第239話 vs王雪狼
視界を阻むほどの吹雪が、王雪狼の遠吠えによって吹き飛んだ。
「すごーい……」
見れば、いつの間にか外は夜。
浮かぶ満月の下、王雪狼の毛並みが白く輝きだす。
キラキラと舞う雪片に、目を奪われるメイ。
「後半戦ですね」
「見るからにレベルを上げてきたって感じだわ」
その神々しい雰囲気に、息を飲む二人。
向けられる視線に応えるように、王雪狼は走り出した。
「くるっ!」
飛び掛かりからの氷爪降り下ろし。
「【アクロバット】!」
これをメイがバク転で回避すると、魔力の輝きと共に地面から氷剣が突き上がった。
「もう一回【アクロバット】!」
二連続のバク転でそれをかわし、切り返しの攻撃を狙う。
「うわっ!」
しかし残った氷の剣は破砕し、氷風を吹かせる。
喰らえば凍結を起こす氷風だが、【王者のマント】には関係なし。
メイはわずかにバランスを崩すにとどまった。
すると王雪狼は白い輝きを身にまとい、単純な突進を仕掛けてきた。
「早っ!!」
レンが驚きの声をあげる。
突進の速度は、その体躯の大きさもあって回避が難しい。
「【バンビステップ】!」
それでもメイは二歩の早いステップで切り抜けた。しかし。
前段階も少ないその突進は、避けられた後にも『本命級』の一撃がくる二段階攻撃。
駆け抜けた後に吹き抜ける氷嵐が、付近を薙ぎ払う。
「うわああああ――――っ!」
吹き飛ばされて転がり、2割弱ほどのダメージを受けた。
さらに王雪狼が前足を叩きつけると、メイを狙い撃つ氷嵐が足元から吹き上がる。
白く輝く凝縮吹雪は、大ダメージに加えて即時の凍結を引き起こす一撃。
「メイさん!」
「メイっ!」
「それは問題ありませんっ! 【バンビステップ】!」
しかし【王者のマント】を翻してみせたメイからは、ダメージも凍結も取ることができない。
噴き上がった吹雪を打ち消すと、反撃とばかりに王雪狼のもとへ。
「咆哮がくるわ!」
王雪狼が頭を持ち上げたことに気づき、レンが叫ぶ。
「がおおおお――――っ!」
するとメイは先行して【雄たけび】を放ち、動きを止め返した。
「【加速】【リブースト】」
飛び込んで来たのはツバメ。
「【ヴェノム・エンチャント】【電光石火】【四連剣舞】!」
切り抜けから、振り返りと同時に剣舞を放つ。
「高速【魔砲術】【誘導弾】【フレアアロー】!」
そこに一直線で飛んできた炎の矢が突き刺さり炸裂。
「【加速】【リブースト】!」
さらに駆け込んできたツバメが、最速の二刀攻撃で斬り抜けていく。
これでHPは残り4割ほど。
王雪狼は後方へ退避して、体勢を立て直す。
「身体の白い輝き。気をつけて、また突進が来るわって…………私っ!?」
その目は、後衛のレンを捉えていた。
雪を巻き上げながら、驚異的な速度で走り出す。
レンの【耐久】では、突進と爆風の二連発を喰らえば即死は免れない。だが。
「保険は掛けておくものね…………発動!」
指を鳴らすと【設置魔法】【フレアストライク】が、地面から炎の砲弾を噴き上げた。
これを下あごに喰らった王雪狼は、空中で体勢を立て直して退避する。
「やっぱり時間差で魔法が当たるのは面白いわね。ここでもう一つ――」
レンはここで、再び魔法を『放って』おく。
「それにしても、勢いがありますね」
「本当だねぇ」
戦いがどうしてもカウンター中心になるほどの攻勢を、見事に乗り切ったメイたち。
しかし設置【フレアストライク】のダメージで、王雪狼は最終段階に入った。
「ウォオオオオオオオオ――――ッ!」
咆哮と共に広がった白煙が、足元を駆けていく。
「……この氷煙に凍結効果はないみたいだけど、どう来るつもりかしら」
「ドキドキするねぇ」
高速の突進。
メイたちはすぐに回避の耐性に入るが、王雪狼が向かった先は前衛の数メートル前。
叩きつける前足。
次の瞬間、数十本の氷柱が怒涛の勢いで突き上がっていく。
「とんでもない攻撃ねっ!」
次々に足元で生まれる輝き。
その直後には、高さ3メートルを超える氷刃が猛然と突き上がる。
「【バンビステップ】!」
「【加速】! 【リブースト】!」
次々に突き上がる氷柱を、足元の輝きを目印に回避する前衛の二人。
大技後の隙を突くため、つかず離れずの位置をキープする。
そして足元の輝きが落ち着いたところで、二人は同時に距離を詰めに行くが――。
