第489話:商業ギルドからの脅し




「あなた!何事ですの!?」

 とても美人なおば……お姉さんが部屋に飛び込んで来た。

 あなたって呼んだから、この大男の奥さんなのだろう。

 それなら廊下に転がっているのは息子だと思うのだが、そこはスルーのようだ。


 部屋に入って来た女性は、大男を見て、テーブルの上の金の山を見て、廊下と言うか壊れた壁と倒れた息子?と、その横でへたりこんでいる職員へと視線をやる。

 そしておもむろに視線を大男に戻し、口を開いた。

「なぜ壁に投げ付けたの!?修理代が掛かるでしょう!窓から外に放り出しなさい!」


 えぇと、息子の心配はしないのでしょうか?

 あ、目が合った。

「夫と息子が……いえ、うちの職員が申し訳ございません」

 深々と頭を下げられた。



「いや、適正価格で買い取りして貰えるのならば別に良いぞ」

 俺は別に気にしない。

 ジルドとレイも、今なら呆気に取られているので大丈夫だろう。

 出来れば、早々に帰りたい。

 それにしても「うちの職員」と言ったな。

 もしやこの商業ギルドのマスターはそこの大男ではなく、この女性の方か?


「それは勿論ですわ。先程買い取り商品を確認させていただきました。この美食の女王と呼ばれるワタクシでも、初めて見る食材まであり感動しておりましたの」

 それは、フレースヴェルグの肉の事か?


 クラーケン(蛸)は、普通に海にいるみたいだし、異界人プレイヤーはともかく住人NPCなら見た事有るだろう。

「クラーケンもフレースヴェルグも、初めて見ましたわ!」

 そうですか、初めてでしたか。

 そうですか……。




「改めまして、こちらが明細書になります」

 テーブルに積まれていた金の山は片付けられ、代わりに明細書が置かれた。

「こちらがお礼とお詫びを兼ねたものになります」

 スッと明細書の横に置かれたのは、商業ギルドのマークの入ったカードだ。

 カードの真ん中には『10/10』と書かれている。

 嫌な予感しかしない。


「こちらは、『美暴食街』での割引カードになります。飲食店のみになりますが、どうぞお役立てください」

 やはりギルドマスターだった女性と、副ギルドマスターだった大男が揃って頭を下げてくる。

「別に詫びはいらん」

 カードを二人の方へと押しやる。


「それでは商業ギルドとしての面目が立ちません。謝罪を受け入れていただけないのでしたら、このギルドは解体いたします」

 二人はいまだに頭を下げたままだ。

 商人としての矜持きょうじが有るのは本当なのだろうが、おそらくこれは強制イベントなのだろう。


 あのレイが大人しく成り行きを見ているのも、同じ考えだからだろうな。

 しかし、これは謝罪では無く、脅しだと思うぞ。

 『美暴食街』の商業ギルドが無くなったら、どれだけの人間に恨まれるのか判らんし、受け取るしかないだろう。



 後日、爺さんタカアシガニが調べたところ、『美暴食街』の商業ギルドに一度に一定額以上の食材を売ると発生するイベントだったらしい。

 クビになるのは通常は平の職員のようだ。

 お詫びに街での飲食割引の権利が貰える。

 その割引率も、売った食材の希少性ランクと金額で決まるらしい。



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