女神様といっしょ!

ノノノ

第一章 異世界転生編

第1話 異世界転生

 気が付いたら僕は脇目も降らずに走っていた。

 何のことは無い。少し両親と言い合いになっただけの話だ。


 よくある話だ。

 学校で虐められて、登校拒否をして引きこもって。

 それでも両親は僕を学校に通わせようとしたから喧嘩になって……

 僕は何処にも味方なんて居ないと、その時はそう思ってしまったのだ。


 泣きながら家を飛び出してしまった。


 本当に馬鹿だ、僕は――


 周りを見ずに気が付けばそこは道路の真ん中で……

 僕を呼び止める通行人の声すら耳に入っていなくて……

 けたたましい音の自動車のクラクションの音で僕はようやく気付いた。


 でも、もう遅い。

 目の前には猛スピードで迫る自動車の姿が映っていた。


 僕の意識はそこで途絶えた――





「ここは一体……」


 ふと、目が醒めて周りを見ると見たことも無いような場所だった。

 窓の無い密室、それでいて目の前にある小さな机の左右に蝋燭が立っているだけで明かりは殆どない。それなのに不思議と暗くない、何故か壁がほんのり発光しておりこの明るさなら小説を読むくらいなら支障はないだろうと思う程度の明るさ。


 机の真ん中には蝋燭に挟まれる形で苗木が置かれている。

 家具はあまり多く無くて、家庭に使うものより一回り大きいの薄型テレビが壁に掛けてある程度。


 自分は今椅子に座っている。向かいはやや大きめのソファーが置かれている。人が向かい合わせになって談話するような配置となっている。部屋の隅っこには小さな本棚が置かれている。


「……?」

 思い返してみるが、この部屋に入ったことなど全く覚えていない。

 そもそも、僕はそれまで何をしていた?

 確か、僕は不登校が理由で親と喧嘩して、そのまま家を出て……


 家を出て…それから?……その後に僕は、

 確か交差点で信号が赤になっているのに、それに気付かずに自動車に…


「この記憶は……」

『思い出しましたか?』

「えっ?」


 誰も居ないと思っていた部屋に、突然自分以外の声が聞こえた。

 目の前を見ると、見知らぬ女性がソファーに座っていた。


『はじめまして、桜井鈴(さくらいれい)さん』


 ………誰だろう?僕の名前を知っているみたいだけど…知り合いでは無い。

 銀髪で目が青色なところを見ると日本人ではないだろう。髪は長くて腰辺りまであり見た目は修道女のような服装だが少し違う、ペンダントをしているようで胸の辺りにベルを模ったと思われる飾りが垂れ下がっている。


 体格は小柄だけど僕と同じくらいの身長か少し高いくらい。

 ちなみに僕の身長は最後に測った時は158cmだ。平均より大分低い。

 胸は結構大きめだと思う。幼い印象を受けるが顔だちを見るに20代前半といった感じだろうか。

 控えめに見てもかなり綺麗な人だと思う。温厚で優しそうな雰囲気がする。


 銀髪……か、ちょっと自分の髪の色に似てる気がする。

 僕は他の人より髪の色素が薄いみたいで、白髪と銀髪の中間のような髪の色だった。

 それで目の色は普通の日本人と同じ黒だから奇異な目で見られていた。


 それにしても目の前にいる女性の姿は目の前にいる筈なのに、

 その女性の声はその場からというよりは、どこか遠くから聞こえているような感じがする。


 本当に人なのだろうか…?それとも、これは死に際の夢?


「ここは一体どこなんでしょうか……?」


 この人の事も気になるが、この奇妙な部屋の事も気になる。

 扉もないし窓もない、全体的に薄暗いけど部屋は明るいというよく分からない空間。

 外から音も全く聞こえない。


『――ここは転生の間と呼ばれる場所です』


 転生の間……?え、転生?


『はい、桜井鈴(さくらいれい)さん。

 貴方は不幸にも事故に遭ってしまい、命を落としてしまったのです』

 命を落としたと言われてすぐに受け入れることは出来なかった。


「命を落としたって、僕が?」


『はい、残念ながら……』


――自動車に轢かれたのは夢では無かったのか。


「思い出したことは本当だったんだ……それじゃあ、貴女は?」


『私はベルフラウと申します。新米ですが、一応女神という事になりますね』


 女神様……?本当に……?


