第344話 砂地の管理人

 考古学者からのクエストを受けたメイたちは、ラフテリアの西南にある島へとたどり着いた。

 そこに現れたのは、遺跡と化した都市。

 人気がまるでないその街を、三人は見学しながら進むことにした。


「綺麗な街なのに、誰もいないって不思議な感じだねぇ……」


 プレイヤーたちもたどり着いていないため、音らしい音のない世界。

 メイは辺りを興味深く見回しながら、階段を軽快に上がっていく。

 大きな円形の段々畑みたいなその街は、上部、中部、下部で趣がそれぞれ違うようだ。

 中部には住宅が並び、メイたちが向かう上部は――。


「ここは……畑かな?」


 乾いた土に干からびた草。

 荒れた光景が一面に広がっていた。


「……うん?」


 メイが何かに気づいて振り返る。

 するそこには、先ほど戦った機械犬のような材質で作られた一体の人型。

 ドラム缶に腕と短めの脚を付けたロボットみたいな作りは、どこか少し懐かしい雰囲気だ。


「敵……かしら」


 デザインが攻撃的でないため、迷うレン。


「違うと思います。右手を見てください」


 見ればその右手には、ジョウロを持っている。

 そしてまっすぐこちらに向かってくるロボットは、どうやら左脚の動きが悪いようだ。

 警戒しながらも、道を開けるメイたち。


「付いていってみましょうか」

「うんっ」


 ゆっくりと進むロボットのあとに続く三人。

 よく見ると、乾いた土の中に一か所だけ草花の生えた区画があった。

 ロボットはわずかな草花に水をあげると、またゆっくりと来た道を戻っていく。

 ずいぶん長く同じ道を往復しているのか、ロボットの通った場所には跡ができていた。

 たどり着いたのは、段差の壁に作られたロボットの待機所のような部屋。

 ここもシンプルな作りをしているが、素材のせいか未来の雰囲気はあまりしない。

 ロボットはポタポタと水滴を落とす配管の下にジョウロを置き、水をため始めた。

 そしてそのまま、ロッカーのような空間に入っていく。

 すると上部の四角い魔法石が輝き、ロボットの丸い目がじんわりと輝き出した。


「魔力を充填してるのかしら」


 他にも同様のくぼみがいくつもあるが、ロボットは一体だけ。

 レンはさっそく、白壁で統一された待機所内を歩き回ってみる。

 するとシンプルなデスクの上に、説明書のようなものが置かれていた。


「クエスト票代わりといったところでしょうか」

「ロボットの換えパーツの在処が書かれてるみたい。この子の脚を直すためにその部品を取って来るのがクエストって感じかしらね」

「NPCが仲介しないクエストは、めずらしいですね」

「行き先は遺跡下層部の倉庫。ここからパーツを取ってくるだけだから、おつかいみたいなものよ」

「少し待っててね」


 メイはそう言って充電中のロボットの頭をさわると、さっそく待機所をあとにする。

 階段を降りて、三人は下層へ。

 この一帯は倉庫や、研究などに使われているようだ。

 住宅層よりさらにシンプルな建物が並んでいて、道も分かりやすく、倉庫にはすぐにたどり着いた。

 しかし中に入ろうとすると、それを待っていたかのように一体の機械狼がやって来た。


「……人間を見つけて攻撃する機械獣って感じなのかしら。こう見ると、目の色が赤い個体は戦闘用になっているのが分かるわね」


 レンがそうつぶやくと、機械狼の頭部に埋め込まれていた魔法石が突然輝いた。


「うわっ!」


 魔法石から放たれる光線が、真っすぐにメイを狙う。

 見たことのない攻撃法に思わず驚きながらも、メイはこれを大きく身体を倒すことで回避。

 すると続け様に魔法石が点滅。

 今度は魔力弾の連射だ。


「よいしょっ! 【アクロバット】!」


 これを全てメイに向けてしまったのが失敗。

 その前動作のなさはわずかにメイを驚かせたものの、問題はなし。


「【バンビステップ】!」


 左右に大きなステップを踏むことで難なく回避。

 当然そうなれば、ツバメが自由になる。


「【加速】【リブースト】【電光石火】!」


 高速移動斬りで隙を突いてダメージを奪えば、そこにレンも続く。


「【フレアストライク】!」


 やはり耐性があるのか、吹き飛ばしはしたものの打倒までには至らない。

 敵との間に距離が生まれたところで、ツバメは思いついたようにメイのもとへ。


「メイさん」

「なあに?」

「私をあの機械狼に向けて投げることは可能でしょうか?」


 そして真顔で、そんな提案をメイに投げかけた。


「ツバメちゃんを?」


 とりあえず自分を投げてみて欲しいと、戦闘中に言い出すツバメに驚くメイ。


「よろしくお願いします」

「りょ、りょうかいですっ! それではいきます! 【ゴリラアーム】!」


 メイはツバメの両手を握って、新スキル【ゴリラアーム】を発動。

 そしてそのまま、その場で三回転。


「せーの、それーっ!!」


 機械狼目がけて、ツバメをぶん投げる。

 メイは【腕力】はもちろん【技量】値も高い。

 砲弾のような軌道で、しっかり機械狼目がけて飛んで行く。

 するとツバメはそのまま、空中でダガーを構えた。


「【エアリアル】【アクアエッジ】【四連剣舞】!」


 空中で放つ水刃の四連撃。

 四本の刃が耳心地の良い斬撃音を鳴らして機械狼を弾き飛ばし、見事な着地を決める。

 納得したようにうなずくツバメ、転がった機械狼はそのまま動かなくなった。


「メイさんありがとうございました。大砲の弾になったような気分でした。これも新しい戦い方といえるのでしょうか」

「自分から『私を投げて』って、相変わらずツバメは妙なことを普通に言い出すわねぇ……でもそれ、かなり面白いことになりそう」

「すごーい……」


 味方を発射する砲台になるメイ。

 絵面はちょっと面白いが、メイが【ゴリラアーム】ツバメが【エアリアル】を得たことで生まれた、意外性のある戦い方。

 プレイヤーの投擲も武器になる。

 これにはレンも、思わず目を輝かせるのだった。

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