第241話 雪狼との戦いを終えて

「こんにちわーっ」


 王雪狼との戦いを終え、洞窟を降ってきたメイたちはそのままロッジに戻ってきた。

 そしてNPC少女の前で、右手を突き上げる。


「それではさっそくですが、おいでくださいませ!」


 メイの右手に付けられた【召喚の指輪】が輝き、雪上に魔法陣が現れる。

 そこから上がってきたのは、巨大な一頭の狼。


「こ、この大きな狼が、吹雪の中にいたんですか……」


 遭難NPC少女は、メイが連れてきた灰色狼を見上げて、感嘆の声をあげる。

 たたずんでいる姿は、ただそれだけで美しい。


「ありがとうございます。あの時両親が見たという吹雪の中の何か。今度ウェーデンに行った時にでも話してみようと思います」

「これでもう、無理に山頂に上がる必要もないわね」

「はいっ」


 興味深そうに王雪狼を見つめていた少女は、うれしそうにほほ笑んだ。


「また、いつでもオーロラを見に来てください」

「ありがとうございますっ」


 こうして三人は、一度雪山を降りてウェーデンの街に戻ることにした。

 せっかく呼び出したのだからと、王雪狼の背に乗って。

 どうやらケツァールやクジラ同様、移動に使用することも可能なようだ。


「皆さん、いろいろとありがとうございました!」


 大きく手を振る遭難少女に、メイもブンブンと手を振り返す。


「それにしても……この子はかなりの強敵だったわね」


 王雪狼の背をポンポンとたたきながら、レンがつぶやく。


「本来なら全力で耐寒、耐氷装備をして挑むべき相手なのでしょう」

「ロッジに暖炉があったのには、忠告みたいな意味があったってことね」

「メイさん、ありがとうございました。私の前に立って吹雪を振りはらった時はとても格好良かったです」

「いえいえ、このマントのおかげですっ!」


 ちょっと恥ずかしそうに、照れながら頭をかくメイ。

 レンの言う通り、ウェーデンを始め各地にある耐寒系装備を集約して挑んだとしても厳しい。

 王雪狼はそういうレベルの相手だ。

 そんな雪渓の王の力を得たメイたちは、青い空を眺めつつ山を降りていくのだった。



   ◆



 ウェーデンの街に戻ってきた三人は、再び街歩きを開始した。


「防具店に並んでいる装備に耐寒系が多いは土地柄だろうけど、武器屋に並んでる装備品に斧が多いのはなんでかしら」

「北側なのでヴァイキングの影響があるのではないでしょうか」

「……つい石斧がないか探しちゃうのは、野生化しているのか、それとも野生を避けるためなのか……っ」


 唸り声をあげるメイに思わず笑わされながら、三人は大通りを進む。

 すると広場の一角で、雪合戦をしている面々が目に付いた。

 剣士らしき少年が雪玉を投げると、同じパーティの忍者はそれを加速スキルで回避。


「【投擲】!」

「うおおっ!」


 投げ返した雪玉は、剣士の少年が投げたものより的確に飛んでいく。


「【ホバーダッシュ】! ぶはっ!」


 移動スキルで回避しようとしたものの、わずかに間に合わない。

 剣士の少年は雪玉を喰らって苦笑い。


「やっぱ【技量】がないならスキルで投げた方が的確だな」


 忍者はそう言って笑った。


「なるほどぉ、雪玉を投げるのにもスキルが使えるんだね」

「本当ですね。投擲系スキルは狙いが補正されますし、移動スキルはそのまま回避に使えます」


 剣士たちの様子を見て、うなずくメイとツバメ。


「よし、それじゃそろそろ行くか」

「おう」


 すると剣士と忍者の二人は、並んで歩き出す。


「どこに行くのかな?」


 見れば他にも、多くのプレイヤーたちが同じ方向に向けて進んでいる。


「行ってみましょうか」


 メイたちも、その流れに合わせて進んでみることにした。

 たどり着いたのは、街の外れにある区画。

 民家の並ぶ区域だ。

 そして気が付けば、数百人に迫る顔ぶれがその場に集まっていた。


『――――これより、ウェーデン定例イベント『雪合戦』が始まります』


「雪合戦だって!」


 さっそくメイが歓声をあげる。


『――――参加希望者はウェーデン西部、アラン邸前にお集まりください』


「なるほどね、さっき雪玉で遊んでたのは練習、確認作業だったわけね」

「ぜひ参加してみたいですっ!」


 バッと手をあげるメイ。


「いいんじゃない? 場所は多分このウェーデンの西側一帯。スキル使用ありで、単純に雪玉をぶつけられたら退場ってところかしら」

「おもしろそうですね」

「やったぁ! みんなで雪合戦かぁ……楽しみだなぁ」


 早くも目を輝かせるメイ。

 こうして三人は、ウェーデンの定例イベント『雪合戦』に参加することにしたのだった。

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