先輩
第37話 敵地
「精が出るねえ」
東和陸軍の士官に声をかけられ、島田正人准尉は飛行戦車のエンジン回りのカウルから顔を出した。
「技術屋のサガでね……自分のミスでぶっ壊れたらシャレにならねえでしょ?それに……こいつの出番が来るかもしれないし」
そう言って島田は戦車の下から這い出して伸びをした。
「確かにな……このままじゃ間違いなく政府軍と反政府武装勢力の衝突は避けられない……しかし、君の言うようにあてになるのかね……あの『特殊な部隊』は」
戦車長の士官の問いに胸のポケットからタバコを取り出しながら島田はほほ笑んだ。
「連中ですか……あてになりますよ……だってあの『近藤事件』を制した連中です。それに今回は切り札もありますんで」
島田はそう言って笑いかけた。東和陸軍の兵士達は誰もが暗い表情であっけらかんとした島田に不審そうな視線を投げる。
「今回は敵味方入り乱れた乱戦状態なんだぞ……あの『剣』を使えば味方の損害も凄いことになる」
戦車長の隣の砲手の下士官のつぶやきに島田は満面の笑みで答えた。
「力任せなんて……うちを舐めてもらっちゃ困りますねえ……伊達に『特殊な部隊』と呼ばれているわけじゃないんですよ……すでに仕込みはかなり進んでるって話ですよ。大船に乗った気でいてくださいよ……ああ、時間になったらシェルターに隠れてくださいね、さもないと……後々面倒なことになるんで」
自信ありげな島田の態度を見ても戦車長の士官の表情は冴えなかった。
「法術兵器……あてになるのかね?あんな現代科学で説明できない現象など……まるでオカルトだ」
「オカルトでもなんでも結構じゃないですか。目で見たリアルを信じるのが俺達の合言葉でしてね……まあ、見ていてくださいよ」
島田の自信満々の言葉に東和陸軍の戦車兵達は今一つ納得できないような表情を浮かべていた。
「今回もまたあの胃弱なヒーローが見せ場を作ってくれますから……安心してください」
「胃弱のヒーローねえ……」
慣れない丁寧な口調を操りながら立ち上がった島田は悠然とタバコをくゆらせながらほほ笑んでいた。
「神前……オメエの本気、見せてみろや」
島田はそう言って天を仰いでほほ笑んだ。
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