第517話 メイちゃんのメイドカフェⅠ
「そこはかとなく……野生っぽくないかな?」
「テ、テーブルとかイスが素材をしっかり感じさせる木製だから、そう見えるんじゃないかしら……?」
「可愛い作りのログハウスというのも、あると思います」
「むむむむ」と、その野性度合いに疑惑の視線を向けるメイ。
「でも、可愛さもあっていいじゃない」
「間違いありません。スカートを短くした制服もアクティブでいい感じ。メイさんの元気さと可愛さがとてもよく引き立っています!」
「えへへ、ありがとうーっ! こういう制服も元気な感じでいいよねっ」
そう言ってツバメと一緒に、笑い合うメイ。
「時間ね。そろそろ行きましょうか」
レンの言葉に、ログハウス二階に作られた階段を降りていく。
「わあ……」
そして、一階店舗フロアの光景に驚く。
「これは……すごいわね」
「驚きました」
スイスの山間に立つログハウスのような可愛い雰囲気のカフェは、広い芝の前庭にもテーブルがたくさん並んでいる。
気持ち良く晴れたラフテリア山間部の一角には、すでに満員の客が詰め掛けていた。
「それでは、えへへ……メイちゃんのメイドカフェ、開店ですっ!」
ちょっと恥ずかしそうに宣言したメイ。
集まった客たちは、待っていましたとばかりにオーダーを開始した。
◆
店では『調理』に時間がかからないようになっているため、オーダーはサクサク通る。
「「「かわいいーっ!」」」
円形の席に集まった女子冒険者グループが、尻尾を振りながら駆けるメイに歓声をあげる。
「おおー、あれが噂のメイちゃんか……っ」
「元気、可愛い、マジで強い。そしてめちゃくちゃ……野生的なんだよ」
「はうっ!」
そして別の一団のそんな一言が耳に入って、メイは思わず転けそうになる。
それを見て、クスクス笑うレン。
「おまたせいたしましたっ! こちら【ソードバッシュソーダ】と、【クマさんパンケーキ】ですっ。あっ! メルーナちゃん!」
「どもー」と手を上げたのは、クルクルの長い白金髪と濃紺の制服、口元の隠れるオレンジのマフラーが目印。
クインフォード魔法学校で共にクエストに挑んだ、メルーナ・ラブウェルだ。
「魔法学校はどうっ?」
「メイたちの活躍の後、みんな新たなクエストに夢中。すごく賑やか」
「よかったー」
「ワクワクする展開がー、いっぱい起きてるー」
魔法学校の世界観に完全にハマっていたメルーナにとって、今の賑やかな状況は楽しいようで、すごくにこやかだ。
「さすがメイちゃんですなぁ」
そんなメイたちの会話を聞いて、隣の席から声をかけてきたのは、雪の街ウェーデンで戦ったトップパーティの一角。
子供と間違われそうな外見をした長い桃髪の少女、なーにゃ。
「なーにゃちゃん!」
『ドール』と呼ばれる二体のホムンクルスを連れた彼女は、相変わらず気の抜けた感じだ。
「こんにちわぁ。メイちゃんたちがカフェをやるって知って、慌てて応募したの。倍率が高くてドキドキだったわ」
穏やかにほほ笑むのは、長い黒髪にメガネをかけた素敵なお姉さんことシオール。
どうやら希望者のあまりの多さに、席は抽選制になったようだ。
「メイちゃんやツバメちゃん、レンちゃんがこんな可愛い格好で駆け回る。それだけで来店する意味があるのだよ」
「新システムに加えてこの可愛さですもの、人気で当然ねぇ」
「いいなぁー。こんなカフェあたしもやりたーい! ローチェもこーいうの得意なんだけどーっ!」
長く淡い白金の髪を水色のリボンでとめ、紺色の【魔法学院制服】から目立つくらいに太ももを出したお姉さん。
普段はふざけているが、キレて拳を振り回し出したシオールの抑え役であるローチェも一緒だ。
「ローチェさんでは少しあざとすぎるのですな。メイちゃんのように自然でないといけないのですよ」
