第196話 砂漠の主

 謎の装置を起動した三人は、オアシスを出た。

 再び【王家のラクダ】に乗って、ピラミッド目指して進んでいく。


「……ん?」


 するとメイの耳が異変に気付いた。

 続いてラクダが、忙しなく辺りを見回し出す。


「メイの方が、先に異変に気付くのね」


 いよいよ動物より早い反応に、笑うレン。


「……砂が、動いてます」


 足元を見れば、確かに砂が揺れている。


「何だろう?」


 首と尻尾を傾げるメイ。

 すると数十メートル先で、突然砂が大きく巻き上がった。


「わーっ! すっごーい!」


 砂の海から現れたのは、ラクダごと飲み込んでしまいそうなほど巨大なモンスター。


「サンドワームだわ!」

「これも王家のラクダ効果でしょうか。本来なかなか出会えないボスモンスターのはずです……っ」


 サンドワームは砂の海を猛然と進み、こっちに向かって特進してくる。

 三人は慌てて散開。


「「「ッ!!」」」


 砂を巻き上げながら、高く宙へ舞うサンドワーム。

 そのまま先頭のメイ目がけて喰らい付きにくる。


「【ラビットジャンプ】【アクロバット】!」


 これを後方への大きな跳躍で回避する。

 するとサンドワームはそのまま砂に潜り、移動を開始。

 その狙いをツバメに変える。


「【加速】【加速】【跳躍】っ!」


 喰らい付きの三連撃を、後方への高速移動で回避するツバメ。


「【フリーズストライク】!」


 三度目の攻撃の直後を狙い、レンが氷の砲弾を放つ。

 しかしこれを、サンドワームは砂潜りで回避する。


「やっかいね……っ!」


 そのまま距離を取ったサンドワームは、大きく後方へのけ反った。

 次の瞬間、その口から噴き出される強烈な砂嵐。

 まるで最大開放した水道のホースのような動き、そこから生まれる読みづらい軌道で付近一帯を薙ぎ払う。


「【ラビットジャンプ】!」

「【跳躍】!」


 これを高いジャンプでかわす二人。


「あっぶない!」


 レンは大慌てで砂上に伏せて事なきを得る。


「攻撃範囲が広いわね。ほぼ回避できててもHPを削られるなんて……【誘導弾】【連続魔法】【フリーズボルト】!」


 お返しとばかりに放つ魔法。

 しかしこれも砂潜りでかわしたサンドワームは、再び砂中を進んでくる。


「……この攻撃は! 【加速】!」


 自分の足もとが大きく揺れたのを見て、慌てて移動するツバメ。

 するとその直後、サンドワームが直下から飛び上がった。


「【バンビステップ】!」


 海での戦いで覚えた『釣り上げ』てからの攻撃を思い出したメイは走り、落ちてきたサンドワームを狙う。


「【フルスイング】!」


 しかしわずかに届かない。

 そのまま砂中に逃げ込まれ、ダメージは入らなかった。

 サンドワームは再び距離を取る。


「また砂嵐がくるわ!」


 開いた距離から放たれる砂嵐。

 ツバメは慌てて【加速】から転がり、ダメージを少なく抑える。

 レンも再び地面に伏せることで、ダメージを1割ほどで抑えた。


「【バンビステップ】!」


 対してメイは、あえて前方へ。


「ああもう! また砂に逃げる気だわ!」

「本当にやっかいです……っ」


 砂中に逃げようとするサンドワーム。

 やはり今回も、追いかけての攻撃は届きそうにない。しかし。


「逃がしませんっ!」


 潜りかけのサンドワームに、メイは突然足を止めた。

 手にした剣を、その場で大きく振り払いにいく。


「いくよー! 必殺! 【ソードバッシュ】だああああ――――っ!」


 巻き起こる衝撃波は、砂を巻き込み砂嵐となる。

 予想外の一撃は、見事に直撃。

 潜りかけのサンドワームを吹き飛ばした。

 状況は逆転する。

 もはやメイにその場を動く必要はなし。

 サンドワームが、その姿を再び離れた場所に現した瞬間。


「【ソードバッシュ】! からの【ソードバッシュ】!」


 砂漠を駆け抜けて行く衝撃波が、砂を巻き上げ猛進。

 サンドワームを容赦なく吹き飛ばす。


「何これ……」

「衝撃波が、砂も武器に変えてます」


 巻き起こる砂嵐でゴロゴロと砂上を転がるサンドワームを見て、レンとツバメが息をのむ。


「このスキル、砂漠との相性最高じゃない」


 こうして自然の王者メイは砂漠でもその力を発揮し、一気に状況を変えてみせた。

 するとサンドワームは、逃げるように砂中へ。

 震え出す足元、今度の狙いはメイだ。


「ここは落ち着いて……」


 ジッとタイミングを見計らうメイ。

 足元の砂がグッとへこんだその瞬間。


「【ラビットジャンプ】!」


 あえて真上に跳躍。

 迫るサンドワームの喰らい付きを前に――。


「もう一回【ラビットジャンプ】!」


 なんとサンドワームの牙を蹴って、もう一段回跳躍。


「すご……っ!」

「敵の身体を足場にして、二段ジャンプですか……」


 そのとんでもない戦い方に、思わず唖然とする二人。


「【アクロバット】!」


 メイはそのままサンドワームの直上で一回転。


「いっくよー! ジャンピング【ソードバッシュ】だああああーっ!」 


 先に落下したサンドワーム目がけて、【ソードバッシュ】を振り降ろす。

 ドーン! という爆発音と共に大きく巻き上がる砂煙。

 直撃こそ避けられたものの、逃げかけのサンドワームのHPを大きく減少させた。


「すごいです」

「下から出て来る攻撃に対しては、もうアドリブで遊べちゃう感じなのね」

「まだまだっ【ソードバッシュ】!」


 そして逃げた先に身体を出した瞬間、メイの追撃に吹き飛ばされる。


「……もう完全に場を支配してる感じね」


 砂漠の主であるサンドワームをゴロゴロ転がすメイを見て、二人は感心する。

 その圧倒的なパワーを前に、サンドワームの残りHPは5割を切った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る