『はい、まぁ私は神様名乗れるほど偉いわけではないんですけど』

 そういってちょっと照れた表情をする目の前の女性は、美しいというよりは可愛い。

 女神という言葉と比べると、普通の人に見えてしまう。


『話が逸れましたね、女神である私の仕事は死者への橋渡しです。

―――貴方には二つの選択肢がある。このまま長い時間を掛けて輪廻転生を待つか、それともすぐに新たな世界で生を受けることを望むか』


『本来はすぐに転生という事は滅多に出来ないのですが、

 事情がありまして、私の元に送られてきた方々のうち数人を別世界に転生させることが出来るのです』


「事情って?」


『世界の危機だかなんとかって話です。

 実は私も上の人に言われただけで、あまりよく分からないんですよね。

 転生者を集めてるのはそれが理由らしいのですが』


「えぇ・・?」

 神様なのに詳しく事情知らないの……?


『付け加えるのであれば、別の国という話ではありません。

 新たな世界というのは、貴方たちの言葉で言い換えるなら、「異世界」という事になります。

 中々信じてくれないとは思いますが、地球とは全く別の異なる場所なんです』


『――深く語ることは出来ませんが

 凶暴化した生物、知性を持った異形など、貴方が元々いた世界とは違う点が多々あります

 また独自の文化や技術もあり、貴方のいた地球とは異なる点もあります』


 余りにも情報量が多すぎて唖然としてしまったけど…

 異世界?転生?それって小説でよくある異世界転生と完全に同じものじゃないか!


 行きたいのなら行ってみたい。

 でも、それよりも戻れるのであれば元の世界へ戻りたかった。


「その、興味はあるのですが…元居た世界に戻ることは出来ないのですか?」


 異世界で馴染めるか分からないし、元の世界に戻れるなら帰りたい。

 それに、両親に会いに行って……喧嘩した理由だって思えば僕が悪いのだ。

 もし帰れるなら全部気持ちをぶつけて、それから謝らないと…。


でも、そう上手くはいかないと、女神さまの複雑な表情を見て察してしまった。


『それは、出来ません。

 地球と異世界は転生のルールが異なるのです。地球は輪廻転生という長い時間を掛けた末に魂を浄化し、新たな命として生まれ変わります。そのため、仮に元の世界に帰りたいなら今の貴方としてではなく別の人間として戻ることになります』


ああ、やっぱりか……。


 輪廻転生とは人が何度も生死を繰り返し新しい生命に生まれ変わること。

 生まれ変わりには条件があり、生前にどういう悪行を行ったかによって六道という6つある世界があるとされている。実在するとは思ってはいなかったけど…。


 ごめん、お父さん…それにお母さん。

 もしかしたらと思ったけど、もう家に帰ることは出来ないみたいだ。


『………家族想いな方なのですねぇ』


「え?」


 その言葉を言った女神さまは、今までとちょっと違った気がした。

 今までは少し事務的な話し方だったのに、急に緊張が解けたような…。

 何というか話し方が柔らかくなった気がする。


「そんなことありません、不登校でしたし、すごく迷惑を掛けてしまって」

 むしろ親不孝者だと思う。そんなことを考えていたら、女神さまが僕の目の前へ来て…。


『……よしよし』

 女神さまに頭を撫でられてしまった。


「あ、あの…」

『良い子ですね…よしよし、

 貴方の両親にこれから幸福が訪れるように私が力を貸します、安心してくださいね』


 そう言ってくれると気持ちが楽になる…けど、あの…なんというか近い…。

 急にどうしたのだろう?さっきまでとは全然対応が違うような…。


「あ、ありがとうございます‥…

 その、恥ずかしいので離れてもらっていいですか?」


 距離感急に近くなったよ。流石に恥ずかしい。


『あ、そうですね。ごめんなさい。

 それで、どうしますか? もし異世界に転生するのであれば、

 私が手厚くサポートさせていただきます』


 異世界か…よく小説とか漫画で見るような世界なのかな。


「そうですね…興味はありますけど

 僕なんか行っても大して役に立たないんじゃ…」

 身長低いし力もあんまりないし、アニメとかで見る大きな魔物とかと戦える気がしない。

 行ってもその辺の雑魚モンスターにボコボコにされて死ぬ気がしてならない。


『そんなことはありません!

