第19話「違(たが)える道」
イルナちゃん達を見届けた。
さてと、ジャイルズ先生の依頼の途中だったし、里の調査をするかな。
「私はエルフの子達に書庫を案内してもらう約束をしたから、リンと一緒にそっちへ行くわ」
一昨日僕が里長と話してる際に、仲良くなったエルフ達に書庫を案内してもらう約束をしていたようだ。
書庫か、古い本なら確かに『神級魔法』の手掛かりがあるかもしれない。
「うん、わかった。サラ、リン、そっちは宜しく」
「はいはい」
「はいです」
僕はチラリとアリアをみる。
アリアはサラ達と行かないなら、僕と一緒に里を見て周るかな。
「私はエルフ達と手合わせの約束がある」
「剣で?」
「うん」
剣で手合わせか。
相手が誰かわからないけど、エルフ達が相手なら、例え男性が相手でもアリアの方が強い気がする。
「100年以上も剣の修行を積んでる人も居るから、勉強になる」
アリアの口から勉強!?
そういえば
しかし、100年以上も剣の修行を積んでるエルフか。
アリアが勉強になるというくらいだから、相当強いんだろうな。正直僕も行ってみたい気はするけど、依頼で来ているわけだし自重しておこう。
「そっか。それじゃあ世間話とかして、何か聞いたり、違和感を感じた事があったら教えてね。エルフの人達から色々話は聞いたけど、もしかしたら彼らが当たり前だと思って話していない事が、重要な手がかりだったりする可能性もあるから」
「うん」
アリアが剣の手合わせに行くのは、エルフの人達から色々と話を聞くための口実。という感じの建前で話を進めた。
ちょっと微妙そうな顔をしていたサラだけど、少々呆れ気味に「それで良いわ」と納得したようだ。
「で、アンタはどうするの?」
「僕は里を周って、何かないか探すつもりだよ」
「ふぅん」
それぞれの行動方針が決まったので、「それじゃあ、また後で」と言って僕らは別れた。
☆ ☆ ☆
「ここはシルクを取るために、
「そうなんだ」
アリア達と別れた後、フレイヤさんに声をかけて里の案内を頼んだ。
フレイヤさんは誰かの後に付いて行きたかったのだろう。でも、どう声をかければ良いかわからず、キョロキョロしている感じだったのを見かねてだ。
「中を見てみますか?」
「う~ん。ここは後回しで良いかな」
話を聞く限りでは、小屋の中には蚕が一杯いるだけみたいだし。
流石に、芋虫がうじゃうじゃいる様子を見るのはちょっと嫌かな。
「わかりましたわ。それじゃあ次の場所に案内しますわ」
そう言って、フレイヤさんは僕の手を引いて歩き始める。
握られた手を見て思う。
こうやって馴れ馴れしく近づいて来たと思ったら、さっきみたいに遠慮してキョロキョロしたり、本当に距離感を測るのが下手だなぁ。
多分こうして話したりしてる時はテンションが上がって馴れ馴れしく出来るけど、一人になって自分を振り返った時に「迷惑だったんじゃないか」と思って、そのままドツボに入るタイプなんだろうな。
何となくサラに似てるかな。だからサラと相性が悪そうな気がするけど。
初めて会った頃のサラも、何かあると素直に謝れずに、さっきのフレイヤさんみたいにキョロキョロしながら僕をチラチラ見てたっけ。
「どうしました?」
「いえ、何でもないですよ」
っと、昔の事を思い出して顔がにやけていたみたいだ。昔と言う程、昔の事じゃないけどさ。
顔にぐっと力を入れて、出来る限り真面目な表情にしてみる。
遠巻きに女性のエルフ達が僕らを見て、コソコソと何やら内緒話をしているのが見えた。
生暖かい目でニコニコ、と言うよりもニヤニヤと言った感じで見ている。別にそういう関係じゃないって。
「そういえば、昨日からダンディさんの姿が見えませんね」
里長と話した後から姿を見ていないな。
「ダンディでしたら里に戻りましたわ」
自分の里に帰ったのか。それならせめて挨拶くらいしたかったけど。
「ダンディの事ですから、どうせ2,3日もしない内にまた顔を出しますわ」
そんなに頻繁に顔を出しているのか。それならエルフの里を調査している間にまた会えそうだし、挨拶はいらないか。
「そうそう、ダンディと言えば……」
その後、フレイヤさんにダンディさんの話を聞かされながら、日が暮れるまでエルフの里の案内をしてもらった。
作物を育てている以外は
☆ ☆ ☆
日が暮れたので、里の調査を切り上げてハウスウッドまで戻ってきた。
おや? ハウスウッドの前にはアリア、サラ、リン、そして他にも見慣れた人影が居る。
「おぉ、エルク君も丁度良い所に」
そう言って手招きをするジャイルズ先生と、マッスルさん。
それと里に戻っていったはずのダンディさんがいた。
「大事な話があるので、キミにも来てもらいたい」
「大事な話ですか?」
「あぁ、里長も交えて話すので、付いてきてほしい」
ジャイルズ先生は少々緊張の面持ちをしている。
先頭を歩くジャイルズ先生の後を、僕らはついていった。
広間の扉の前には、今日は門番のエルフが二人居た。
彼らはジャイルズ先生の姿を見て「どうぞ」と言って扉を開けてくれた。
広間には里長が座っていた。それ以外は誰も居ない。
軽く頭を下げて部屋に入るジャイルズ先生の後に僕らも続いた。
僕らが入った後に「それでは」と言って門番のエルフが扉を閉めた。
日が暮れれば他のエルフ達もハウスウッドに戻ってきて、前みたいに聞き耳を立てないとも限らないので、今回は門番を立てたそうだ。
だけど、それだけ重要な話ってなんだろうか?
