第97話 完全攻略

 ――レイは女神ミリクを倒した!!――


「うぅ……酷い目にあった……」

 ミリクさんが瓦礫の中から這い出てきた。


「いや、ごめんなさい……」

「別に構わん。というかなんじゃさっきの魔法は?初めて聞いたわ」

「私の魔法よ、レイくんにも使えると思ったの」

「ベルフラウ、貴様か……ぐぬぬぬぬ……!」


 ミリクさんは姉さんの魔法でやられたのが相当悔しかったのだろう。

 すっごい歯ぎしりしてる。


「まぁ良いわ、約束通り一撃当てたのだからレイの勝ちじゃよ」

「――え?」


 そう言えばそんな条件だった気がする。

 途中で何でミリクさんと戦ってたのか完全に忘れてたけど。

 そもそも完全にとばっちりだったような……?


「良かったね、レイくん!」

 姉さんは観客席から飛び出して僕に抱きついて、そのまま僕ごと地面に倒れた。

「姉さん痛いって……!」

「ごめんごめん、お姉ちゃんつい興奮しちゃって……」


 というか、姉さんはいつの間にかミリクさんに<無効化>された服が戻っていた。


「ベルフラウ、何故その服が戻っている!?儂はまだ<無効化>したままだぞ!」

 ミリクさんは驚いた声を上げる。それに姉さんが余裕の顔でこう答えた。


「貴女の使った権能ならとっくに私が上書きして<有効化>したわ。元とはいえ、私は女神よ?」

 すっかり忘れていたが姉さんは下着にされていて、その次に見た時は普通に服を着ていた。

 その時には既に姉さんの力で戻していたのだろう。


「……なるほど。貴様は人間とは違う存在だった。

 しかしこの世界の女神である儂の力を上書きするとは……」

 どうやら姉さんの<有効化>はミリクさんの<無効化>より優先されているようだ。


「ミリクさん、姉さんを怒らせると怖いよ?」

「くそぅ……せめてもっと信仰を集められていれば……!」

 信仰?確か姉さんも信仰によって女神の力が強まると言っていた気がする。


「……もしかして、ミリクさんが勇者を集めて魔王討伐させようとした理由って――」

 僕の呟きに、ミリクさんはビクッと反応した。


 そして僕の考えに気付いたエミリアが言葉を続ける。

「ああ、なるほど……勇者を育成したことで自身の神としての名を広めて……」


 その次の言葉はレベッカが締めくくった。

「それによって信仰を高め、自らのお力を増大させるおつもりだったのですね……」


「……………………」

 ミリクさんは何も言わず、ただ俯いていた。


「なるほどね、女神の貴女がここまで精力的に動いていたのは、年月が経ち過ぎて信仰が薄れてしまったから、起死回生として今回の騒動を起こしたと、そういうことでいいのかしら?」


 姉さんの問いかけにミリクさんは黙ったまま、コクンと頷いた。


「……良いではないか、神とはいえ待っているだけで信仰が自然と増えるわけではない。

 神として奇跡を起こし、人々を導いてこそ神なのだから、それの何処が悪い?」

「……それは、そうね」


 確かに神様というのは何かしない事には何も生まれないと思う。

 ミリクさんは最終的な目的はどうあれ、冒険者を育成して勇者として育て上げ、魔王との決戦に備えるための行動なのだ。それは決して悪神と呼ばれる行為などではなく、むしろ善神と言っても良いことだろう。


 レベッカはミリクの傍に跪いて優しく言った。

「ミリク様、顔をお上げください。

 貴女様はわたくしが憧れていた想像の女神ミリクよりもずっと素敵な女神様でございます」

「……レベッカ」

 ミリクさんは顔をあげた。

「貴女様はこうしてわたくし達の前にお姿を御見せになって、わたくし達に道を示してくださいました。わたくし共は貴女様に救われたのです、ですから御立ち上がりくださいませ」


 そう言ってレベッカはミリクの手を取り、立たせた。

「うむ……そうじゃな、済まなかった……」


 こうして、女神ミリク様の企画したダンジョン攻略は終わった。

 僕達は結局『勇者』ではなく、『冒険者』として、魔王との戦いに備えることになった。

 ミリクさんはこのままダンジョンは存続させ、引き続き他の冒険者を育成して魔王との戦いに備えることを決めたようだ。


 ………………


 というか、このダンジョンっていつまで残ってるんだろう?


「さぁ、では帰るとするかの!あー疲れたわい!」

 ミリクさんはそう言うと、そのまま姿を消した。


「僕達も帰ろうか……?」

「そうですねぇ……」

「では、わたくし達も本来の場所へ」

「ええ、そうね」


 ◆


 僕達はエニーサイドを離れ、拠点であるゼロタウンに帰ることにした。

 僕達は帰る前に今までお世話になった人達に挨拶周りをしていた。とはいえ挨拶するのは一握りの人達だけだ。他は冒険者をあまり好ましく思っていない村の人たちとライバルの冒険者くらいしかいない。


