第257話 緊急クエスト登場です!

「なんだか、新しいクエストが色々貼られてるわね」


 五十人のパーティですら返り討ちにされたギミックボス、氷竜をわずか三人で打倒したメイたち。

 戻ってきたウェーデンのギルド本館には、これまで以上に多くのクエスト票が貼られていた。


「行き先は北西部。フィンマルクという氷海に面した小国のようですね」


 小さな港湾国家から届いた、多数の依頼。

 これまでのクエストと一緒に貼られた【緊急】の票に、三人並んで目を向ける。


「ヴァイキングの襲来によってさらわれた商館二代目の奪還ですって」


 適当に手に取ったクエスト票。

 見れば商館オーナーの見習い息子がヴァイキングにさらわれたとのこと。


「救出クエストだね!」

「これ、受けてみる? フィンマルクって街は初めてになるけど」

「行きましょう!」


 意気込むメイ。

 救助要請に前向きなところは、ジャングルに7年こもった頃から変わっていないようだ。


「この感じですと、結構な数のプレイヤーがフィンマルクに集まりそうですね」

「とりあえずその氷海の港町に行ってみましょうか。どんな雰囲気なのかしら」


 突然貼られた多数の依頼票。

 これは一つの大きな展開へとつながる、枝葉のようなクエストの一つではないか。

 そんな予想を立てるレン。

 メイとツバメはうなずき合うと、さっそくギルド端の犬ぞり小屋へと走り出す。


「今度は港町だって! またよろしくね!」


 そして気性が荒いはずの速度自慢犬の毛並みに、ギュッと抱き着くのだった。


「どうやら次の行き先は同じようだな、ナイトメア」

「ちょっと誰のことだか分からないわね」


 そんなメイたちをほほ笑ましく見ていたレンに声をかけてきたのは、黒神リズ・レクイエム。


「闇の使徒として何を企んでいるのか、動向を見せてもらうぞ」


 そう言ってレンに視線を向けると、背を向けて歩き出す。


「何も企んでなんていないんだって……」

「向こうで一緒になった時は、よろしく頼むのだよー」


 二体のドールを連れたなーにゃも、相変わらずの気の抜けぶりで、ひらひらと手を振る。


「んー、あたしはライバルでも一向にかまわないけどねっ」


 そんな中、ローチェはメイたちを見ながらそう言った。


「ローチェちゃんたちに立ち向かってくる蛮勇戦士は、いつでも募集中だよ」


 そして軽く挑発するようなウィンクをして、なーにゃのあとに続く。


「ま、さすがに荷が重すぎると思うけどねっ」


 最後に一言、そうつぶやいて。


「もうローチェったら、ダメですよ。それではお先に失礼いたします」


 そんな相棒をたしなめると、シオールは丁寧に頭を下げた。

 その素敵なお姉さんぶりに、メイが「おお……っ!」と目を輝かせる。


「……相変わらず、余裕全開だな」

「トップ四人のチーム相手に、荷が重くないパーティなんてねえよなぁ……」


 当たり前のように受けた依頼は、高レベル向けの高ポイントクエスト。

 そんなトップチームを見て、イベント参加者たちは感嘆の息をつくのだった。



  ◆



「それーっ!」


 ウェーデンから犬ぞりで北西に進んだ先。

 広がる海にはたくさんの流氷が浮かび、港には木造の漁船が並んでいる。

 目立つのは港湾部からわずかに進んだところに浮かぶ、物々しい超大型の帆船だろう。

 一見は、よく栄えた港町といった雰囲気の小国フィンマルク。


「ありがとうっ!」


 街の外れについたところで、メイは犬の頭を撫でまわす。

 ツバメもそっと、その背中にふれて「ご苦労様です」とほほ笑んだ。


「さて、依頼のあった商館は……あれかしら」


 三人は街に踏み込むが、あまり活気がなくどこか物々しい雰囲気だ。


「あれって、ヴァイキングじゃない?」


 レンが指さしたのは、酒場の前に集まっている荒々しい雰囲気の男たち。

 手にした斧と丸盾、そろいの兜とチェーンメイルを身にまとっている。

 三人は一応その視界に入らないように道を選び、静かにフィンマルクの街を進む。


「ここが依頼のあった商館ね」

「こんにちはー」

「失礼します」


 ドアを開けるとそこは大きなホールになっていて、要件別のカウンターが設けられていた。そして。


「何モンだあ!!」

「王国軍のやつらか!」

「やっちまえ!」


 三人のヴァイキングの姿。


「くるわ!」


 先頭にいたメイ目がけて、ヴァイキングたちが迫り来る。


「おっと」


 振り降ろされた斧をかわす。

 すると立て続けに、二人目のヴァイキングが飛び掛かってきた。


「【アクロバット】」


 豪快に叩きつけにきた斧は、そのまま床に突き刺さる。


「【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 直後ヴァイキングに炸裂する四連続の炎弾。

 二人目のヴァイキングが倒れると、三人目が斧を叩きつけた。


「「「っ!」」」


 斧に埋め込まれた宝珠の輝きと共に、地面が揺れる。

 地面を揺らす武器という変わり種に、三人はわずかに隙をさらしてしまう。


「【ウィンドエッジ】!」


 そこへ一人目のヴァイキングが斧を掲げた。

 生まれる三本の風の刃が、ツバメを捉える。


「【加速】」


 とっさに【残像】を使用し、ツバメはこれを回避。

 一気にヴァイキングの懐に潜り込む。


「【アサシンピアス】!」


 これで残りは一人。

 駆け出したメイは、すぐさまヴァイキングの目前に迫る。


「いっくよー! フルスイ――――」

「待ってくれ! そいつを倒してしまったら息子の場所が分からなくなる!」

「え、ええええええ――っ!?」

「そういうことは早く言いなさいよっ!」


 商館オーナーの叫び声に、思わずツッコミを入れるレン。

 突然突き付けられた『無力化ミッション』

 しかしメイの剣は、止まることなくヴァイキングに迫る。


「【加速】【リブースト】ッ!」


 飛び込んできたのはツバメ。

 そのままメイに飛びつき、半ば無理やり【フルスイング】を外しにかかる。

 剣は、ギリギリのところをかすめていった。


「「「…………」」」


 思わず息を飲む三人。

 ヴァイキングは、倒れない。


「ツバメやるじゃない! ギリギリセーフよ、メイ後は頼むわ!」

「りょうかいですっ! そういうことなら【キャットパンチ】だーっ!」


 放つ高速の猫パンチ。

 早い連打とステップで、あっという間にHPを削っていく。

 そして残りが1割ほどになったところで――。


「降参だ……っ!」


 残ったヴァイキングは、そう言って武器を捨てた。

 こうして三人は見事、突然のミッションを成功させたのだった。

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