第13話 割とホラーなボス戦
「レイくん、大丈夫そう?」とフラウ姉さんは心配そうに声を掛ける。治してもらったお腹を確認するが、傷跡は残っていなかった。ちょっとお腹が気持ち悪いくらいでほぼ問題なさそうだ。
「少し気持ち悪いけど……大丈夫……ありがとう、ベルフラウ姉さん」
そう言うと、姉さんはホッとした顔をして胸をなで下ろす。
さっきの痛みは想像以上に辛かった……。
エミリアにも恥ずかしいところを見せてしまったかもしれない。
そのエミリアは少し離れたところで心配そうに僕を見つめていた。
「……ベルフラウ?」
今ベルフラウとレイは言ったように思えたのだが、それがフラウの本名なのだろうか。
いや、今はそんなこと気にしてる場合じゃないと、エミリアは意識を切り替えた。
エミリアが刺されそうにになった時、咄嗟に庇ってしまった。
どうしてだろう、僕はそこまでエミリアのことが大事だったのだろうか。
「………あ、そうか」
(…………いつもエミリアを見てた気がする、自覚無かったけど
この気持ちが本当なら多少の気分の悪さなんて放っておいて守らないと―――)
「ってそうだ、さっきの男は!?エミリアは無事!?」
と、男が居た場所を振り返ると黒焦げになった男が倒れていた。
「大丈夫です、私が倒しましたから。私を庇ってくれたレイのお陰ですね」
そう言ってエミリアは屈託なく笑う。その様子に少し見惚れてしまった。
「もう一人の化け物は…」
そちらを見ると、アドレ―さんが一人で戦っていた。
「……凄い、アドレ―さん、互角以上に戦ってる」
デーモンは尻尾や左右の爪を使い、凄まじい剣幕で攻撃を繰り出しているがアドレ―には通じない。
「はあっ!」
デーモンが攻撃するために伸ばした右手をアドレ―は一刀両断する。
『くっ…!馬鹿な…!』
腕を切り落とされたデーモンは自分の腕を拾って後方に下がる。
……おそらくデーモンはこちらを容易に全滅させられると思っていたのだろう。
それが想像以上の強敵を目の前にして明らかに焦っている。
『おい、起きろ!何時まで寝てやがる!』
明らかに狼狽した声で叫ぶデーモンだが、先ほどの男は既にエミリアが倒しているはず。
そう思ったのだが、一瞬寒気がした。
おそるおそる僕たちは後ろを振り返ると―――
先ほど黒焦げになっていた男が起き上がっている。
「な、何なんだこいつ……!?」
体中の皮膚が爛れ、顔も皮や唇が剥げ落ちて中の肉が見えている。
それなのに気持ち悪いくらい醜悪な笑みを浮かべ、左手にはまたナイフを握っている。
「ば、化け物…」とエミリア。
同感だ。今となってはデーモンよりも気味の悪い化け物に感じる。
「エミリア、下がって!」
剣を構えてエミリアを庇うように前に出る。こいつは危険過ぎる。
「私が正体を探ってみます!
個体名:??? 種別:人間(寄生体)
HP999/999 MP0/0 攻撃力?? 防御力?? 魔法防御力??
人間の体を乗っ取った寄生生命体
取りつかれた人間は不死の呪いが掛かる
以下、詳細不明
「寄生体…?」
透視では能力は分からなかったが、こいつが人間を乗っ取った化け物なのは分かった。
だが……
「一体、どうすればこいつを倒せるんですか…!?」
データも殆ど何も分からなかった。
何度もエミリアに燃やされているのにいつの間に起き上がっている。
不死の呪い?
それが理由でこいつは死なないって事か…?
「……」
フラウ姉さんは何かを考え込んでいる。一体何を…?