 最初に宿の人に声を掛け、その後に酒場へ向かった。


「今までお世話になったね、ありがとう」

「そっかー、レイさん達も帰っちゃうんだね」

 特にお世話になっていた酒場の看板娘のミラちゃんに声を掛けた。


「もうこれからはドラゴンステーキ食べられなくなっちゃうのかな」

 僕達が連日ドラゴン討伐して肉を持ち込んでいたせいで、ここの名物料理となっていたのだ。


「まぁ他の冒険者は残るようですし、また食べられるかもしれませんから」

 今回は僕たちは他の冒険者より先に攻略をしただけだ。

 いずれ僕たちが到達した地下九階まで進む冒険者パーティも現れるだろう。


 その時はきっとこの酒場もまたドラゴン料理で盛り上がるに違いない。

「そうだね、きっと盛り上がると思う!レイさん達もまた遊びに来てね!」

「うん、またね、ミラちゃん!」


 僕はミラちゃんに別れを告げてその場を離れた。

「またねー」とミラちゃんは可愛らしく見送ってくれた。


 そして酒場を出てから、

 レベッカは僕の袖を引っ張った。


「レベッカ、どうしたの?」

「……レイ様はミラ様と仲良かったですよね」

「え、そう?」

 レベッカにそう言われたが、特に思い当たることも無かった。


「いえ、別にいいんですけど……」

「ミラちゃんはレイくんと同じ十五歳だから気が合ったんじゃないかしら?」

「おや、私達と同年代でしたか」

 エミリアも少し前に誕生日を迎えており、今は僕と同じ十五歳だ。


「もしかしたら同年代の年の人が居なかったからかな?」

 ここの村に他に若い子がいなくて話す人がミラちゃんしか居なかったのはある。実際、彼女の名前を知ってから酒場に来るときは、ミラちゃんに真っ先に話しかけていたと思う。


「ふぅん……そうでございますか……」

 心なしかレベッカが冷たい気がする。

「レイが思ったよりロリコンじゃなかったからレベッカが怒っているのでは?」

「何でだよ!?」「そんなわけないでしょう!?」

「えぇっ……」

 エミリアは冗談のつもりだったのだろうが、

 僕とレベッカが同時に言い返したことで怖気づいて謝った。


「その、ごめんなさい、冗談のつもりだったのですが」

「いや、そこまで謝らなくても……」

「冗談でございますよ、エミリア様……ふふ」

 レベッカは本当に少し怒っていた気がしたが、言及しないことにした。


 ◆


「おう、帰っちまうのか」

 僕達は何だかんだお世話になった同じ冒険者のジャックさんと話していた。

「色々アドバイスありがとうございました」

 この人はスキンヘッドの赤鎧でコワモテな人だったので、最初来たばかりはいきなり喧嘩吹っかけられて怖かったけど、いざ話してみると気さくでとても良い人だった。


「結局おめえらに先を越されちまったなぁ」

「ジャックさん達は今地下何階まで進んでいるんですか?」

 僕が以前に聞いた時は確か地下四階だったと思う。


「地下八階だ、ゾンビばっかりの場所で何度でも復活するから苦労しちまってな」

 あの場所か、僕達も姉さんに無茶させちゃってかなり苦労した場所だ。


「咄嗟の場合は浄化を使いながら進むのがお勧めですよー」

「その次はドラゴンと戦うので覚悟した方がいいと思いますね」

 姉さんとエミリアの言葉にジャックさんは少し驚きつつ言った。


「忠告、有り難く受け取っとくぜ、向こうに行っても元気でな!!」


 僕たちはジャックさんと別れた。

 他にもカシムさんを探していたのだが、どうやらこっちにはもう居ないようだ。

「あの筋肉おじさま、かなりの強者ですね」

「ジャックさんだよ」

 結局僕以外誰も名前覚えなかったな。

 物理主体の編成で地下八階までいけるのはかなり凄いと思う。


 そして最後に僕たちはあまり関わりの無かった村長の家を訪ねた。

 一応村の世話になったということで、少し顔を見せたらすぐに馬車で帰るつもりだ。


「村長さん、お世話になりました」

「おお、あなた方が女神ミリク様の神託があった勇者様たちですな!」

「えっ、神託?」

 いやいや、勇者になるのは断ったんだけど……。


「昨日、私は昨日ミリクを名乗る女神様が現れましてな。

 があなた方は伝説の勇者だから協力するように言われました」

「そ、そうなんですか」

 あの女神駄女神、最後に余計な事を……。


「ミリクは今度会ったら私が直接殴るわ……」

 怖いから止めて、姉さん……。


「それと、これを受け取ってください」

 そう言って村長は袋いっぱいに積めた回復薬や金貨などを入った袋などを渡してくれた。


「こ、こんなの受け取れませんから!」

「いえいえ、冒険者様のお陰でかなりこの村は潤いました!

 こんなのはした金ですよ!」


 伝説の勇者にはした金を渡すな。ミリクさんの嘘だけど。


「実はこの村を広くして街にするために今準備中でしてな……」

「そ、そうでございますか……」

「へ、へえ……」

 唐突な村の展望を聞かされてレベッカとエミリアは戸惑っていた。


 適当に話を切り上げて僕たちは最後に村長さんに一冊の本を貰った。

「実は村で保管していた古文書なのですが、

 そこに魔王を倒すためのヒントが書かれているらしいのです」


「ま、魔王ですか……」

 僕はそれを聞いて、ミリクさんが言っていた言葉を思い出した。


『お主らは勇者となり、魔王と戦うのじゃ!!』

 僕達は断ったつもりなのだけど、もしかして誤解されてる……?


「そ、それでは、お世話になりました!」

「はい、お元気で!」

 僕達はさっさとその場から離れて馬車へ乗り込んだ。


「まさかあんな話をされるなんて思ってませんでしたねー」

「ミリクのせいよ、絶対!!」

「姉さん落ち着いて……」


 馬車の中で暴れている姉さんを宥めながら、僕達は馬車に運ばれてゼロタウンへと帰っていった。勇者になるつもりはないけど、もし魔王やその部下が襲い掛かってきたのなら僕たちは戦うつもりだ。大切な人を守るために、そして大切な人達と幸せになるために共に戦う。僕達は仲間であり家族でもあるのだから……。

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