 仮にも女神である私もサポートさせてもらいますし、

 会話とかも出来るようにちゃんと転生時に付けさせてもらいますから!』


「え!?あ、はい」

 急に何か女神さまの口調が変わったような。

 僕を異世界に転生させたがってるような言い方だ。

 どういうわけかちょっと必死に見える。


「め、女神さまが言うなら……

 不安ではありますが、そこまで言ってくれるのなら行きたい、かな?」


興味があるし第二の人生と考えたら悪くない。

ただ、どちらかと言うと女神さまの剣幕に押されて言わされた感がある。


そして、女神さまはその言葉を待ってたと言わんばかりに笑顔で言った。


『分かりました! では早速準備しますねー!』

と言って女神さまは元の位置へ戻り、手を掲げる。

どことなく神々しい…いや、正直そんなに神々しいとは思えないけど…。


『この苗木は転生を望む人へ送るものです、手に取ってください』


 言われた通り、僕は光る苗木を手に取る。暖かい…それにまるで心臓のように鼓動している。

 そんなことを思っていると、苗木が独りでに動き始めて僕の体に入り込んできた。


「うわっ…って、あれ? 体の中に…」

『もう大丈夫ですよ。もう苗木は貴方の中に居ますからね、うふふ』


 すっごく嬉しそうだなこの人。

 でも苗木が僕の体の中にと言われてもさっぱり分からない。

 どういうこと?比喩でも何でもなく本当に入ったのは確かだけど。


『鼓動を感じますか? 貴方の中に再び命が宿ったことを』


「え?………あ」

 言われてようやく気付く。

 今まで僕の心臓は確かに動いてなかった。

 そしてこの瞬間に動き出したのだ。

 体の中に入った苗木が僕の心臓の代わりになったということだろうか。


『貴方は再び生を受けることが出来ました

 これより貴方が転生する世界は地球とは異なる場所です。

 ……これは、私が貴方に贈るプレゼントです、受け取ってくださいね』

 女神さまはそう言いながら自分の首に掛けていたペンダントを外し僕の首に掛けてくれた。


それは良いのだが、めっちゃ近いんだけど。

さっきから頭撫でてくるし、そのせいで胸が顔に当たりそう。


『あと、この鞄も持っていってくださいね。

 色々入れてありますし、鞄に入る大きさのものならいくらでも入る便利なモノですよ!』

「あ、はい、ありがとうございます」


『あと、お弁当も入ってますから向こうに言ったら食べてくださいね!』

「いやお母さんじゃないんだから…」


『普通の人が異世界に行くのは過酷ですが

 そのペンダントには私の力が込められています、きっと貴方の助けとなるはずです!

 ……私も行ってあげたい………うふふふふふ』


 最後の(´∀`*)ウフフみたいな笑い方は何だよ。


『えいっ!』

 女神さまは唐突に僕に抱き着いてきた。

「ちょっ!? 女神さま!?」


『あ、ごめんなさいね、私も癒しが欲しくて』

「は、はぁ……あの、離してもらえますか?」


『女神さまでも色々あるんですよ、人を好きになったりもするんです』

「そうですか…とりあえず離して貰っていいですか?」

 人を好きになる女神様とか素敵じゃんとは思ったりはする。


 そんなことを話してたら僕の体が光始めて、体がどんどん軽くなっていく。

 転生というかこのまま天国へ連れていかれそうな気分だ。


 そんなことを考えてたら、どんどん意識が薄れていって――――


 そして女神さまの声だけがはっきり聞こえてきた。

『それでは、いってらっしゃい、桜井鈴(さくらいれい)さん』

『大変な世界ですけど、貴方が思う良い人生を送ってくださいね―――』


 最後に、そんな声が聞こえた気がする。



「ここは…」

 女神さまと別れてからどれだけの時間が経ったのか、まるで夢を見てたかのように目を覚ました。周りを見渡してみると、何の建物も見つからない草原だった。自分は本当に異世界に来たのかもしれない、女神さまとの会話は夢では無かったのだろうか。それともまだ夢を見ているのだろうか。


「大変な世界かぁ……」

 確かに家もないし、女神さまに色々貰ったみたいだけど、これからどうしようかな…

 と、途方に暮れていると…


「……」

・・・・・・・・・・・・・?


 あれ、女神さまがいる!?

「女神さま、何でここに!?」

「ご、ごめんなさい……! 

 抱き着いたまま転移させたら、私も一緒に転移しちゃったみたいで!」


 こうして女神さまとの異世界生活が始まった。

 これ本当にどうなるんだろう……。

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