第45話 地下四階その1

 僕たちは地下三階の扉を開けて階段を降りる。


 ―――地下四階

「えーっと……」「おおー……」

 僕たちは地下三階からの階段を降りたはずだ。

 地下なのだから周りは壁や床で覆われた光の届かない空間、

 それがダンジョンというものだ。


 そのはずなのだが―――


「何で野外に居るんですかね…」

 僕たちはどうみてもダンジョンとは思えない外の光景を見ていた。


「外に空間転移させられたとか、そんな感じなのかな?」

「うーん、空間転移……なのかしら?」

 周りの光景は岩山に囲まれているが、天井のようなものは無い。

 少なくともダンジョンの中には見えないが…。


「空の色が……」

「え?」

「空の色が妙に暗く感じますね……」

 レベッカの言葉で僕たちは空を見上げる。確かに暗いが……。

「雨でも降ってくるのかな…」

「しかし、この暗いのは雨雲が理由なのでしょうか、

 雲に覆われているというよりは、空の光が薄いという感じもしますね」


 もしかして、ここは地上に見せかけたダンジョンなのだろうか。


「こうしていても仕方ないし、探索しよう」

 僕たちは疑問は置いといて探索を再開することにした。


 僕たちは岩山の中腹辺りにおり、どうやら降りることは出来ないことが分かった。


「見えない壁が……」

「本当にダンジョンみたいですね」

 降りようとする場所は全て壁に阻まれていた。

 反対に上に登る方には壁が無く、どうやら上に行かねばならないようだ。


 仕方なく僕たちは上を目指して歩く。

 足場は舗装されておらず、足場は岩ばかりでゴツゴツしてて少し歩きづらい。

 これは頂上に登る頃にはかなり足が痛くなるだろうな…。


「わぷっ!」「おっと!」

 足元の少し段差のあった岩に躓いたレベッカを支える。

「あ、ありがとう…ございます」

「うん、気を付けよう」

 ここは足場が悪いし、とんがった岩も転がっている。

 危ないのでレベッカの手を握って比較的安全な岩場に誘導する。


 その時―――


 僕たちの周りが急に揺れ始めた。

「じ、地震!?」

「こんな岩場で!?」

 僕たちは落石に遭わないように慌てて身を伏せて避難しようとするのだが。


「ち、違います!揺れてるのは私たちの足元が――!」

「せり上がってる!?」

 僕たちはその岩場から急いで退避してもう一度振り返ると――


「え」

 岩場がなんか二足歩行で動いてるんだけど…

「違いますみなさま!これはモンスターです!」

「「「ええっ!?」」」


 それは岩で出来た二足歩行する人形だった。

 岩の大きさはどれもバラバラでいつひっくり返るかも分からないが、

 それでも人間のように岩で出来た足で体を支えて動き回っている。


「この魔物はストーンゴーレムですね」とレベッカが言う。

 ゴーレムっていうとファンタジーで言われる自立稼働する人形のことだ。


 そんなこと言ってたらゴーレムが腕の部位の岩でこちらに殴りかかってきた。


「危ないですね!」

 とエミリアは後ろに下がって避ける。

 幸い大振りで動きも鈍いため、エミリアでも容易に避けることが出来るがあの大きさの岩をまともに食らったらただでは済まない。

「姉さん!とりあえずこいつを止めよう!植物操作で…!」

