第四章 ダンジョン編(中編)

第56話 地下六階その1

 エミリアにお預けされた次の日

 僕達は地下六階の攻略に向かうことになった。


「おはようございます」「おはよう二人とも」

 僕とエミリアは宿の外で待っていた姉さんとレベッカと合流した。

 合流して僕達はダンジョンに向かい、宝珠で地下五階に向かった。


 最初の時にきた地下五階は真っ暗な森だったのだが、

 今は普通に朝日が差していた。あの暗闇は何だったのだろう。


「レイが魔物を倒したら元に戻ったみたいです。

 ミリクさんは階層の所有権を取り戻せたと言っていましたね…」

「そうなんだ…もうあんなことが無ければいいんだけど」

 僕達は五階の扉の前の台座に『Ⅴ』の宝珠を入れて次の扉を開いた。


 ―――地下六階

 地下五階の扉を開くと下に降りる階段があった。

 階段を下に降りていくと、石壁で作られたダンジョンに繋がった。

 雰囲気は地下三階に近いだろうか。

「今まで変な場所が多かったのに、急に普通な感じになったね」

「ミリクの趣味なのかしら…気を付けましょうね」


 階段から出た部屋から僕たちは進む。

 部屋には明かりはあったが、通路は薄暗く前があまり見えなかった。

「姉さん、ランタン貸してくれる?」「ん?はい」


 僕は姉さんからランタンを受け取り先頭を歩いていくが、壁に黒い何かが張り付いている。

 多分蝙蝠だろう。ただ、魔物の可能性もある。


「ステッキか剣に火を灯して追い払いましょうか」

「前みたいに襲ってくる可能性もあるし、近づくのがちょっと怖いかな」

 以前に吸血蝙蝠きゅうけつこうもりというモンスターに遭遇したことがある。


「なら魔法で追い払いましょうか、<初級風魔法>エアレイド

 エミリアの風魔法で壁に張り付いた蝙蝠は飛ばされ、そのまま逃げていく。

 その際に風で通路の埃が舞い、僕らにも飛んできてしまった。


「うっ…通路は埃が……」

「エミリアさま、部屋はともかく通路で炎魔法は使わない方が良いと思われます」

「…また炎魔法がダメなのですか…ううー」

 狭く密閉されていて埃っぽい空間は下手をすると粉じん爆発が起こる可能性がある。


「エミリアには悪いけど、ここで炎魔法は使わない方が良さそうだね」

「仕方ありませんね」


 そうして僕たちは前方に警戒しながら進むと分かれ道があった。

 左、右、そして前と三方向に分かれている。僕たちは手前に道しるべを残して左へ進んだ。

 先へ進むと扉があった。

「気配はないね、入ってみよう」

 僕とレベッカが『心眼』で気配を調べてから部屋に入る。

 中に入ると奥に明かりがあり、宝箱が置いてあった。

「あ、宝箱…」と僕は言いながら部屋に足を踏み込んで真ん中辺りにを歩くと――

 カチッと僕の足元で音が鳴って、ガコンと足元の床が崩れてしまった。

 しまった!落とし穴!

「ちょっ!」「レイくん、危ない!」

 僕が落ちそうになったところで姉さんが僕の手を掴んで引き戻そうとするが、

 二人でそのまま落とし穴に落ちてしまう。


「レイ!ベルフラウ!」「レイさま!」

 無警戒でレイが進んでしまい落とし穴に落ちてしまいベルフラウまで落ちてしまった。

「…っ!どうしましょう…!」

 万一即死トラップでもあったら、二人とも…!

