第34話 レイくんブチ切れモード
「さて、もう貴方は何の抵抗も出来ませんよ」
目の前の召喚士は魔力がもう残っておらず、『封印の腕輪』の力で僅かな力も無力化されている。
更に姉さんの植物操作とエミリアの氷魔法で体が完全に動けなくなっている。
まともに動かせるのは顔だけだろう。
『くそっ!こんな連中に、俺がやられるとは!』
「貴方の目的は何なのです?集落やゼロタウンを襲った理由は?」
『目的だと?そんなもの決まっている!ゴブリンを散々殺戮するお前たちに復讐するためだ!』
その言葉にカッときた。
「それは、お前らが人を襲うからだろう!勝手なこと言いやがって!」
僕は集落が襲われたことを思い出して気が立っていた。あまりにも勝手すぎる。
「レイくん、落ちついて…ね?」
姉さんになだめられて少し気持ちが収まる。くそっ、自分らしくない事を…。
「それで……貴方、召喚士さんは何故<接続点召喚>なんて魔法を使えるの?
とてもじゃないけど貴方の種族が使えるような魔法では無いはずよ」
姉さんの質問だが誰もが疑問に思っていたことだ。話で聞くとゴブリンの上位種の中では魔法を使える奴もいるらしいが、召喚術は人間が使う魔法でも最高峰のもの。能力的には人間より弱いと言われてるゴブリンが使えるとは思えない。
『何故使えるかだと?貴様らは我らゴブリン族を舐めすぎだ。
15年ほど前に人間の召喚士からその知識と技術を奪ってやっただけのことだ』
「15年前……エミリアさまが以前に言っていた…?」
「消息不明の召喚士か? ゴブリンに拉致されていたのか」
ビヨンドという名前だったと思う。エミリアの話では15年前に消息不明になりそれ以降誰も姿を見てないという話だったが…。
「その召喚士をどうしたのですか?」
『知らん、知っててもお前たちに言うことなどない』
こいつ…ここまで来てシラを切るつもりか!
「レイ、落ち着いてください、怒る気持ちは分かりますが…」
「ご、ごめん…」
「召喚士、貴方はこの場で捕らえます。
どのみちその後に死ぬことになるでしょうけどね、ゼロタウンで裁かれてもらいます」
エミリアはそう言って魔法の詠唱を始める。
『はっ? 俺を殺す気か、貴様ら軟弱な人間が!
俺を殺せばお前ら人間オスは全員皆殺し、メス共は全部孕み袋にしてやる!
後悔しろゴミ共!!』
――――今の言葉に、僕は本当にブチ切れてしまった。
「……エミリア、ごめん、魔法中断してくれるかな」
「レ、レイ…どうしたのですか?」
僕の剣幕に押されたのかエミリアは素直に魔法を中断した。
「……レイくん?」
「ごめん姉さん、あいつを許せないんだ……」
そう言って僕は鞘から剣を引き抜く。
『な、何だ貴様……俺を殺したら――』「黙れよ、ゴブリン」
「レイさま……」
そんな怯えた顔をしないで、レベッカ
「レ、レイ…」
大丈夫だよ、エミリア、すぐに終わらせるから
「レイくん……」
姉さんが僕の腕を掴む。
「だ、だめだよ、貴方がそんなことしなくても――」
「姉さん、僕は今まで覚悟が足りなかったんだ」
姉さんの手を振りほどく。
――そう、僕は今まで罪悪感があった
――どんな生き物だって命は尊い、それを殺すことは悪いことだと
――でも違った、僕が大事にしたい命はこんな奴じゃない
――僕の大切な人達を侮辱して、辱めようとしたこいつは、こいつは絶対に
奴の首に剣を当てる。
『や、止めろ―――お願いだ、助けてくれ!』
―――命乞いなんて今更受け付けない、お前は僕の家族を侮辱した
「許さない、殺してやる」
―――――僕は召喚士の首を斬り落とした
◆
―――その後
ゴブリン召喚士を倒したという事でギルドから表彰された。
それと同時に報奨金の金貨六十枚が進呈され、一躍有名なパーティとなってしまった。
エミリアは割と嬉しそうだったけど、僕とレベッカは人前で持て囃されてかなり恥ずかしい思いをした。姉さんはいつも通りだ。
ちなみにカシムさん達も表彰式に来ていた。
僕たちの健闘を称えてくれたと同時に「今度は君たちより先に強敵を倒す」と言った。
ライバル関係成立だ。と言っても別にお互いに争う気なんてないけど。
どうでも良いけどババラさんのお店で装備を変更したせいで姉さんの衣装が大分色っぽくなってからというもの、気が付いたら周りの冒険者が姉さんを凝視していることに気付いた。ぶっ殺すぞ。
表彰式の時にあんまり姉さんに視線が集まって、触れようとした男が居たのでそいつを斬ろうとしたらエミリアとレベッカに止められて、波乱のうちに表彰式は終了した。
その後、そういう割り切り方は人としてダメだから止めなさいと姉さんに怒られた。
◆
表彰式の後の話
姉さんは表彰式の後、
代表として色々な話や書類の申請などで大忙しとなり別行動をしている。
その時、僕たち3人は会場に残っていた――いや、僕が動こうとしなかった。
「レイ、何か落ち込んでますか?」
「………」
僕は今椅子に座り込んでいる。
「レイさま、どうしたのですか?」
僕は召喚士を殺したことを思い出していた。
あの時、僕はあいつを殺すことに躊躇なんて欠片もしなかった。
それは良い、仲間を守るためなら僕は何でもする。
でも、仲間はどう思ったんだろう…。
「ねぇ、エミリア……レベッカ…」
「なんですか?」
「なんでしょう?レイさま」
……言えない。嫌われたんじゃないかって、そんなこと、今更…。
「………」
「レイ、もしかしてお姉さんが悪戯されそうになって切れて暴れたこと気にしてます?」
「気にすることありませんよ、お姉さま想いでとても素敵だと思います」
「――いや、そうじゃなくて!」
確かにそんなこともしたけどさ!