「で、でも近くに植物があんまり生えてなくて……あ、そうだわ!」


 思いついたのか、姉さんは魔法を詠唱する。


<束縛Lv2>バインド

 姉さんの魔法が発動。魔法の鎖がゴーレムに巻き付き足や腕を拘束する。

 これは以前にゴブリン召喚士から食らったことがある魔法だ。


「これでどうかしら――!」

 ゴーレムは身動き取ろうともがくが簡単に鎖は外れないはずだ。


「それで、こいつはどうやれば倒せるんだろう?」

 固い岩を剣で殴っても剣の方が折れそうで安易に斬りつけることも出来そうにない。


「魔法は――通じるものが少なそうですねぇ」

「わたくしの魔法は同じ岩や瓦礫の魔法が多いので効きそうではありますね」


 レベッカは試しに自身の魔法を発動してみる。


<礫岩投射>ストーンブラスト

 レベッカの周りに石や瓦礫が浮き上がり、拘束されたゴーレムにぶつかっていく。

 するとゴーレムの岩にヒビが入っていきダメージを与えた。


「一応効いてはいるみたい…」

 この調子でレベッカが魔法を連射すれば倒せそうだが魔法力MPが持ちそうにない。

 周りは岩だらけだ。他も擬態してまた襲ってくるだろう。その場合にレベッカ一人に頼りきりだと限界が来る。何とか対処法を見つけないと。


「ジャックさんが苦戦する理由が分かった気がする」

 ジャックさんのパーティは物理攻撃主体と聞いている。

 下手すると武器が破損するこの敵が相手だと相性はあまり良くないと思う。


「ねえみんな、そろそろ<束縛>バインドが限界なんだけど……!」

 姉さんは魔力を送り続けて束縛を維持してるが今にも鎖が切れそうだ。


「仕方ありません!私がサポートするので剣で斬りつけてください!」

 そう言いながらエミリアは詠唱を開始する。

「えぇ!?武器壊れちゃうよ!」

「そうならないように脆くします!<物防弱化Lv1>プロテクトダウン

 エミリアの魔法が発動、ゴーレムの周囲に青い魔法陣が展開され青い煙に包まれる。


「この魔法は一時的に相手の防御を脆くします、今の間に試してみてください」

「わ、わかった!」

 僕はおそるおそるマジックソードを引き抜いて、拘束されたゴーレムの胴体に斬りかかる。


 ガキンッ!


「……っ!」手に衝撃が走る。

 表面の岩石は剣で斬ることは出来たが芯の方になると威力が足りてない。


「駄目だ!少しは斬れたけど全然威力が足りない!」

 僕は一旦後ろに下がりながら敵の様子を伺うが、やはり倒れる様子はない。


「ごめんなさい、もう無理!」

 姉さんの悲痛の声が聞こえてゴーレムの拘束が解かれてしまった。

 流石に長時間あの重さを支え切るのは厳しかったようだ。


「どうしましょうか…!」

「弱化魔法は経験値が足りなくて威力が…すみませんが魔力食いの剣を使ってください」


「くそっ!こうなったら魔力を気にしてる場合じゃないか!」

「レイくん!手を回復するわ!<中級回復魔法>キュア


 姉さんの魔法で手の痺れが消えた僕は魔力食いの剣を抜いて魔力を込めていく。

 何度も使用したから少しずつ要領は掴めてきている。

 中級魔法1発分くらいの魔法力を使えばマジックソードの1.5倍くらいの火力が出せる。


「てやああああああっ!」

 僕は暴れるゴーレムに飛び込み上段から下へ斬りかかった!


 ズゴォォォォォ!