 私はそこまで考えてから、部屋の外からドガッと重いものが落ちた音がした。

「エミリアさま、もしかして―――」

「え―――?」



 僕達は落とし穴に落ちてしまった。

 しかし、穴は意外と高くなかったようですぐに僕たちは下に足がついてしまった。

「いったあ……姉さん大丈夫?」

「うん、大丈夫…ここはどこ?」

 少し尻餅を付いたが大きな怪我は無かった。

 周囲をみるとさっきの部屋と同じような部屋だった。


 部屋の外からドタドタと何かが走ってくる音が聞こえる。

「敵襲の罠!?」

 そう思って僕たちは身構えるのだが、部屋に入ってきたのはエミリアとレベッカだった。


「レイ!ベルフラウ!無事ですか!?」

 入ってきたエミリア達の姿を見て僕たちはホッとした。

 僕達は落とし穴から分かれ道の右側の部屋にワープさせられたらしい。

 エミリア達は僕たちが落ちた直後に部屋の外から物音が聞こえてこの部屋に来たらしい。


「レイさま、無警戒過ぎますよ!」

 プンプンと怒るレベッカ、僕は反論出来なかったので謝った。

「ご、ごめんね、今度は気を付けるよ…!」

 兄としてちょっと恥ずかしい…。


「そうしましょう、この部屋は少し広いけど何も無さそうなので出ましょうか」

 エミリアはそう言って部屋を出ようとするのだが、突然扉が閉まった。


「えっ……!?開かない…!」

 姉さんが慌てて扉を開けようとするが、鍵が掛かっていた。

「これは………罠ですね!」

 エミリアが言った通り、部屋の奥から魔物が出現した。


「奥に魔法使い風のゴブリンが二体と、あれは……」

「正面の敵は、二階で戦ったゴブリンウォーリアーですね」

「奥のゴブリンは魔法を使うのかしら、珍しいわね…」

 姉さんの言うように、後ろの二人のゴブリンは魔法を使ってきた。


「みんな下がって!」と言いながら僕は前に出て盾を構える。

<初級雷魔法>ライトニング」「<初級風魔法>エアレイド

 ゴブリン二体の初級魔法を僕が盾で受ける。

 初級魔法程度なら装備と盾があれば殆どダメージを受けない。


「魔法は大した威力じゃないけど…」

「あの前衛の敵はちょっと厄介ですね、魔法効きませんし…」

「それなら先に後衛を―――」

 レベッカは後衛を弓で射撃するのだが、前衛のゴブリンが斧で矢を防いでしまう。

「うわ、面倒…」

「前衛を倒さないと後ろに攻撃できませんね…」

「じゃあ………<束縛Lv3>バインド

 姉さんは後衛の敵に<束縛>を仕掛けるが耐性があるようで直ぐに解除されてしまった。


「レベッカ、強化魔法お願い。とりあえず前衛の相手をするよ」

「はい、お任せください」


 僕はレベッカに一通り強化して貰って前衛のゴブリンウォーリアーに斬りかかる。

 敵も僕に反応してこちらに斧を振りかぶるが、速度を上げて貰ってるのでまず当たらない。


<剣技・雷魔法>ソードライトニング

 僕は魔法剣で斧と打ち合うのだが、魔法効果は打ち消されて単なる斬撃になってしまう。

(……うーん、魔力食いの剣の攻撃も無効化されないよね…?)


「レイさま、援護します」

 レベッカの矢が飛んできて、ゴブリンウォーリアーは斧でそれを弾き返す。

 その隙に魔力食いの剣に魔力を込めて斬りかかると、無効化されずにダメージが通った。


 しかし、そこに後ろから魔法が僕の方へ飛んでくる。

<中級雷撃魔法>サンダーボルト」「<中級凍結魔法>ダイアモンドダスト

 ゴブリンがそのレベルの魔法使うの!?

 流石にどちらもまともに受けるわけにはいかない魔法だ。


 しかし、エミリアと姉さんが事前に敵の様子を伺ってたようで

「「<魔力相殺>ネガティブマジック」」と声を揃えて魔法を発動。

 両方の敵の魔法を無効化してダメージを受けずに済んだ。


「レイさま、一度下がってください!」

 と言いながらレベッカは詠唱を始める。おそらく行動制限狙いだ。

 僕は後ろに下がり、レベッカの詠唱を待つと同時に剣に魔力を込め始める。


<地割れ>クラック

 レベッカの地割れの魔法がゴブリンウォーリアーの足元の床に亀裂を起こす。

 巨体のため地割れに落ちることは無かったが、バランスを崩して敵は隙を晒した。


「今だ!」

 僕はゴブリンウォーリアーに飛びかかり、斧を持った右腕を剣で斬り飛ばす。

 その後直ぐに魔法を発動する。

<中級爆風魔法>ブラスト!」

 僕の風魔法でゴブリンウォーリアーは後衛の魔法使いの所まで吹き飛んだ。

 これで敵は魔法を防ぐことは出来ず、位置も固まったことになる。


「エミリアちゃん、もう撃っても良いんじゃない?」

 事前に詠唱を終えていたエミリアに姉さんが声を掛ける。


<氷の槍>アイスランス

 エミリアの周囲に六本の氷の槍が浮かび上がり敵に目掛けて飛んでいく。

 それぞれ二本ずつ敵に突き刺さり、敵は黒い煙を上げて消滅した。


 その後、宝箱一つと魔石が複数手に入った。

 宝箱の中身は金貨三枚だった。敵の強さの割に微妙だ…。


「……はぁ、強かったねー」

「面倒な相手でしたね、あのレベルの相手と連戦は避けたいです」

 強力な前衛と強力な後衛の魔法使い二体が連携を組むとかなり面倒だ。

 今まで敵が連携で襲ってくることが無かったので、想像より大分苦戦した。


「……そう言えばレイ、随分中級魔法の詠唱が早くなりましたね?」

「えっ?そうかな」

「はい、さっきの<中級爆風魔法>ブラストもほぼ無詠唱で撃ってませんでした?」

 言われてみれば、意識して無かったけど即時発動してた気がする。一度ミリクさんに復活させてもらってから、妙に魔力を溜めやすくなったかも……?