「そうじゃなくて、僕が勝手にゴブリン召喚士を……」
「「………」」
二人とも何も言わない、やっぱり嫌われてしまったのだろうか。
「レイ、そんなこと気にしていたのですか?」
「え?」
「確かに普段のレイさまとは雰囲気は違いましたが」
「……」
「だってレイは」「きっとレイさまは」
二人は声を揃えていった。
「私たちの事を考えて怒ったんでしょう?」
「わたくしたちを想っての行動だと思いましたから」
「え、エミリア、レベッカ…」
「もしかして私たちに嫌われたとか思いました?」
「え、あ、いや」
気持ちがバレると恥ずかしさが込み上げてくる。
「そんなわけないじゃないですか、とっても素敵でしたよ、レイさま」
え、えぇ……そんな風に言われると何も言えなくなる。
「さ、いい加減お姉さんの所へ行きましょう」
「レイさま、いつまでもしょげていては男らしくありませんよ?」
そう言って二人は僕を強引に立たせて引っ張る。
「わ、分かったから――ー」
◆
そしてその数日後――
「おーー」
「おおきいですねぇ」
「これからはここがわたくしたちの住まいなのですね…」
「そうですよレベッカさん、私たちの活躍が認められた結果なのです」
約束通り、僕たちは召喚士を首を持ち帰ったので一等地の家を与えられることになった。
一年という期限付きで、問題を起こした場合や冒険者ギルドの活動を一定以上行わないと強制的に退去という厳しい条件だったが、毎日宿代をやりくりしてた僕らの身からすると有り難い。
一階は玄関と広間、台所に、トイレに魔法で焚くお風呂も用意されている。
二階はちょうど個室が4部屋あり、一人ずつ割り当てられた。
「レイくんと一緒の家に住んで、これで本当の姉弟みたいになれてうれしいです」
姉さんにそう言われてちょっと照れくさかった。
「こうやってレイさま達と一緒のおうちで暮らせるとかんがえると、その―――」
「一緒の家族みたいで幸せです―――」
レベッカのその言葉に昔を思い出してしまった。
「こうやって一緒に住むことになると照れくさいですね…姉さんと住んでた時を思い出します」
エミリアの言葉だ。僕も照れくさいけどそれ以上に嬉しい。
少しずつ異世界の生活に慣れてきて、昔のことを忘れそうになる。
それは良いことなのか悪いことなのかは分からない。
寂しいと思うこともある。だけど今は僕にとってはこの3人が家族だと思ってる。
そう言えば姉さんはどう思っているのだろうか、僕が召喚士を殺した時、
姉さん、すごくつらそうな顔をしてた。
「姉さん」
「どうしたの、レイくん?」
「姉さん、僕は……その…あの時」
その時、姉さんは僕をぎゅううううっと抱きしめた。
「レイくん………大丈夫だよ、私にも貴方の気持ち、届いてるから…」
そう言って、姉さんはいつまでも僕を抱きしめてくれた。
「うん……」
そうして僕たちの冒険の二章が終わった。
きっとこの後も僕たちはこの世界で冒険者としてずっと一緒に暮らしていくのだろう。
その生活がいつまで続くかはわからないけど、笑顔でいられるといいな、と思った。
「これからも一緒に居ましょうね、レイくん♪」
「うん、
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