第95話 いざヤマトへ!

「ヤマトかぁ、どんな街なんだろう……」


 メイの尻尾が、早くも期待に動き出す。

 次に目指す街『ヤマト』は、ラフテリアから大きく東に移動した先にある。

 三人は、ラフテリアのポータルを使って移動。

 たどり着いたのは、山に囲まれた盆地に作られた街『ヤマト』の中心地。

 その中央通りの最奥に当たる部分だった。


「すごーい……!」


 町屋が並ぶ大通りは、ラフテリアからは一変して和の様相。

 碁盤の目のように区切られたこの街には、多くの神社や石碑などが点在している。

 もちろん中には、クエストを抱えているポイントも無数にある。


「お城だー!」


 そんな中、最初にメイの目に留まったのは、立派な天守閣を持つ城。


「メイ、反対側を見て」

「反対側……? あっ、こっちにもお城がある!」


 城下町を挟んで反対側。

 ここにも同じく、大きな城が建っていた。


「日本的な作りの街の中でも、これがヤマト最大の特徴ね」


 街の東西、互いに向かい合うようにして築かれた二つの城。


「このお城を使って、イベントが開かれます」

「そうなんだぁ」

「やっぱりこの時期は人も多めね。今のうちにある程度、街の作りを頭に入れておこうって考えかしら」

「イベントってどんなことをするの?」

「参加プレイヤーを二分しての大戦よ。『敵将NPCかプレイヤー』を打ち取った方の勝ちって感じね」

「防衛戦でもあるので、どれだけプレイヤーが残っていても『敵将』が打たれたら負けなのです」

「この敵将NPCがなかなかクセモノみたいでね。イベントの後半は城から出るって言い出して、そこが狙いどころになったりするのよ」

「無理やり止めようとすると、戦わなくてはいけなくなってしまいます」

「敵将がプレイヤーの時は指令が出て、城外に出てこなさないと負け。だから敵が攻めてくると分かってても出歩かないといけないの」

「そうなんだぁ、楽しそうだねえ」


 危機が迫る中、外を出歩く将軍。

 狙いに来る敵軍プレイヤーと、必死に将軍を守る味方たち。

 そんな姿を想像して、ワクワクするメイ。


「毎年盛り上がってるわよ。大勢のプレイヤーがこの街を舞台に戦うのは、見てるだけでも楽しいから」

「夜になると大抵、黒い装備で身を固めた刺客が送り込まれてきます」

「刺客! すごいねぇ……!」

「そうだ。まずはメイの【密林の巫女】用に種でも見に行きましょうか。ミニゲームのバレーでもらった物はクラーケン戦で切れてるでしょう?」

「うん、そうだね」


 三人はハウジング用の苗や種などを売る店を探し、大通りを進むことにした。


「あっ、あの傘きれいだね! ツバメちゃん持ってみて」

「こうですか……?」

「似合ってるよー! 朱色の傘、すっごくかわいい!」

「本当ね。よく似合ってるじゃない」

「あ、ありがとうございます」


 恥ずかしそうに顔を赤くするツバメ。

 小柄で長い黒髪。

 そんなツバメが赤い傘を持つ姿は、なかなか様になっていた。

 意味もなく傘の隣りに入ってきたメイも、楽しそうに笑う。

 他にも扇子を広げてみたり、刀鍛冶を見に行ったりとせわしない。


「でも、こうやって並んで歩いてると修学旅行みたいだね」


 不意にメイがつぶやいた。


「修学旅行ですか……多くの寺社仏閣を回って写真を撮ったりしていました。今でもその由来等は覚えています」

「修学旅行でしっかり修学する子、初めて見たわ……」

「ですが私自身の写真は一枚もありませんでした。なので私が修学旅行に行ったことの立証はできません」

「そ、そこはさすがとしか言いようがないわね……」


 集合写真にも見事に映っていなかったというツバメに、思わず息を飲むレン。


「レンちゃんはどうだったのー?」

「もちろんしっかりと学んだわよ。四神とか、陰陽とか…………魔界とか」

「方向がとても偏っています」

「今でもしっかり覚えているわ。当時の自分の格好も含めてね……私はむしろ、今からでも全ての記憶媒体から自分の姿を消して回りたいわ」


 当時の魔界から出てきたかのような格好を思い出して、レンは白目をむく。


「メイさんはどうですか?」

「もちろん今でもはっきり覚えてるよ! 二日目の夜中に【モンキークライム】を覚えたんだぁ。あれでゴールデンリザード戦のスピードがグッと上がったんだよ」

「……どんなところに行ったかは覚えてないの?」

「ちゃんと覚えてるよ。あの大きな……お寺。ええと、あれ……神社だったかな……?」

「今回も、皆さんと一緒に楽しもうと心に決めました」


 誰一人として、修学旅行のまともな思い出話が出てこない。

 今度こそは仲間と一緒に楽しもうと、固く心に誓うツバメだった。

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