「どういうわけか分からないけど、剣を持った時だけほぼ詠唱しなくて良くなった気がする」

「何ですかそれは、反則的な能力ですね……!」

 何故かエミリアに怒られてしまった。


 しかし、自分の軽率な行動のせいで無駄に戦闘をさせてしまった。

「レイさま、これに懲りたらちゃんと警戒して部屋に入ってくださいね?」

「はい、反省してます……」

「ふふふ、レベッカちゃんに怒られちゃったねー」


 戦闘を終えたら扉が開くようになったので僕らは元の道へ戻り、

 まだ行っていない通路を進む。するとまた扉があった。


「……今度は複数の気配がする」

 間違いなく敵は待ち構えているだろうが、正確な数は不明。

『心眼』は大まかに存在を感知するのは得意でも細かい把握が出来ない。


<索敵Lv7>サーチ

 こういう場合はエミリアの出番になる。

 エミリアが詠唱している間、僕たちは周囲を警戒する。


「索敵完了、敵の存在は15体、部屋はさっきより広いです」

 15体か……ごり押しで突っ込むには危険な数だな。

「ゴブリンウォーリアーほど強力な個体は居ないと思います。

 が、並のゴブリン程度とは思わない方が良いでしょうね。警戒すべきかと」


 確かに…単なるゴブリンならそこまで脅威ではないけど、

 上位種が複数混じってると途端に難易度が跳ね上がってしまう。


「敵をおびき寄せて、通路で少数ずつ撃退する手も考えられますが」

 これはレベッカの提案。悪い手では無い。しかし……


「状況によってはアリだとは思う。

 ただ、この狭い通路で挟撃された場合こっちが大きく不利だよ」

 この階層の通路はあまり広くない上に薄暗い。

 こちらが気付かないうちに敵の接近を許してしまうと挟み撃ちにされる。


「うーん、レイくんはどう考えてる? 正面突破?」

「……そうだね、ただ時間を掛けずに勝負を決めようと思う」

 僕は三人に作戦を伝えた。


「それじゃあ…行くよ」

 三人が頷くと、僕はわざと扉を大きく開けて音を立てる。

 予想通り、敵は全員こちらに気付いて凝視してきた。

 見た感じ、ゴブリンの上位種が多いが一番強くても武装したホブゴブリン3体だ。

 次点で危険なのが弓使いのゴブリン5体、残りはそこまで脅威ではない。


「姉さん!」「うん、<閃光>フラッシュ

 事前に詠唱を終えていた姉さんの魔法が発動する。

 名前の通り閃光を放つだけの魔法だ。特に威力があるわけではない。

 しかしその光をまともに目に浴びてしまうと一時的に目が眩んでしまう。

 わざと音を立てたのは注目させて魔法の成功率を上げるためだ。


 そして、ここからがスピード勝負。

 敵の目が眩んでまともに動けない間に敵を殲滅する。

「レベッカ」

「はい、準備は終えています。<礫岩の雨>ストーンレイン

 即座に部屋に入ったレベッカは詠唱済みの魔法を発動させる。

 この魔法は広範囲に瓦礫の雨を降らせるという魔法だ。

 <礫岩投射>ストーンブラストの上位魔法と言える。

 ランダム性が強いが直撃した場合の威力は髙く当たれば雑魚なら一撃で昏倒させられる。


 そして直後に僕とエミリアが部屋に踏み入る。

 僕は剣で、エミリアは魔法で残った敵を一体ずつ撃破していく。

 ホブゴブリンは最速で僕が撃破、エミリアは残った弓使いと雑魚を狙う。


 しかし、<礫岩の雨>ストーンレインで必ず即死させられるわけではない。

 僕達は動いてる敵を最速で狙っているため、視野が狭くなっており不意打ちをされる可能性がある。

「っ!」

 エミリアは後ろから起き上がった敵にすぐに気付くことが出来なかった。


 しかし―――


<束縛Lv3>バインド


 その場合の警戒役として姉さんが常に部屋を見張って待機している。

 もし僕たちに危険があれば、即座に魔法で敵を捕縛して行動不能にさせる役割だ。

 また魔法を終えたレベッカは姉さんの護衛のため部屋の入り口付近に待機している。

 こうして僕たちは敵をどうにか殲滅させることが出来た。


「みんなお疲れさまー!」

「ふぅ、さっきはありがとうです、ベルフラウ」

「気にしないで、エミリアちゃん」


 戦闘後のエミリアと姉さんの会話だけど、ちょっと気になることがあった。


「あれ?二人ともそんな呼び方してたっけ?」

 確か姉さんもエミリアもお互い『さん』付けだったはずだが。


「色々あって前より仲良くなったの、ね?」

「そうですね、長い付き合いなのにいつまでもさん付けは他人行儀ですから…」

 言われてみると姉さんとエミリアは以前より少し距離が近くなった気がする。

 僕が昏睡状態の時に何かあったのだろうか。


「レイさま、魔石の回収終わりましたよ」

「ありがとう、レベッカ」


 さて、まだこの階の攻略は終わっていない。

 僕達はこの部屋を出て更に先へ進むことにした。

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