23.平凡令嬢、民の結束を固める。

 民衆と共に行進してから一週間が経ちました。

 王都までの道のりも、もう半分と言った所でしょうか。


 ただ歩いて王都へ向かうだけでも、問題は山積みでした。

 何万という人が集まれば、当然いさかいは起こります。

 最初の頃は「打倒王家!」と叫んでいたものの、時間が経つにつれ、段々と無言になっていきました。


「おい、てめぇ何しやがんだ!!!」


「そっちから仕掛けてきたんだろ! やんのか!?」


 私は頭を抱えました。

 一度ひとたびケンカが起こるたびに、行進を中断し、仲裁をしなければなりません。


 小さな溝かもしれませんが、ほうっておけば、それはやがて大きな溝となります。

 所々で大小のグループや、派閥のようなものが出来上がったりと、少しづつですが皆の心がバラバラになっていく感覚を覚えます。

 王家に対する恨みは、皆一緒なはずなのに……。


 今の所、国の軍と衝突はありません。本来は無駄な血が流れずに済んだと喜ぶべきことなのですが……はぁ。

 このまま、何も大きな問題が起こらなければ良いのですが。


 段々と日が沈み始め、野営する場所を探していた時でした。

 少々寂れた感じの村が見えて来たのです。


 地図と照らし合わせてみますが、その村は地図にはありません。

 地図に無い村というのは怪しいです。ですが、ここ数日は野営続き。 

 鍛え上げた軍人ならいざ知らず、元は一般市民。皆少なからずストレスを抱えてきている頃です。

 

 ここで一度村に立ち寄り、人の営みに触れる。それだけでもストレスはいくらか和らぐでしょう。

 ですが、もし、ここで誰かが強盗などを犯した場合、きっと他の者も続いてしまう……。

 そんな事をしたら、私達は義勇軍から暴徒になってしまいます。コントロールの効かなくなった暴徒は、やがて他の町や村を襲ってしまう。

 その時は、私達の手で彼らに処罰をくださなければならなくなります。


「リカルド様。今晩はあそこに見える村で野営をしたいと思うのですが、如何でしょうか?」


「そうだね。賢い君なら分かってると思うが、もし何か起きれば一瞬で暴徒と化してしまうだろう。彼らが変な真似をしないか、入念に目を光らせよう」


 私達は村の入り口まで来ましたが、何やら様子は変です。


「や、やめてください!」


「おうおう、姉ちゃん、俺らが誰か分かってんのか? 国から雇われた傭兵団様だぞ?」


「やめてください? 違うだろ? もっと可愛がってくださいだろ?」


 助けを求めるような声と、卑下た声。

 もはや見なくても状況が理解できます。


「何をしているのですか!」


 急いで声のする方へ向かうと、数十人の男グループが女性の腕を掴んでいる所でした。


「ヒュー。こいつは上玉じゃねぇか。姉ちゃんもこっちに来て俺らの相手してくれよ。へっへっへ」


「こっちは男が沢山居るからよりどりみどりだぜ?」


 彼らはうす汚れた武具を身にまとい、不快になるようなゲスな笑みを浮かべた男達でした。 


「先ほど、国から雇われた傭兵団と言っていましたよね?」


「おう。そうだぜ! へっへっへ、相手する気になってくれたか?」


「そうですね。国に雇われた傭兵団でしたら、お相手するしかありませんね」


 ええ、貴方たち全員でお相手してもらいましょう。

 民のストレス発散の為にですが!


「皆の者! 彼らは国から雇われた傭兵団。我々の敵だ!」


 ウオオオオオォォォォォォォッ!!!!

 私が叫ぶと同時に、地響きと雄たけびが轟きました。


「ヒィッ、なんだこいつら!?」


 彼らが恐れるのは無理もありません。傭兵団を囲む民衆、その数は数万に及びます。

 対する傭兵団は、50人にも満たない数です。もしかしたら村の中にまだ仲間がいるかもしれませんが、それでも戦力の差は絶望的です。


 フラストレーションの溜まっていた民衆は、それまでの怒りを爆発させるかのように、傭兵団に襲い掛かりました。

 先ほどケンカしていた二人組も、今は共に手を取り合って戦っています。


「ご、ごめんなさい。もうやめてください」


 一瞬の内に決着がつきました。もはや戦いですらないただの蹂躙です。

 縛り上げられ、ぼこぼこに顔を腫らした傭兵団が、必死に許しを請います。


「こいつら、どうしますか?」


 どうしましょうと私に聞かれても、そうですね……。

 正直、敵対関係と言うだけで、私自身は彼らに何の恨みは無いのですが……。


 そうだ。ここは、彼らの流儀でいきましょう。

 やめてくださいと言われたら。


「もっと可愛がってあげてください」


 共通の敵を再度認識したことで、彼らの中の諍いも少しは緩和されたはずです。

 私は村長に話し、一晩村の近くで野営をする許可を頂きました。

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