 今度は深く剣が食い込み、ゴーレムの体が崩れ落ちた。


「おお、さすがレイさまです!」

「レイくんすごーい!!」

「ほっ……お疲れ様です、レイ」


 3人の労いの声を貰って僕は「ありがとう」と答える。


「だけど、レベッカが体にヒビを入れたのとエミリアの弱化魔法のお陰だよ。

 あれを無傷の状態から倒そうとするとかなり魔法力MPを消費することになると思う」

 自分の一撃で倒そうとするなら今使った倍以上くらいだろう。

 それだと僕はあと数回ゴーレムを倒すと魔力が枯渇し動けなくなる。


「ふむ……もう少し良い対策を考えなければなりませんね…」

「うーん……ひとまず先に進みましょうか、また出てきたときに色々試しましょう」


 ひとまず僕たちはまた歩き出す。

 通れそうな場所に沿って歩いていくと真っすぐに進む道の他に横に逸れて行ける場所があった。

「あっちの方はゴーレムが突っ立ってるんだけど…」

 横に逸れる方の道の先にゴーレムが立ち塞がっており、その先に何か光が見えた気がする。

「あれは……おそらく宝箱ですね」とレベッカは言った。


「宝が欲しければゴーレムと戦えって事だろうか…」

「丁度いいのでもう一回挑んでみましょうか……お宝の為じゃないですよ?」

 お宝の為なんだろうなあ…。

「(エミリアさんらしいわ…)」

「(エミリアさまらしいです…)」


 結局お宝に釣られた僕たちはゴーレムに挑むことになった。

 遠くで見てる間は何もしてこなかったが、近づくと動き始めて襲ってきた。

「ベルフラウさん!」

「ま、またなの? <束縛Lv2>バインド

 初手で姉さんの魔法でゴーレムを足止めして、その間に対策を考えるという案である。


「それじゃあ今度は魔法で試しましょうか、レイも手伝ってください」

 そう言ってエミリアは魔法の詠唱を始める。


「じゃあ…<初級炎魔法>ファイア

 僕は右手で炎魔法を放ちゴーレムに火の玉を直撃させるが、あまり効果が無いようだ。

「次は<初級風魔法>エアレイド

 風の刃を切り裂く魔法だが、ギシギシとゴーレムは風で揺らぐくらいでダメージは見られない。

「ではこれで行きましょう<中級雷撃魔法>サンダーボルト

 エミリアの強力な雷撃の魔法だ。直撃した部位の岩石が砕け、砕けなかった断面は熱で岩が溶解している。

「高威力の魔法であればダメージは与えられるみたいですね」

 このままエミリアが魔法を連発すれば普通に倒してしまえそう。


「あの、束縛を継続するの結構辛いんだけど」

「わたくしは少々やることがありませんね…<地割れ>クラックとか使ってみましょうか?」

 姉さんの方は結構しんどそうだ。レベッカの案の魔法は確かに効果は十分にありそうに見える。

「ベルフラウさんはあと1回だけ待っててください。

 レベッカの案は悪くないのですがここは山場なので揺れで万一の落石や崖崩れが怖いです」

「それならどうするの?」

「今見た感じなんとなく倒せそうな魔法がありそうなので試してみます」


 そう言ってエミリアは詠唱を始めた。しかし、これは……何の魔法だ?

「もし敵が動いたらベルフラウさんもう一度<束縛>お願いしますね」

「えぇ…!?」


 喋りながらエミリアは魔法を完成させていく。

 あれ?これは風魔法だろうか。さっきまでは炎魔法だと思ってたんだけど…。


「完成しました、皆さん離れててくださいね。ちょっと威力が高いので!」

 そう言って僕たちはエミリアの邪魔にならないように後ろに下がる。と、同時にゴーレムの束縛が溶けてしまう。


「それじゃあ行きますよ!……<炎球>ファイアボール!!!」

 エミリアの魔法発動と同時に、エミリアのステッキの先端からエミリアの体より大きな火球が一直線にゴーレムに飛んでいく。


 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!


