第494話:十人十色、いや十(従)魔十色




「それは食べても良いけど、次からは順番を守れよ」

 タコ焼き屋の『美暴食街』限定の豚焼きを盗んで逃げたムンドを叱る。当のムンドは、まだプーリに咥えられていて、プラーン状態で豚焼きを咥えていた。

<ぅはい>

 素直に返事をしたムンドの口から、豚焼きが落ちた。

「……あ」

 なぜ頷くだけで良かったのに、口を開けて返事した?

 いや、良い子だけど。

<!?はぁ!!>

 これぞ絶望!という表情のムンドは、プーリに咥えられているので、取りに行けない。


<きゅ!>

「おぉ!ナイスだヨミちゃん!」

 ムンドの口から落ちた豚焼きは、地面に落ちる前にヨミの角に貫かれた。

 周りの客から拍手が起こる。

 驚いて周りを見回すと、温かい目で拍手をしている人々が……。

 え?これほど注目されてたって事か。

 どこに向かってというわけでなく二・三度頭を下げ、急いでその場から逃げ……るには大所帯なので、ガルムの陰に隠れた。



 無事に戻った豚焼きは、またムンドに咥えられた。

 嬉しそうに咥えたまま首を振っている。おそらく鼻歌も歌っている。

 いや、もう食えよ。また落とす前に。

 因みにプーリは、もうムンドを咥えていない。豚焼きを食べているからな。


<美味いぞ!店主殿!>

 タダムネが豚焼きを食べて体を硬直させて落下した後、またふわりと浮き上がりタコ焼き屋のお姉さんに告げた。

 えぇと、また濃いキャラだな。

 侍の上にオーバーリアクション?

<美味しいにゃ~>

 思わずタダムネを凝視していたら、下の方から可愛い声が。

 癒される。

「もう1個食べるか?」

 肉球に付着したタレを舐めているネルに声を掛けると、両手を差し出された。


 うちの従魔は基本的にお行儀が良い。

 特に大量にあげた時以外は、まずは仲良く1個ずつ分けるのだ。

 ガルムだけは多めだけど、体の大きさの違いだからな。

 リルやムンドも本来の大きさはガルムより大きいけど、小さく変化出来るから基本は1個だ。



 今回は、ひとり2個は食べられたようだ。

 更に追加で注文して、インベントリへと仕舞う。

 悪友や今回の同行者達へのお土産である。

 もし要らないと言われたら、クランハウスに戻ってから従魔達と食べれば良いだけである。

 インベントリは、本当に便利だと思う。

 時間停止で容量無限大とか、本当にテイマーは優遇されている。

 戦闘に関しては役立たずだけどな。


<次はあの屋台に行こう>

 子犬位の大きさになったリルが鼻先で方向を示す。

 ポツリとある屋台は、他に比べて人の入りが少ないように見えた。

 少ないというか、皆無?

 あまり人気が無いのか?と不思議に思い眺めていたら、しゃがんで作業をしていたらしい店主が起き上がった。

 うん。人がいない理由が解った。


 なんか、マッドサイエンティスト系だった。

 白衣には、何かカラフルな液体が飛んでいるし、瓶底みたいな眼鏡をかけている。髪はボサボサだけど、衛生面を考えてか透明なシャワーキャップみたいな袋?を被っている。

 手には手術用手袋らしきもの。

 うぅん、確かにこれは、ちょっと買いたくないだろう。


 行く気満々……と言うかもう歩き始めているリルと、その後ろにヨミ、ネル、ユキが付いて行ってしまったので、俺も諦めて後を追った。

 ガルムは俺のすぐ後ろを歩いていた。




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あまりにも更新が遅いので、従魔の誰が誰だか忘れている方も多いと思いまして、近況ノートに従魔の設定があります。

ご活用いただければ幸いです(*^^*)

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