第500話 最初のクエストです!

「私の魔法薬を盗んだゴブリンたちを、捕まえて!」


 魔女のクエストは、逃げたゴブリンたちの確保。

 魔法薬を飲んだ1匹目のゴブリンは、姿をウサギに変えた。


「ツバメはウサギをお願い! ゲージは出てないから多少荒っぽくても大丈夫だと思うわ!」

「はいっ! 【疾風迅雷】【加速】【加速】!」


 草むらを逃げるウサギは、そもそも見つけにくい。

 ツバメは小回りを重視して、【疾風迅雷】で細かな【加速】を繰り返す。


「今ですっ!」


 接近して伸ばす手。

 しかしウサギは見事なターンで潜り抜ける。


「低い位置を速く動く対象は難しいです……っ!」


 小動物ならではの難しさに息をつくツバメ。

 しかし同時に思いつく、一つの対処法。

 反応も移動も速いメイに、敵プレイヤーが打つ手は基本『この形』が多い。


「【加速】【投擲】!」


 距離を詰めて放つのは【雷ブレード】

 接近されたことで慌てたウサギは、急停止して方向転換。


「【加速】【跳躍】!」


 そこを狙っての飛び掛かり。

 するとウサギは、大きなジャンプで逃げを打つ。

 それはウサギの必殺回避と呼べる行動だ。しかし。


「その大ジャンプは、メイさんを見ていれば予想できますっ!」


【ラビットジャンプ】を間近で見続けてきたツバメは、最後の逃げスキルとして大ジャンプを使う可能性を考慮していた。


「跳ばしたところ狙うのは、定番の流れです! 【エアリアル】!」


 追いかける形の二段ジャンプで追いつくと、ウサギの身体を両手でつかんだ。

 そのまま静かに着地を決めて、「ふう」と小さく息をつく。


「捕まえました」


 ツバメは見事、逃げたゴブリンの1匹目を捕まえてみせた。

 一方、1匹目をツバメに任せたレンたちは2匹目のゴブリンを追いかける。

 魔法薬を飲んだ2匹目のゴブリンは、鳥に姿を変えて空へ。


「マリーカ、お願い!」

「【霊鳥乱舞】」


 ゴブリン鳥は迫る光鳥を必死に回避する。

 小回りのきき方は、なかなかのものだ。


「空を飛んで逃げる相手は一度逃したら厳しくなるわ! もう一回お願い!」

「【霊鳥乱舞】」


 連続で放つ範囲殲滅魔法を、回避し続けるのは難しい。

 もはや弾幕となった魔法攻撃。

 いよいよ避け切れなくなったゴブリン鳥に光鳥がかすめ、空中姿勢を崩したところをレンが狙い撃つ。


「ここっ! 高速【誘導弾】【フレアアロー】!」


 今しかないというタイミングで放つ、決め撃ちの炎矢。

 だがゴブリン鳥が姿勢を立て直す方が、わずかに早い。

 炎矢はスレスレをすり抜けていく。


「失敗!?」


 レンは思わず「しまった」と、唇を噛むが――。


「【ソフトリフレクター】」


 逃げ去ろうとするゴブリン鳥の前に現れた四枚の魔法壁が、炎の矢を跳ね返す。

 そして反射しても、誘導の効果は効いたままだ。

 炎矢はそのまま、ゴブリン鳥にヒットした。


「今度こそっ!」


 それを見て駆け出したレンが、ジャンプでゴブリン鳥をつかみ取った。

「やるじゃない!」と興奮気味のレンに、ちょっとうれしそうにほほ笑むマリーカ。

 こうして2匹目のゴブリンも無事捕獲。


「「待てーっ!」」


 メイとアルトリッテは、3匹目のゴブリンを追う。


「【ハードコンタクト】!」


 聖騎士らしからぬ泥臭いタックルでゴブリンを捉えにいくが、逃げた先にあるのは湖。


「ブハッ! 湖の中だと!?」


 水に突っ込み飛沫を上げたアルトリッテは、思わず声をあげた。


「くっ、3匹目は諦めた方が良さそうか……っ!?」


 3匹目のゴブリンはなんと魚に化けて、そのまま湖に潜っていく。

 経験の長いプレイヤーは、多くがこの時点で3匹目を諦めるだろう。


「【ラビットジャンプ】!」


 しかしメイは、特に難しい状況とは感じない。

 きれいな姿勢で湖に飛び込むと、スキルを発動。