「レイ、無事か!!」
背後でデーモンと戦ってるアドレ―の声が響く。
「は、はい!」
「それは良かった! で、だ!」
とアドレ―は戦いながら喋ってるせいか途切れ途切れに話す。
「俺はこいつとの戦いに集中しなければならん!そいつはお前たちに任せる!」
剣戟の音が響き渡る。
アドレ―さんが優勢なのは間違いないがとてもこちらに構う余裕は無さそうだ。
「で、でも…どうやって戦えば……!」
「……レイくん、エミリアさん、聞いてくれる?」
「何、姉さん?」
僕たちは目の前の化け物を警戒して構えながら話す。
「多分その人は私がどうにか出来ると思う、結構時間が掛かるかもしれないけど…」
「!!」「!!」
僕たち二人は言葉を聞いて、フラウ姉さんを見る。
「お願いします、時間を稼いで……!」
僕たちはそれに迷うことなく答える。
「わかった!」「よし、じゃあいきますよ!」
僕たち二人は背後のフラウ姉さんを守る形で前に出る。
(姉さんとエミリアを守る!絶対に!)
『………』
相変わらず人間の形をした化け物はこちらをニタニタ笑っていたのだが…
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――――』
突如理解不能な奇声をあげて飛びかかってきた。
「レイ!」
敵はエミリアではなくこちらへ飛びかかってくる。
「任せて!」
僕は飛び込んできた化け物を左に躱し、そのまま勢いを付けて回転して薙ぎ払う。
敵の左腕を再び切り落とした。これでこいつはナイフを使えない。
「私を無視するとは良い度胸です!食らいなさい!
エミリアの攻撃魔法が入る。
放たれた電撃は敵にダメージを与え、敵の関節を一時的に麻痺させる効果がある。
「――――さぁ、世界よ――――」
僕たちの後ろから姉さんの声が響く、これは…湖を浄化した時の詠唱か…!
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』
一時的に
まともに動けないはずなのに関節をぐちゃぐちゃに動かしながら迫ってくる。
だが、エミリアは次の作戦を考えていたようだ。
「レイ、化け物を吹き飛ばして下さい
その後、私が指示したら即座に横に飛んで魔法避けてくださいね!」
「了解!」と言いながら僕は剣を横に構えながら敵に突進する。
敵は強引に動いているため動きそのものは遅くなっている。
そのまま剣の腹で敵の腹部を叩きつけて、思いっきり踏ん張って突き飛ばす。
『あ゛あ゛う゛う゛』
しかし、突き飛ばしてもすぐにまた動き出す。どうにか動きを拘束しないと…。
「食らえ!」
僕は化け物に馬乗りになり、敵の心臓に剣を深く突き立てる!
「――――さぁ、不浄なる悪しき魂よ――――」
浄化の二節目だ、あともう少しのはず…!
「くぅぅぅぅ……なんて馬鹿力だ!」
心臓を刺して両手で抑え込んでいたが、ものすごい力で暴れる。
このままだと抑えきれない……!
「避けてください!」
「!!」
僕は剣をそのままにした状態で横に飛ぶ。
エミリアの足元には簡易的な魔法陣が浮かんでいる。
「行きますよ!魔力強化
エミリアの魔法が発動する。周囲の空気中の水分がキラキラと輝きだし一気に氷結させる。
化け物の体は完全に凍り付き、ついに動くことは出来なくなった。
「やりました!」
よし、これで敵はもう動かないだろう。と思ったのだが…
凍った化け物から、玉のようなものが飛び出してきた。
「な、何だ!」
しかし、この球体はどこかで見覚えがある…
「これ、スライムの寄生体の核では…!」
言われてみると確かに、だが色がどす黒くて大きさも数倍以上はある。
「……レイ、離れてください!おそらくそいつが人間にとりついていた寄生体です!」
僕たち二人は黒い寄生体から距離を取る。
「――――今、神の光で消えよ―――――」
浄化の三節目だ、これで終わるはずだ―――
「レイ!」
しかし次の瞬間、黒い球体が僕に飛び込んできた。
恐らく最初にアドレ―さんに飛びかかった時と同じ。僕に寄生しようとしているのだろう。
おそらくさっきの男も同じように寄生されたのだ。
――だけど
「僕を舐めるな!