「反撃のために付近にいるのではなく、二撃目を回避するために距離を取るのが正解でしたか……っ! 【加速】【リブースト】【跳躍】!」
「【バンビステップ】!」
足元に広がる大きな輝きを見て、慌てて退避に入る二人。
ツバメはギリギリかすめる程度で難を逃れたが、足の早さゆえにかなりのところまで詰めていたメイは、逃げ遅れた。
「【ラビットジャンプ】! わああああーっ!!」
惜しくも白刃を喰らい、メイのHPが2割減少。
ツバメ、レンなら即死級の一撃だ。
それでも二人は、この氷柱乱舞を切り抜けてみせた。
今度こそ大技が終わり、思わず息をつくメイとツバメ。
「まだ終わってないわ!」
レンの声で異変に気付く。
見れば足元の影が、微妙にゆがんでいる。
「「っ!」」
視線をあげたメイとツバメは、思わず息を飲んだ。
頭上にあったのは魔法陣。
そしてそこから生まれたのは、巨大な氷塊。
「大変です……っ【加速】【リブースト】!」
「【装備変更】【バンビステップ】!」
真っすぐ落ちてきた氷塊は容赦なく地面に突き刺さり、砕け、氷片となって消えていく。
大急ぎで範囲外へと逃げたツバメとメイ。だが、しかし。
「これでもまだ終わらないっていうの!?」
輝く白い粒子が、猛烈な勢いで一点に集中していく。
「これが本当の……最終奥義ですか……っ!!」
もはや逃げ切れない距離。
大ダメージに加えて全身凍結を引き起こす、白氷の乱舞が放たれる。
「【加速】【リブースト】ッ!!」
間に合わない。
今度こそ、ツバメが自らの退場を確信したその時。
突然、王雪狼の後頭部付近で四つの炎弾がさく裂した。
これにより、わずかに奥義の発動が遅れる。
「最高のタイミングになってくれたわね……!」
先ほどレンが放っておいた『低速』の【連続魔法】【ファイアボルト】がここで直撃。
「レンさん、ありがとうございますっ! 【加速】【リブースト】【跳躍】ッ!!」
直後。輝く白い暴風がさく裂する。
容赦のない氷雪の乱舞。
ツバメはギリギリでこの範囲から脱出することに成功した。
メイは、仁王立ちのまま動かない。
大きく【王者のマント】をなびかせると、いまだ白く輝く嵐の中を走り出す。
氷嵐を割るようにして王雪狼の前に飛び出し、そのまま懐に飛び込んでいく。
対して王雪狼は、すでに白光をまとった状態だった。
狙いはもちろん必殺の突進だ。
真正面からぶつかることになった両者。
「【投擲】!」
そこに突き刺さる【グランブルー】
毒性の蓄積が完了し、王雪狼が大きくバランスを崩した。
「最後、おねがいします!」
「ありがとうツバメちゃんっ! 【モンキークライム】!」
メイは王雪狼の腕から肩にかけてを駆け上がる。
「からの【ラビットジャンプ】!」
そして跳躍。
月の浮かぶ夜空に飛び上がった。
「【装備変更】」
頭装備を【鹿角】から【狐耳】に変更し、【蒼樹の白剣】を振り上げる。
「いっくよー! 必殺の……【ソードバッシュ】エクスプロードだああああ――――っ!!」
【狐火】によって、衝撃波と共に吹き上がる青炎。
メイは夜空に、淡く青い火の粉を舞わせて着地。
怒涛の攻勢を見せた王雪狼を、見事に打倒してみせた。
◆
【狐火】によって生まれた青い火の粉が消え、静かな満月の夜が戻ってきた。
倒れた王雪狼はゆっくり立ち上がると、メイのもとに来てうやうやしく頭を下げる。
「なんだか、ファンタジーって感じね……」
「とてもきれいです」
誰がどう見ても、メイが王雪狼の頭部にそっと触れることで契約が結ばれるような絵面だ。
レンもツバメも、ただその美しい光景に見惚れる。しかし。
「撫でてもいいのっ?」
メイはそれを見て我慢できず、そのまま大きな狼の頭を抱きしめた。
「ふわふわだあーっ!」
フードを取り、うれしそうに王雪狼を抱きしめるメイ。
「……久しぶりの友だちに再会したかのような雰囲気ね」
毛皮マントのメイが笑顔で巨狼を抱きしめる姿に、レンは笑みをこぼす。
「わ、私もちょっと触らせてもらいたいです」
「……一応、私も行っておこうかしら」
そしてそんなメイを見て、ツバメたちも駆け寄っていくのだった。
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