第279話:しつこい呪いw

 



 ポーンラビット歩兵兎の丸焼き屋へと向かう。

 この前と違って、道が賑わっている?

 周りの空気も明るい。

 例の店に近付くと、元気な怒鳴り声が聞こえてきた。


「兎はな、さっぱりと塩が美味いんだよ!特にうちのはハーブ入りの秘伝のタレだからな!」

「何言ってやがる!甘辛い照り焼きダレのが美味いに決まってるだろ!この前なんてな、五匹も食ってった客がいたんだぞ!」

「うちが休みの間なんてに決まってんだろが!」

「へっ、無理しないでまだ休んでれば良かったんじゃないのか?」

「フン!いなくて寂しいって泣いてたくせによ!」

「泣くか!ボケェ!!」


 仲良いな。

 二店舗の間に椅子を並べて座って喧嘩してる。

 照り焼き味の店は息子二人、塩ダレ屋は息子と娘の二人が真面目に売り子をしている。

 四人ともニコニコしているから、オヤジ達はあの位置に座って喧嘩しているのが良いのだろう。

 塩ダレ屋のオヤジは、まだ腕と足に包帯を巻いているし、横には松葉杖が立て掛けてあるからな。


「そこのべっぴんさん!塩ダレより照り焼きのが美味いぞ!」

 あ、客にまで絡み始めた。

「あらあら、この前照り焼きは買ったから、今日は塩ダレにするわ。次は照り焼きにするわね」

 絡まれた妙齢の女性は、うふふと笑って流していた。

 そうか。絡んでも大丈夫と判っている常連さんなのだろう。

 皆、笑顔だ。



 従魔は全員ガルムの上だ。勿論俺も。

 実は、ちょっと離れた所から見守っている。

 買い出し役のユズコと咲樹だけ、塩ダレの方のポーンラビットの丸焼き屋の前に行く。

「三匹よろしく!」

 ユズコが売り子へ声を掛けた。

「さ、三匹?」

 女性の目がまん丸になる。

「隣で二匹買うからな!」

 いや、ユズコさんや。多くて驚かれているのに、追い討ちかけてどうするよ。


「そんなに買ってどうするんだ?日持ちはしないぞ?」

 塩ダレ屋のオヤジが怪訝な顔をする。

「全部食う!大丈夫だ!」

 宣言したユズコは、背後うしろにいる俺達の方を見もせずに親指で指し示す。

 ちょっと格好良いな、おい。


 オヤジ二人の視線が、ユズコから俺達の方へと動く。

 照り焼き屋のオヤジが俺達……というか、ガルムに気付いたようだ。

 隣のオヤジに何やらコソコソと話している。

 雰囲気的に悪口ではないとは思うが、塩ダレ屋のオヤジの目が見る見る見開かれていく。

「おま、お前!お前達に売れるわけないだろ!!」

 えぇ~!?販売拒否デスカ!!

 ユズコも咲樹もキョトンとしちゃってるよ。




 店の裏のスペースで、茣蓙ゴザを敷いた上でくつろぐ俺達。

「売れるわけないだろ」の真相は、例の呪い発動なだけだった。

 そう。お金を払えない呪いだ。

 前回照り焼き屋のオヤジにスライム粉を渡し、これからは今まで通りにスライムが出現するだろう事を伝えたのだが、どう伝わったのか塩ダレ屋の救世主みたいな扱いになっている。

 皆が享受しているから、俺も諦めた。


 どうでも良いがデモンストレーションとして、店の屋根の上から顔を出したムンドがポーンラビットをバリバリと丸齧りしているのは良いのだろうか?

 口の端からこぼれ落ちた骨を拾って子供が喜んでいるから良いのか?


 そして茣蓙で飲み食いしている人数が段々増えていっている不思議。

 周りの店の人が差し入れを持って来て、そのまま参加している。

 マジで凄いな『agriculture(アグリカルチャー)』。



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