第82話 海底遺跡に侵入します!

 満月の浜辺に現れた入り口から、潜り込んだ海底遺跡。

 白く輝くブロックを並べた内部は明るく、視界には困らない。

 場所こそ海の下だが、問題なく進めそうだ。

 メイたちが階段を降りていくと、たどり着いたのは大きな水の空間だった。

 天井から落ちている幾筋もの水流と、石壁の隙間から流れ込む大量の海水が足元一面に広がっている。


「よっ、ほっ、よいしょっ」


 崩落した石畳が残ってできた足場を、メイはぴょんぴょん鼻歌交じりで跳んでいく。

 海水に浸食されたこの空間は、まさに海の遺跡といった感じだ。


「……あれ、あっちにも路があるのかな?」

「路?」


 メイは天井から落ちてきている水の背後に、通路が隠れているのを見つけた。


「本当だ、路が隠れてるわね」

「よく気づきましたね」

「どうしよっか?」

「こういう時は、スキルでしか行けない方を選んでおきたいわね」

「そうなの?」

「そっちの方が色々と起きやすいのよ」

「クエストがあったり、アイテムがあったりします」

「そうなんだぁ」


 ふむふむと、感心したようにうなずくメイ。

 ジャングルでの戦い方以外の経験は、まだまだ少ない。

 レンは、路を隠している水流の入り込んでくる箇所目がけて杖を掲げる。


「【フリーズブラスト】」


 放たれた冷気が、海水の出所を凍結させた。


「さ、今よ」

「【ラビットジャンプ】!」

「【跳躍】」

「【浮遊】」


 三人が隠し通路に足を進めると、凍結効果が切れて海水が再び流れ出す。

 そして、入れ替わるように騒がしい足音が鳴り始める。


「おいおいマジかよ……っ!」

「ルルタンにこんな遺跡があったのか!」

「すげえー!」


 やって来たのは、遺跡発見の報を知って駆け付けたルルタンのプレイヤーたち。


「進んでみようぜ」

「いやー、ルルタン始まって以来の大イベントだな。盛り上がってきた!」


 ルルタンプレイヤーたちは意気込んで、そのまま流水の空間を進んでいく。

 その先には石畳の路が続き、途中に鉄扉の部屋がある。

 中をのぞいてみると、そこには台座と宝珠が並んでいた。


「何だこの宝珠」

「ま、こういうのはとりあえず点けてみるもんだろ」

「ですよねー」


 宝珠に触れると、どこかで重い音が鳴った。



   ◆



「……何の音だろう?」


 メイの【聴覚向上】が、重たい音を聞きつけた。

「何か聞こえるの?」

「なんだろう、岩がこすれるような音がしたよ」

「何かの仕掛けでしょうか」


 三人が進むのは、あみだくじ状の整然とした通路。

 岩を削って作ったブロックを並べた、迷路のような造りをしている。

 メイが不意に、ピタリと足を止めた。


「水の音だ……こっちに近づいて来てる」


 次の瞬間見えたのは、真正面から迫る大量の海水。


「え、ええええーっ!?」

「ここは水路だったのね! あっちよ! あっちに逃げましょう!」


 走り出した三人は角を曲がり、とにかく全力で走り出す。

 流れ込んで来た大量の海水は、容赦なく水路を駆け抜けていく。



   ◆



「……何も起きないな」

「こっちの宝珠は何ですかね?」

「とりあえず点けてみろよ」


 ルルタンプレイヤーたちは、残りの宝珠にも手を振れていく。


「やっぱり……変わらないですねえ」



   ◆



「うわわわわ! こっちからも水がー!」


 水路を駆けるメイたち。

『あみだ』の頂上からは、次々に大量の海水が流れ込んでくる。


「あれに流されたら終わりよ! 捕まらないよう気をつけて!」


 そう告げるレンも、必死の形相だ。



   ◆



「……もう全部点けてみようぜ」

「まあ、そうなるよな」

「よいしょっと、これで全部だな」



   ◆



「うわわわわー! ここからも水がーっ!!」

「なんでこんな一気に!?」

「レ、レンちゃん! この先、行き止まりだよー!」

「途中で逃げ道の選択を間違ったみたいね……っ」


 突然の水攻め、そして行き止まり。

 最悪の事態を前に、ツバメが口を開く。


「メイさん、木に登るというのはどうですか?」

「なるほど! 【装備変更】っ!」


 メイは【猫耳】から【鹿角】に装備を変える。


「【バンビステップ】!」


 速さを増した足の運びで一気に路の最奥まで駆け抜けて、そのまま『種』を取り足元に手を突いた。


「おおきくなーれ!」


 芽吹いた広葉樹が、一気にその枝を伸ばしていく。


「【ラビットジャンプ】!」


 メイはそのまま木の上へ。

 ツバメも続けて【加速】からの【跳躍】で樹上に跳び上がる。


「レンちゃんっ!」

「レンさんっ!」


 振り返った二人が、同時に手を伸ばす。

 最後に来たレンがジャンプから【浮遊】で宙へ。

 怒涛の勢いで迫る海水。

 メイとツバメが、レンの腕を引き上げる。


「あ、ありがと。流されたら、そのまま海に放り出されてリスポーンなんでしょうね……」


 迫ってきた海水は、レンの足を濡らしていった。

 思わぬ高難度な仕掛けに、安堵の息をつく。


「天井が高くて助かりました」

「ツバメちゃんのおかげだね! みんな無事でよかった。すごい仕掛けでドキドキしちゃったよぉ」


 思わぬ窮地も、メイは楽しそうに尻尾をパタパタさせている。


「ふふ、さすがメイね」

「でも、これからどうすればいいのかな」

「それなら、道はもう見つかってるわよ」


 レンの言葉に、メイが振り返る。

 海水に浸かった迷宮水路。

 一帯に海水が満たされたことで、そこには水のない『正しいルート』が浮かび上がっていた。


「すごーい……」


 そんな仕掛けにメイは、感動の声をあげたのだった。

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