「コンセプトカフェ感が強すぎてしまうわねぇ」
「ちぇーっ。魔法学校制服カフェだって、かわいいよねーっ?」
【雪狼シャーベット】を口に運びながら足をパタパタさせるローチェがウィンクすると、メルーナはこくこくうれしそうにうなずいた。
「メイ」
そこにやって来たのはレン。
「あっち」と指さした先にいたのは、一人の商人。
「来ちゃいました!」
「ああーっ! マーちゃん!」
メイたちが初めて参加した大型の対戦イベント、ヤマト天地争乱において圧倒的不利を強いられていた地軍の仲間だ。
「すごいですね! メイさんたちがとにかく可愛いと評判ですよ!」
実は冒険中に手に入れた素材になりそうなドロップアイテムなどは、レンがマーちゃんに売却してもらったりという流れができている。
そこで今回は、ツバメが問いかける。
「そういえば、先のクエストでこんなものを手にれたのですが……」
「【ウサギの前歯】ですか! これは少し、思い当たる節がありますよ」
どうやら、ちょっとしたヒントがもらえそうだ。
こうしてワイワイしながらも、仕事を進めていくメイたち。
見ればグランダリア大洞窟で召喚獣の確保を手伝った、羊のようなモコモコ装備少女もやってきていた。
「皆さんのおかげで、すくすく育っています」
【クジラさんブルーカレー】を食べながら、嬉しそうにそんな報告をする。
やはりただ新しいシステムが始まるというのではなく、イベントにして広めるという作戦は良かったようだ。
しっかりと作られた『味』の感触も好評。
「そのうちでいい」と新システムの利用を先送りにしていた者たちも、メイたちの様子を見て始め出している。
「オーダーおねがいしまーす!」
「こっちもおねがいします!」
「こっちもー!
そんなこともあり、客は次々に注文を出してくる。
美味しいものをメイたちが持ってくるとあれば、頼まない理由はない。
一気に増えたオーダー品に対し、メイたちはスキルを使い始めることにした。
「【加速】【壁走り】」
「おおっ!」
高速移動スキルでもミスはなく、見事な動きを披露するツバメに観客たちが歓声をあげる。
「【ラビットジャンプ】からの【アクロバット】!」
イタチのいーちゃんと共に駆けていくメイは、華麗な【アクロバット】を挟み視線を独占する。そして。
「あ、あの! 魔法学校特別号を見て来ました! 闇の使徒に入るにはどうしたらいいのでしょうか!」
「入らない方がいいわ」
「やはり……私のような未熟者では……」
「そういうことじゃなくて、後で地獄だと気づくことになるの」
「もしかして、私の事を心配して……っ?」
「多分心配の方向性がズレてるとは思うけど。とにかくやめた方がいいわ! 闇の使徒について調べるのも禁止! 真っ直ぐに冒険を楽しんで! お願いだから!」
一方レンは、早くも装備を黒っぽくし始めている少女をしっかりと制止。
「魔法学校の世界に興味があるのならー、ぜひ……!」
そこをすかさずメルーナが勧誘する。
飲食のオーダークエストは慣れているため、素晴らしい客さばきを見せるメイたち。
そしてそんなメイドの華麗な動きにまた、プレイヤーたちが盛り上がる。
「せーのっ!」
「「「メイちゃーん! オーダーおねがいしまーす!」」」」
「はーいっ!」
入れ替え制で進む『メイちゃんのメイドカフェ』は、まだまだ忙しい。
メイたちがメイドクエストを受けたことで始まったエルダーブリテンの盛り上がりと、それによって決まった新システムのお披露目。
どうやら運営が予想したよりも大きく興味を集め、企画を盛り上げることに成功したようだ。
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