「【ドルフィンスイム】!」


 そのまま湖の中を追いかけていく。

 透明度の高い水の中とはいえ、水草の合間を縫うような逃げ方はあまりにやっかい。

 本気で捕まえにいくなら、水棲系の従魔が欲しいところだ。


「おおっ、なんと見事な泳ぎだ」


 だがメイは、湖に棲んでいる魚にも負けない泳ぎを披露する。

 別種の魚の間を泳ぐことで、間違えた個体をつかませる罠にもまるで引っかからない。

 ただの一度も惑わされることなく、華麗な泳ぎでゴブリン魚を追いかける。


「ッ!?」


 そんなメイの視界を塞ぐように現れたのは、大型の淡水魚。

 視線を強引に遮ることで『見失わせる』という、厳しい仕掛けが用意されていた。


「……あの子!」


 それでも、逃げるために動きが荒いゴブリン魚をメイの目は逃さない。

 一気の距離を詰め、ゴブリン魚に手を伸ばす。

 そして目の前に迫った木片を避けようと進路を変えた瞬間を狙い、つかみ取る。


「いやったー!」


 それこそイルカのように水中から飛び上がってきたメイは、ゴブリンの化けた魚を手に湖畔に着地。


「おおっ、見事だー!」

「うわっ!」


 着地と同時に、メイの手からぬるりと抜け出すゴブリン魚。


「ぬはっ!? 【ハードコンタクト】ーっ!」


 それを見たアルトリッテは、大慌てでタックルスキルを使用。

 大きく水飛沫をあげた。


「アルトちゃん!」

「……むはははは! ちゃんと捕まえたぞ!」

「やったー!」


 メイがパチパチと拍手を送る。

 湖に逃げ込もうとした魚をギリギリでつかんだアルトリッテは、歓喜に拳を突き上げた。


「……シンプルだけど、難しいクエスト」


 やって来たのは、『不動』の二つ名を持つマリーカ。


「まったくだな! メイたちがいなかったら、どうなっていたことか」


 猫のようにブルブルブルと身体を振って水を飛ばすメイを見ながら、「二人だけでは一匹も捕まえられていないな」と笑い合う。


「ゴブリンどもめ、お前たちは私の大切な魔法薬を奪ったのだ。これから我がもとでたっぷりと働いてもらうぞ」


 動物と化したゴブリンたちを連れて戻ると、魔女はどこからか取り出したカゴにグイグイと三匹を押し込んだ。


「さて。地、水、空という三つの逃走経路を使って逃げたゴブリンたちを全て捕えてみせるとは、どうやら名のある冒険者のようだ」

「いえいえー」

「これは礼だ。取っておくがいい」


 そう言って魔女は、アイテムを寄こしてきた。


「おおっ! 新マップの初アイテムはなんだ!? 【エクスカリバー】につながる物か!?」

「どんな効果を持つアイテムなのでしょうか」

「ワクワクだねっ!」


 皆で集まって「なんだろう!」と、ワクワクをふくらませる。

 さっそくレンが、そのアイテムを確かめてみると――。



【色炎のお守り】:所持しているだけで炎系魔法の色が変化する。ごく若干だが威力も上がる。任意でオンオフ可能。



「炎魔法の色が変化する?」


 威力自体は微上昇という何とも言えない効果に、どういうことかと首をひねりながら炎魔法を使用してみる。


「【フレアストライク】!」


 天に向けて放った炎砲弾は高く飛び、花火のように弾け散る。

 その色は普段の明るい赤橙ではなく、完全な紫だった。


「かっこいいーっ!」

「おお! いいではないか!」

「これは良い演出ですね」

「……特別感ある」


 めずらしい炎の色味に、盛り上がるメイたち。

 しかしレンは、静かにため息をつく。


「これは使いどころを限定した方が良さそうね……雰囲気が出過ぎるもの」

「ふんいき?」


 首を傾げるメイ。

 黒の衣装を着こみ、銀の杖を持った自分が他の魔導士たちとは違う紫の炎を放つ姿を想像して、レンは静かに【色炎のお守り】をオフにしたのだった。

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