「うわっ!」「きゃああああ!」「わわっ!」

 火球が飛んだと当時にものすごい熱量と強烈な風が起き、僕たちは吹き飛ばされないように踏ん張る。

 そしてようやく風が収まってからエミリアの声が掛かる。


「終わりましたよー」

「えっ?……うわ……すっごい」

 エミリアが火球を放った方向を見るとゴーレムの居た場所の岩石が熱量で溶解し、火球が通った場所に穴が出来ていた。

 その周りには真っ黒になった地面が見える……。


「……これ、<炎球>ファイアボールよね……」

「あの魔物が使っていた魔法、でしょうか…」

 姉さんとレベッカが驚いた声で呟いた。その名前は確か白い狼が使っていた魔法だ。


「エミリア、あの魔法もう覚えたんだ…」

 しかも威力がとんでもなかった。魔物の<炎球>は詠唱は早いけどここまでの威力じゃない。

 もしエミリアの<炎球>を迎撃していたら僕は一瞬で溶けていたかもしれない。


「私の場合、自分が使える魔法を組み立てて使った感じですけどね。何とか再現できました」


 <初級炎魔法>ファイア3回と<中級爆風魔法>ブラストを合成した魔法で、

 炎魔法を3回掛け合わせて熱量を大幅に上げて、風魔法で敵陣に吹き飛ばして当てたらしい。


「それ、本来のファイアボールなの?」

「さあ?あの本を読みこめばもっと違う使い方になるのかもですが…」

 実質オリジナル魔法じゃん。エミリア天才なのでは……。

 そんな話をしながら僕らはゴーレムが守っていた宝箱を調べることにする。


「今回はわたくしが使いますね<判別魔法>ハイドチェック

 レベッカの魔法で宝箱は青色に光った。つまり安全ということだ。

 僕たちはその宝箱を開けた。


「これは………」

「金貨1枚ですね……」


「………?」

 何か姉さんがちょっと不思議そうな顔してるけど。

「どうしたの、姉さん?」

「いえ、何か今までと違うなって……」

「うん、妙に中身が質素だよね……」

「そうじゃなくて……うーん、何といえばいいのかしら?」

「???」

 結局姉さんの言いたいことはよく分からなかった。


 無駄に戦闘させられた気がして若干イラッとしたが、

 僕たちは頂上を目指して歩いていく、それから何度かゴーレムやホブゴブリンが襲ってきたが、

 エミリアの<炎球>ファイアボールとレベッカと僕の攻撃で倒してなんとか凌いでいる。

 今のところは落石も起きず順調に進んでいった。


「エミリアのさっきの<炎球>ファイアボールみたいなの僕にも使えたらなぁ…」

 今の僕は初級魔法と中級魔法は使えるけど、中級魔法は詠唱が長くて使いどころが無い。


「まぁいざという時に使えると良いかも?簡単なの教えてあげますよ?」

「えっ?そんなのあるの?」

 正直自分では使えるとは思えないんだけど、出来るなら使ってみたい。

「初級魔法と初歩魔法を一回ずつ組み込むだけの魔法です。練習すれば出来るかと」

「本当?教えて!?」

「ふふ、分かりました。それでは夜にでも特訓しましょうか」


 ◆


 そして…

「周囲が暗くなってませんか?」

 エミリアにそう言われ、周囲を見ると確かに視界が暗くなっている。

「最初から空は暗かったから考えなかったけど、ちゃんと夜があるのね」

「山で上を目指すにしろ、夜は危険です」


 流石に進むのは危ないので、

 僕たちは平地の場所を探して今日の所はここで野営をすることにした。


「防御結界完成しましたよー」

「お疲れ様です、私の拠点結界も描き終えました」

 ある程度の広さの防御結界の中に少し小さい拠点結界を組み合わせることで、

 敵の侵入を防ぎつつ疲労回復を早める結界を作ることが出来る。


「お待たせしました、レイ」

「うん、大丈夫」


 今から昼に言っていた魔法の特訓の時間だ。



 その一時間後に―――


「拠点結界の上にテントを張るよ」

 僕は鞄から携帯用のテントを二つ取り出す。

 あまり大きくはないが小柄な女の子二人なら詰めれば一つのテントで寝られるだろう。


「見張りはどうします?」

「結界あるから大丈夫とは思うけど最初は僕が見張るよ」

 そう言って魔法で火を起こして座って休むつもりだったのだが、


 それから数十分後にレベッカが来て言った。

「お兄様は魔法力をかなり使われてるご様子、今の見張りはお任せください」


 レベッカにそう言われ、折角なので僕はテントで休むことにした、のだが――


「………」

 片方のテントはエミリア、片方は姉さんが寝ている。

(流石に一緒に寝るわけには……テントの後ろで寝ていよう)

「……レイ?寝る場所が無いのですか?」

 寝ぼけ眼のエミリアが声を掛けてきた、起こしてしまったようだ。

「ごめん起こして…外で寝るから大丈夫だよ」

 と言ってテントから離れようとしたのだが、袖を引っ張られてしまった。



「……良いですよ、一緒に寝ましょう」

「????????????????」



 レイです、何故かエミリアに同じテントで寝ることになりました。

 このテント、元々は一人用なのでかなり狭くて普通に二人入ろうとするとかなり密着する状態でして、要するに今、僕とエミリアは背中合わせにかなり密着した状態です。背中からエミリアの体温が感じられるくらい近いので色々まずいです。具体的にはちょっと眠れそうにありません。


「………」「………」

 エミリアは寝ているのだろうか…。


「…レイ?」

「は、はい!」

 もう寝てると思ってたけどまだ起きてた!


「………レイ」

「……どうしたの?」

「…………………………貴方は…何処から来たんですか…」


(……っ)


 ……隠す必要はないんだ。言ってしまおう。

 例え信じてもらえなくてもいい。隠したせいでエミリアが悲しい顔をするのはもう見たくない。


「エミリア……僕は……」

「………」

「僕は、ね……ここじゃない世界から来たんだ…」

「……」

 ついに言ってしまった…。

「……こことは違う地球って場所でね……僕はあっちで……」

「……………………………………すぅ」

 ………?あれ?エミリア寝てない?

 後ろを見るとエミリアはすっかり眠っていた。


 それで緊張が途切れたのか、僕はそのまま眠ってしまった。


 ◆


 ―――次の日の朝

 僕はエミリアと向かい合わせになって抱き着いて眠っていた。

 身じろぎして寝返りを打ったらしい。しかも向かい合わせということは両方がである。


「レイさまがあまりにもお幸せそうだったので起こさずにおりました」

 レベッカは何故か嬉しそうに話していた。見張りは姉さんと二人で交代したらしい。

「今度赤飯焚く?」「要らないです」



<レイとエミリアは滅茶苦茶仲良くなった>

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