第198話 小さな金のピラミッド

「とんでもない攻撃でした……」


 超上空からのダイビング【ソードバッシュ】に、ツバメは今だ驚きが止まらない。

 砂漠に大きなクレーターを生み出した一撃は、遭遇率の低いボスモンスター、サンドワームを仕留めた。


「てへへ、外しちゃったら大変だよねぇ」


 落下ダメージ死を免れない……とは、メイの【耐久】を考えると言い切れないツバメ。


「……ねえメイ。ケツァールに乗って飛ぶのって、普段の移動にも使えない?」

「っ! できるかもっ!!」


 投げかけられたレンの言葉に、メイはその目を全力で輝かせた。

 すぐに【召喚の指輪】を掲げて起動する。


「――――何卒、よろしくお願いいたしますっ!」


 すると空中に現れた魔法陣から、一羽の巨大な鳥が降りてくる。

 敵のいないこの状況下、ケツァールは三人の前に着地した。

 メイはそのまま背につかまる。

 それでも、ケツァールは勝手に飛び立つことはない。


「三人一緒でもいいのかもっ!」


 レンとツバメも、大きな背に乗ってみる。

 すると三人乗ったところで翼を羽ばたかせ、ケツァールは空へと舞い上がった。


「……最高の眺めね!」

「はい、素晴らしいです!」

「あっちが王宮だね! それであっちがピラミッド! オアシスも見えるよー!」


 広がる絶景に、思わずはしゃぐ三人。


「すっごーい! みんな一緒だよー!」


 感動に思わずケツァールの背に抱きついたメイは、両手を広げてくるくる回り――。


「うわっととと!」

「メイ!」

「メイさん!」

「…………てへへ、ありがとー」


 転がり落ちそうになるメイを、慌てて引っ張るレンとツバメ。


「でも、空を移動できるって……従魔士でもないのにお得過ぎる話ねぇ」

「はい。まさか自在に空を行けるようになるとは、思いもしませんでした」


 しかもそれが三人一緒となれば、いよいよ稀な話になってくる。

 並んで広がる世界を眺めていると、不意にメイがその目を凝らした。


「……あれは何かな?」

「何か見つけたの?」

「砂漠の中に何か光ってるものがあるんだよー」

「……行ってみましょう」


 見つけた謎の光のそばに、ケツァールを降ろす。


「ありがとーっ!」


 帰っていくケツァールに、ブンブンと手と尻尾を振るメイ。


「ピラミッドかな?」


 そこには、小さな金色のピラミッドが砂上に突き出していた。

 高さはヒザより下。大きさはマンホールくらいだ。


「こんなに小さなオブジェクト、普通に砂漠を歩いてたらそうそう見つけられないわね……」

「あのサンドワームはこれを守るためにいたのかもしれませんね」

「この天辺の部分は何かな」


 わずかに突き出した頂点に、メイが触れる。

 すると突然、ピラミッドが輝き出した。


「さあ何がくる? またモンスター? それともアサシン教団?」


 付近に警戒するレン。

 すると、ゴゴゴゴ……と地響きが鳴り出した。

 足元も大きく揺れ始める。


「うわわわわ!」


 突然小さな金のピラミッドが、せり上がり出す。

 その範囲はものすごい勢いで広がっていき、メイたちの足元が急階段に変わる。


「うわわわわわ!」

「ちょちょちょっと! 何よこれ!?」

「どうなっているのでしょう……っ!」


 流れ落ちていく砂に、もはや立ってもいられない。

 三人は慌てて下りの急階段を駆け降りていく。


「「ッ!!」」


 しかし流砂状態の石階段に足を取られて転倒。

 ツバメもレンも、そのまま転がり落ちていく。


「むぐっ」

「うぐ!」


 そして砂地に顔を突っ込む形で、ようやく止まった。


「な、なんだったのかしら……」


 ゆっくりと振り返るレン。

 そこには無事着地を決めて立ち尽くす、メイの姿があった。


「え、ええ……」


 そしてメイは、その光景に圧倒されていた。


「ええええええええ――――っ!!」


 あげる驚きの声。

 目前にはなんと、そびえたつ巨大なピラミッド。

 それはこれまでメイたちが目指していたものとは、完全に別物だ。


「砂漠に、もう一つピラミッドがあったなんて……」


 天辺に金の装飾を施した第二のピラミッドを前に、レンもただ圧倒される。


「……そういえば、アサシン教団が『もう一人の王の眠り』と言っていました」

「なるほど、眠りと言えばお墓。お墓と言えば基本的にはピラミッドを想像するものね」


 オアシスに沈んでいた謎の宝珠は、このためのものだったのだと確信する。

 二つ目のピラミッド。

 それは間違いなく、ルナイル最大級の隠し要素だろう。


「とんでもない仕掛けだったわね……」

「すごーい……」


 圧巻の仕掛けに、メイも関心しきりだ。


「……ねえ。せっかくだし、こっちのピラミッドに行ってみましょうか」

「いいと思いますっ!」

「そうしましょう」


 二人はすぐさま賛同する。


「でもそろそろ夕食の時間だし、続きは一息ついてからかしらね」

「はいっ! それがいいと思いますっ!」

「私も異存はありません」


 いまだ手つかずの王墓。

 三人はワクワクしながらも、慌てることはなし。

 夜の部のためにしっかり準備を終えてからの再会を約束し、ログアウトしていったのだった。

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