第614話 鳳の新たな歴史
ジュンシー・ラウが倒れ、活性化していた龍穴の力が弱まっていく。
すると鳳国の兵士たちの狂化が解け、正気を取り戻した。
「最後はすごかったぽよー!」
「あの大技、メイちゃん回避でも防御でもなく駆け抜けていくんだもんな……!」
「アサシンちゃんがつないで、闇の使徒ちゃんの【フレアバースト】連発も最高だったぞ!」
王宮兵士の増加が止まったところで、メイたちの戦いを見ようと集まってきた参戦プレイヤーたち。
三人そろっての戦いを始めた後から、見学を始めていたようだ。
「皆さんっ! ありがとうございましたーっ!」
「「「おおおおおお――――っ!」」」
敵兵たちを食い止めつつ、ジュンシーを打倒しろというクエスト。
各所で敵を止めてくれていた参戦プレイヤーたちに向け、ブンッと頭を下げるメイ。
この場所への道を開いてくれていたことにレンは杖を上げて、ツバメは折り目正しく頭を下げることで感謝を伝える。
「このレベルのボス相手に、HPが残ってるからアーマー状態で突き進むって、できるのはメイくらいね」
「本当ですね」
参戦プレイヤーたちも、大きくうなずく。
事実、他プレイヤーではHPを削り切られてしまっていただろう。
奥義である範囲攻撃の中を真っ直ぐ走ってくるメイという状況は「相手がプレイヤーだったら震えあがってるな」と、皆大笑い。
「黄龍の加護を得たジュンシーに、勝ったのだな……!」
そんな中、驚きと共にやって来たのはファーランを連れたシオン。
「狂化した兵たちも正気を取り戻し、侵攻は止まった。これで再び戦乱の火を燃え上がらせるというジュンシーの野望は潰えた! 天子様たちも無事だろう!」
そう言って、うれしそうに笑う。
「君たちが鳳に来てくれたことで、運命が変わったんだ」
「……本当に、鳳が変わろうとしてんのか」
ファーランも、戸惑いながらつぶやく。
「そろそろ王様たちが帰ってこられる時間だな。見に行こう、新たな時代の始まりを」
「はいっ!」
そう言って歩き出すシオンに、続くメイたち。
参戦プレイヤーたちも、その後を追って街へと繰り出していく。
◆
メイの巨岩が目印になった王宮から鳳の街へ出ると、住民たちはすでにざわめき出していた。
どうやら正気を取り戻したフェイ・リンやガオウが、あらためて働きかけていたようだ。
無事に和平を締結して戻ってきた王たちを迎えるため、住民たちがどんどん大通りに集まってくる。
パレードのような状態になってきた鳳の街に、合戦クエストを勝利で終えたプレイヤーたちも集合。
賑やかな光景の中、馬車が街へ入ってくる。
その扉を開けて身を乗り出した天子が、メイを見つけて手を上げた。
「メイ! 今帰ったぞ!」
「おかえりなさーい!」
駆けつけてくる天子を抱き留め、そのままクルクル回るメイ。
その姿に「おおおお……っ」と、感嘆の息をつくプレイヤーたち。
「……大きな、戦いがあったようだな」
そんな中、王と教育係は黄龍の目覚めと反乱を伝令に知らされていたのだろう、神妙な顔つきで馬車を降りてきた。
「しかし、鳳は無事だ」
「兵たちも、慌てて戻ってきているようですな」
先導の衛兵たちが自然とスペースを作り、王は住民たちの前に立つ。
ざわめきが止まり、皆が王の言葉に耳を傾ける。
「鳳の皆、先ほど……隣国との和平を締結した」
「「「おおおおおおおお――――っ!」」」
その言葉に、広がるざわめき。
「これで長きに渡る戦いの日々は終わりを迎えた。もう戦火の影に怯える必要もない」
「ずっと戦線になっていた区域は、そこの住民はどうなるんだ!?」
思わずファーランが、身を乗り出して問いかける。
「幾度となく敵の攻撃を受け、いつしか荒れたままとなってしまった区域には、いち早い再建を約束する」
ファーランが「おお……っ」と、歓喜に息を飲む。
「新たな時代の始まり。ここで皆に紹介しておこう。鳳国を守る将軍となった武術家、シオンだ」
「「「おおおおおお――っ!」」」
静かに頭を下げるシオンに、わき立つ拍手。
街の衛兵長として長らく務めていたこともあり、顔を知る者が多いようだ。
「この度の事件でも、シオンは動いてくれていたのだろう?」
「はい。ですが私よりも大きな働きをしてくれた者たちがいます」
そんなシオンの言葉に、王は大きくうなずいた。
「実は和平に向けての交渉も、大きな危機の中にあった」
拍手が収まってきた頃、王は真面目な面持ちで語り出した。
「だがそんな危機に、このシオンと共に立ち向かってくれた冒険者たちがいた。今こそ紹介しよう」
そう言って王は、メイたちに歩み寄る。
「そう、この者たちが――」
そしてその手を、三人に向けた。
「大きな危機を迎えていた鳳を、我らを救ってくれた――――英雄だ!」
「「「おおおおおおおおおお――――っ!!」」」
鳳の住民と参戦プレイヤーたちが、今回の大きなクエストのエンディングに歓声を上げる。
わき立つ鳳の大通りに、鳴り響く拍手。
魔導士はここぞばかりに魔法を撃ち上げ、エフェクトで空を飾る。
並ぶ建物の窓には、紙吹雪を舞わせる住民たち。さらに。
「レンちゃんツバメちゃん! あれ!」
メイが天を指さした。
そこには龍の顔を持つ、黄金の鹿のような動物が空を駆けていた。
「麒麟ですね。良き治世が行われる時に現れるという神聖な霊獣です」
「すごーい!」
「なかなか豪華なエンディングになったわね」
「はい、とても賑やかで楽しいです」
笑い合う三人に、向けられる歓声。
その盛り上がりは、賑やかな鳳の大通りをさらに騒がしくする。
こうして鳳に潜んでいた大型クエストは、メイたちの手によって最高の終わりを迎えたのだった。
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