火事場の馬鹿力という奴だろうか、咄嗟なのに驚くほど速く魔法がスムーズに発動した。
『あ゛゛あ゛………』
敵は炎で苦しんでいるが倒すには至らない。だが問題はない。
次の瞬間、周りが光に包み込まれた―――――――
黒い球体の化け物と氷漬けの死体は浄化の光に呑まれ体が砕けていき―――
―――――閃光が止んだ後、黒い球体と男の死体は完全に消滅していた。
「やった、ベルフラウ姉さん!」
「やりましたね!」
「ふぅ…二人ともお疲れ様でしたー、頑張りましたねぇ‥」
◆
『な………浄化だと!? まさか、湖が浄化されたのはあの女が原因か!』
「……あいつらは上手くやったようだな、あとは貴様だけだ」
化け物を倒した後にアドレ―さんの元に駆けつけると、勝負はもう決まっていた。
デーモンは片翼に穴を開けられ、足は両方切り落とされ、尻尾も根元からぶった切られている。
足がないため這いつくばっており、喋ることくらいしかできない状態だ。
『くそっ!何故だ! 何故こんな化け物どもが……!
……貴様さえ殺してしまえば、俺は貴様に成り代わって村を支配できたのに…!』
「……なるほど、貴様の目的はそれだったか。
たかが低級のデーモン如きが俺をどうにか出来ると思っていたのか?」
『くそっ、ただの元冒険者と思っていたのに!貴様一体何者だ!』
「答える義務はない、死ね」
アドレ―さんが剣を構える。トドメを刺すのだろう。
アドレ―は一閃し、デーモンの首を両断した。
◆
戦いは終わった。
あの黒い寄生体が倒れたことにより鉱山内のスライムと湖に残っていたスライムは全て消失。
元凶はデーモンとあの寄生体だったということだろう。
僕たちは湖と鉱山を繋げてた小さな穴を発見し、その後に塞いで村に帰ってきた。
旧鉱山は今回のように悪用を避けるために、埋め立てて使えなくすることに決まった。
村に帰った時、流石に疲労が溜まっていたためその日は全員休んだ。
<レイは強敵を倒した>
<レイは大きな成長を遂げた>
<レイはLv10に上がった>
<剣の心得Lv4を獲得>
<守りの心得Lv1を獲得>
<初歩魔法を全て習得>
<初級攻撃魔法を全て習得>
<技能 心眼を獲得>
<ペンダントの能力が開放された>
<力+10 魔力+10のボーナスを得た>
<魔法のレベルが全て1上昇>
<スキルのレベルが全て1上昇>
そして次の日
「今までよくやってくれたな、これで今回の依頼は終了だ」
異世界転生して、最初にやった手伝いにしてはかなりヘビーな内容だったと思う。
「ありがとうございます。
それにレイ、フラウさん、お二人にもかなり助けられました。」
「うん、でもよい経験になったよ」
かなり酷い目に合ったけど、異世界が大変という事は十分に理解できた。
「私としてはレイくんは成長出来て、私たちの関係も作れてよかったと思うわ」
ね?と言ってくる。そう言われるとなんか照れる。
「想定よりもかなり高難易度になっちまったからな。
ギルドに申し込んで報酬も倍に増やしておくから、そこは期待しておいてくれ。
―――ああ、もちろん3人分だぞ」
「本当ですか!?」
「え、僕たちも報酬貰えるの?」
それだと色々有り難い。
「お前たち、次はゼロタウンに向かうんだろ?
明日の朝この村に馬車が来るから乗っていくといい。荷物と相乗りだがな」
「何から何までありがとうございます」
「アドレ―さん、僕も……色々なことを教わりました、本当にありがとうございます」
「坊主…いや、坊主なんて呼んじゃいけないか
レイ、お前はここに来たばかりは全然弱かったが、随分成長したな」
自分でも、色々成長できたと思う。まだまだ課題は多いと思うけど。
「信念、見つかりそうか?」
「………はい、自分でも少しですが掴めそうな気がします」
「……そうか、これからも頑張れそうか?」
「はい!……アドレ―さん、ありがとうございます」
僕はこの世界で生きる。
でも一人じゃない、
だから、僕は――
「僕は、
それが、僕が決めた信念だった。
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