2.平凡令嬢、復讐を誓う。

「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」


 脳裏にふと浮かんだのは、昔のお父様との記憶でした。

 平凡な私に、お父様はいつも苦い笑みでそう語りかけてきたのです。


 なので私は努力しました。 

 誰にも出来ない事をしようとせず、誰かが出来た事をゆっくりと一つずつですが、覚えていきました。


 かつて賢者様が神級魔法を扱えた。つまり神級魔法を扱えるのは人並みです。

 かつて勇者様が魔王を倒した。つまり魔王討伐が出来るのは人並みです。

 かつて名領主が領民に慕われた。つまり領地を治めるのは人並みです。


 最近では領地で暴れまわっているドラゴンを討伐もしました。もちろん人並みに。

 平凡な私でも、人並みに努力をしてきたつもりです。

 そんな平凡な私でも、努力をすれば何とかなる。そう思っていました。

 

 現実はそんなに甘くありませんでした。

 非凡な姉に、平凡な私が勝てないのは当然の結果なのですから。

 あてもなくさまようように歩く私に、街の人は怪訝な表情を向けながらも、近づこうとはしてきません。

 それほどまでに、化粧が涙で崩れた私は今、酷い顔をしているのでしょう。


「皇太子様が婚約を破棄するらしい」


 どこからか、聞こえる声の中に、聞き覚えのある話がありました。


「どうやら新しい婚約者がいるのだとか」


「その方は神級魔法が扱えるそうだ」


「俺は魔王を討伐したと聞いたぞ」


「最近はそのお方のおかげで、住みやすくなったな」


 ふふっ。思わず笑みがこぼれてしまいます。

 だって、その婚約者はたった今婚約破棄をされているのですから。


「確かそのお方の名前は、カチュア様と聞いたな」


「あぁ、神級魔法の使い手カチュア様だ」


「魔王討伐の勇者カチュア様だな」


「神級魔法の使い手で、魔王討伐の勇者で名領主とくれば、皇太子様の婚約者になるのも頷けるってもんだ」


 えっ……?

 神級魔法? 魔王討伐? 名領主?


「最近では、暴れまわるドラゴンも討伐してくれたって話じゃねぇか」


 気づけば、皆が笑顔でカチュアお姉さまの噂を口にしています。

 でも、それって……私がした事なのに? 何故カチュアお姉さまの功績に?


 あぁ、そうですか。そういうことなのですね。

 非凡なお姉さまでしたらこの程度、やろうと思えば簡単に出来るのでしょう。

 ですが、あえて平凡な私の功績をかすめ取り、婚約者であるジュリアン様も私から奪い、私の全てを奪って嘲笑う事が目的なのですね。


 確かに平凡な私では、非凡なカチュアお姉さまに敵うわけがありません。

 普段なら、いえ、先ほどまでならそうやって諦めもしていましたが、気が変わりました。

 平凡なりに、平凡な仕返しをさせて頂きます。たとえ命を賭してでも、一矢報いようと思います。

 覚悟していてくださいますよう、お願い申し上げます。




 ‐その日、謎の爆発により街が一つ、地図から消えた‐

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