはっ!!」
思わずエトワールが驚愕する。
黒獅子の身体を新たに覆う紫結晶に、橙の光が灯る。
すると突き立ったままの結晶塊たちも、橙色に輝き出した。
嫌な予感は当たる。
黒獅子のまとった結晶片と、付近の結晶塊から弾け散る結晶片。
全方位から放たれるのは、劇毒を含んだ散弾攻撃だ。
「この密度で、劇毒を使うのかよ!」
「これはさすがにキツいね……っ!」
ほぼ全方位からの攻撃。
それは盾持ちのミヤビですら、諦めざるを得ない状況。
しかしメイにとっても、粉砕攻撃は二度目。
対処法はすでに、考案済み。
「【グリーンハンド】【豊樹の種】!」
すぐさま自分たちを中心に、小さな密林を生成。
全方位から迫る劇毒破片を、厚い木々の輪で防いでみせた。
役目を追えた木々は自然とひしゃげ、道を開いていく。
「「「「ッ!?」」」」
しかし黒獅子は、この瞬間を狙って動いていた。
緑の輝きによる、高速移動。
その狙いはエトワールだ。
「【チェンジアームズ】!」
回避からの反撃を狙い、魔力の剣を生み出し構える。しかし。
攻撃にくると思わせてからの、直前停止。
黒獅子は大きく息を吸う。
【咆哮】は、付近一帯のプレイヤーを強制的に硬直させる一撃だ。
「マズいです……!」
「これはさすがに、どうしようもないね……っ!」
必死に防御態勢を取る、エトワールとヒカリ。
「グオオオオオオ――――ッ!!」
「がおおおおおお――――っ!!」
「「「ッ!?」」」
しかし負けじとメイも、【雄たけび】で反撃。
二つの音波攻撃の可否を決めるのは、当然その威力だ。
【咆哮】をかき消された黒獅子が、動きを止めた。
これを見たエトワールは、すぐさま動き出す。
「【シャイニングステップ】!」
輝きを残す華麗なステップで迫り、手にした無形の光剣を振り払う。
「【シャインセイヴァー】! ミヤビ!」
光の粒子を散らしながらの斬り上げ、そして振り降ろし。
「【ディバインスラスト】【大旋回】! ヒカリ!」
続いて烈風と共に放たれるミヤビの突きが刺さり、そのままランスの回転撃で弾く。
「【ホワイトノヴァ】!」
そして広がる白光の爆発が後を追い、黒獅子を吹き飛ばした。
見事な連携で、黒獅子のHPは2割強ほど減少。
「…………」
一方メイは、【雄叫び】という野性味あふれる自身の行動に、手で口を押えたまま硬直していた。
光の使徒三人に持たれていた、『世界を変えうる者』というカッコいい印象。
それが『野生』に上書きされてしまうかもしれない自身の行動に、震える。
「もっとカッコいい、『がおー』の言い方があったかも……」
レンが聞いたら「どう考えてもカッコ良くはならないと思うけど」と言いそうなことを、真剣に悔やむメイ。
「まさか三連続の攻撃を、全て防いでチャンスを作り出してしまうとは……」
「綺麗に全部、押し返してくれたね」
そんな中、ミヤビが一言。
「これが、これが『世界を変えうる者』の力だというのか」
「っ!?」
聞こえた言葉に、メイは思わず尻尾をピーン! と伸ばして歓喜。
「フフフフフ」
妖しい笑いを演出しながら、三人の前へ。
思わずもれそうになる「えへへ」という笑みを隠し、クールな面持ちを作り直す。
「その通り。これが、これこそが――――世界を変えうる者の力だす!」
気合を入れ直したメイ、やっぱり「力だ」と「力ですっ」が混ざる。
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