第17話「告白、そして」

「ゾフィさんは妊娠しています」


「おい! エルクてめぇ!!!」


「ひぇっ」


 カミングアウトした瞬間に、ゾフィさんが怒涛と共に剣に手をかけるのが見えた。

 やばい、『混沌』発動。耐えきれるか?


「待った」


 剣に手をかけるゾフィさんの手を、スキールさんが掴んで止めていた。


「ゾフィ。今エルクが言ったことは、本当か?」


 真剣な顔だった。


「いやいや、何言ってんだ。太っただけだよ。な?」


 ゾフィさんの問いかけに、誰も賛同をしない。

 そもそも、スキールさんも、ずっと一緒に居るならなんで気づかないかな。

 いや、ずっと一緒だからこそか。

 突然お腹が大きくなったわけじゃなく、徐々に変化していくのだから。もし気付いたとしても、その事を本人に問いただして否定されたら「自分の思い過ごしだったか」で納得してしまうだろう。

 こうして改めて事実を突きつけられ、ちゃんと意識してやっと理解できるんだろうな。思い過ごしなんかじゃないって。


「ゾフィ。妊娠して、いるんだろ?」


「……あぁ」


 スキールさんは軽く息を吐いた後、深く息を吸った。

 告白か? この場面はもう告白でしょ?


「……っ!」


 ……早く言おうよ!?

 言うかと思ったら、スキールさんはもにょもにょして深呼吸をしての繰り返しだ。ヘタレか!

 アリア達も呆れ気味の表情でその様子を見ている。ここまできてこれは流石にねぇ。

 ただゾフィさんだけは、スキールさんがもにょったり深呼吸するたびに反応してビクついて居る。見ていて可哀想なくらいに……緊張しているのだろう。


 このままでは日が暮れても終わらないな。

 仕方がない。こうなったら『アレ』をするか。

 もしかしたらゾフィさんの反感を買うかもしれないけど、その時はアリア達に助けを求めるなりなんなりするさ。

 僕は握りこぶしを作り、腰を下ろしてお腹に力を込めた。


「男らしく決めるスキールさん、マジカッケーっす!」


 急に大声を出した僕に、皆ビクリと身を震わせた。そりゃそうか。

 勇者スキル『覇王』、正直馬鹿馬鹿しい技ではあるけど、今回だけで良い、スキールさんに勇気を与えるきっかけになってくれ。


「スキールさんの魅力に皆がメロメロっす!」


 正直凄く恥ずかしい。だって滑ってるでしょこれ。確実に滑ってるでしょ。

 ゾフィさんが怒ってくれればまだマシだった。辞めるきっかけに出来たし。

 完全に固まって怒りすらしてくれない。

 こうなったら滑ってるのが分かってて続けるしかないのだから、余計に辛い。


「えっと。エルク君がスゴイって言うんだから、スキールさん凄い、っす?」


 フレイヤさんが僕の隣に立って、同じように『覇王』でスキールさんを褒め出した。

 よくわからないけど、一緒にやってみました感が出てる。空気を読んだら普通は出来ないような行動だ。内心で彼女の空気の読めなさに感謝した。

 フレイヤさんが行動を起こしてくれたおかげで、動き出した人物がいる。

 ケリィさんだ。


「スキール。貴方は昔から行動力があった! 今回だってやれるわ!」


 フレイヤさんとケリィさんが一緒にやり出した事で、集団心理が働いたのだろう。

 アリア達も同じようにスキールさんを褒め始めた。


「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 スキールさんの雄叫びがこだました。

 晴れやかな顔をしている。やっと決心が付いたのだろう。

 

「決めるぜ!」


 流石スキールさん、カッケーっす。

 それじゃあ、僕たちは黙ってその様子を見届けさせてもらおうかな。

 ここは黙る場面だけど、それが分からない子も居るだろうし、手を前に出して『覇王』をストップするように促す。


「ゾフィ!」


「は、はいぃ!」


「俺と、決闘してくれ!」


 なんでだよ!

 決闘じゃなくて結婚と言う場面だろ!?

 土壇場でヘタレやがった!


「えっ? えっ?」


「俺が勝ったら、キミは俺のものだ」


 戸惑うゾフィさんに対し、スキールさんは御構い無しに剣を振りかぶった。

 戸惑い状況を理解できていないゾフィさんだが、それでも素早く剣を抜くとスキールさんの剣を払った。頭が反応できなくても、身体が反応している。

 なおも雄叫びをあげ打ち込むスキールさんの太刀筋を、ゾフィさんは軽く受け流している。


「急になんなんだよ!?」


「ゾフィ。好きだ。俺と結婚してくれ!!!」


 言った!

 聞き間違える事ないくらい、大声でついに告白した!


「ふぅん。あのヘタレやっと言えたじゃない」


 サラの言葉に全面的に同意だ。


「好きって、アタシ全然女らしくないし」


「そんな事ない!」


「料理だって出来ないし」


「そんなもの覚えれば良い!」


「でも……」


「あーもう、うるさい!!!」


 スキールさんが、その場で剣を投げ捨てる。

 ゾフィさんの元まで走っていくスキールさん。丸腰の相手に剣を向けるわけにもいかず、困惑して固まったゾフィさん。

 その一瞬の隙に、スキールさんがゾフィさんを抱きしめていた。


「もう一度言う。俺と結婚してくれ!」


「お、お腹の子が誰の子か気にならないのか?」


「そんなの俺の子に決まってる。違うのか!?」


「違わないけどさ」


「なら何も問題ないだろ。結婚してくれ!」


「だって、あんた英雄になりたいって、沢山の人を救いたいって」


「誰かに認められたかったからだ! 俺はこの通り何も出来ない。だけど誰かに認められる自分が欲しかった!」


「じゃあアタシなんかと結婚したら……」


「でもそんなのはもうどうでも良い。英雄の名声よりもお前とお前の子供が欲しい! ゾフィとその子供が俺を認めてくれるなら、俺はそれで満足だ!」


「でもアタシだぞ? アリアやサラみたいに美人じゃないし、リンみたいに可愛らしくない」


「ゾフィ。たとえキミでも、俺の愛したキミへの悪口は許さない! そんな悪い口はこうしてやる!」


 あ、やばい。

 僕は咄嗟にアリアに両手で目隠しをした。

 同じように察したサラがリンに目隠しをしている。ケリィさん、フレイヤさんに目隠しありがとうございます。

 カランと金属音が鳴った。スキールさんのキスで、ゾフィさんが持っていた剣を手放し、地面に落としていた。


「どうだ!」


「でも……」


「まだ言うか!」


 先ほどと違って長い時間キスして動かない。


「エルク。まだ?」


「ごめん。もうちょっとだと思うから」


「うん」


 アリアは聞き分けが良くて助かる。もし本気で抵抗されたら一瞬で抜けられるだろうし。

 フレイヤさんも暴れてないか見てみたけど、意外に大人しい。人見知りしてるだけかもしれないけど、それならそれでいいや。


「もう言わないと誓えるか!?」

「あ、あと一回してくれたら、言わないかも……」


 顔を赤らめ、口を突き出すゾフィさんが、もう一回を要求している。


「何度だってしてやるさ!」


 凄く気まずいから、もう他所で勝手にやってて欲しい。

 子供達アリアとフレイヤさんが真似するかもしれないから、教育に悪い。

 呆れつつも、「目のやり場に困るよね」とサラに話しかける。


「ふふっ。でもスキールのやつ。やるじゃない!」


 そう言って、満面の笑みでサラは2人の様子を見つめていた。


「良いなぁ……」


 サラとケリィさんからは高評価のようだった。まじかー。

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