考えても分からないし、話を聞こう。前と同じように僕らは里長の前にある敷物に座った。
「私がお話して、宜しいでしょうか?」
「あぁ、よろしく頼む」
ジャイルズ先生が里長に確認をした後、僕らを見る。
「まずはエルク君。キミ達には後2,3日エルフの里で『神級魔法』の手掛かりが無いか調査をお願いしたいが、宜しいかな?」
宜しいも何も、そういう依頼で来てるわけだし。
僕はアリア達の方を向いて「良いよね?」と聞くと、アリア達も頷いて返事をしてくれた。
「はい。大丈夫です。元々ジャイルズ先生の依頼で来てるわけですし」
「ふふっ、ありがとう。調査をして何か見つかったら教えて欲しい。何も無かったら、それはそれで構わないよ」
穏やかな笑みで「うんうん」と頷いている。
冒険者に依頼した依頼主と言うよりも、頑張っている生徒を見守る教師の顔だ。
卒業して冒険者になっても、先生から見たら、まだ僕たちは生徒なんだろうな。
「そしてもう一つだが。私は明日の朝ここを出てヴェルに戻ろうと思う」
「調査は良いのですか?」
せっかくエルフの里に来て『神級魔法』の手掛かりを掴めるかもしれないのに。
いくら僕たちに調査を任せると言っても、専門の知識があるジャイルズ先生が調べたほうが捗ると思うけど。
「調査もしたい所ではあるのだがね」
ジャイルズ先生は苦笑し、理由を説明し始めた。
エルフ達の今後を考え、ジャイルズ先生はここいら一帯を治めている領主に、エルフ達の保護をしてもらうように話をしに行くつもりだそうだ。
しかし、いきなり領主に謁見なんて出来る物なのだろうかと思ったけど、そのためにまず学園長とギルドマスターに話をつけるそうだ。
学園長とギルドマスターなら元はSクラスの冒険者なので、望めば領主との謁見も可能だとか。
領主と謁見か。確かに領主から保護してもらえるなら、エルフ達の安全は確保できるかもしれない。
だけど、そんな簡単にいくのだろうか?
もし領主がエルフ達を捕まえて奴隷にしたいと言い出したら、最悪の事態になる可能性もあるのに。
「エルク君。安心したまえ。領主とは私も何度か会って話をしたことがある、変わり者ではあるが、話が通じる男だ」
よくわからないけど、ジャイルズ先生の中で確信めいたものがあるようだ。
不安ではあるけど、信じるしかない。
「話すのは良いけど、いきなりエルフが居ますと言って、信じてもらえるもんなの?」
サラが言うのも、もっともだ。
確かに、急に「エルフが居るので保護してください」と言われても、信じられないだろう。
「里長が同行するんじゃないかな?」
なので、本物のエルフを見れば納得するだろう。
大事な話し合いをするなら、同行するのは多分里長になるだろうし。
「いや、ワシは行かぬ」
あっ、行かないんだ。
「なので代わりにエルフは私とソールが行く。昨日それを里へ報告して、長老から許可をもらってある」
ダンディさんが昨日居なかった理由はそういう事か。
流石に無許可で行くわけにはいかない、ダンディさんもそこら辺は弁えているのか。
でもダンディさんを見てエルフなんて信じるだろうか?
信じがたい気はするけど、一応耳があるし最終的には信じるしかないのだろうなぁ。今、エルフはこんな事になってると。
「それで、ソールさんという方は?」
キョロキョロと見渡してみるが、それらしき人物は居ない。
後から合流するのかな?
「俺だ」
声の主を見て「えっ?」となった。
マッスルさんが自分を指さしている。確かに見た目で言えば、
「俺は元々エルフの里出身だ。人里に降りる際に耳を切り、人族と同じようにしたんだ。そのおかげで、今までエルフとバレる事がなかった」
そう言ってドヤ顔をするマッスルさんことソールさん。
もし耳があっても、多分誰もエルフだとは思わなかったと思うけどね。
あれ?
って事は他にも人族に紛れているエルフもいるのかな?
「ちなみに、人族の事は定期的にソールが里に来るから、ある程度は知っておる」
「里長は人族の事知っているなら、何故他のエルフ達は人族を誤解しているんですか?」
エルフも
「もし人族が我々に近い見た目で怖くないと分かったら、人族の里へ行きたいと言い出す者が出るからな。わざと人族は恐ろしい見た目をしていると嘘をついていたんじゃよ」
確かに
「もっとも、こやつらはそれを聞いて『ならば戦ってみたい』と言い出し、逆効果であったようだがな」
バルドさんの話をどう解釈したのか、誇らしげにマッスルポーズを決めるマッスルさんとダンディさん。それを見て、バルドさんは聞こえるように大きな溜息を吐いた。
エルフの里長ってのは大変だな。特に隣の里との交流が。
☆ ☆ ☆
それから話は続いたけど、特に僕らに直接関係のする話ではなかった。
ただじっと座って、里長とジャイルズ先生が話すのを聞いていただけだ。
しびれを切らし、世間話を始めたのは誰からだっただろうか?
気づけばアリア達は、里長とジャイルズ先生の話をそっちのけでおしゃべりをしている。
里長やジャイルズ先生がその様子をちらりと見たが、咎めない辺り気にしていないのだろう。
とは言え、流石にここでアリア達の会話に混ざるのは里長やジャイルズ先生に失礼なので一応話を聞いている振りをして、アリア達に話しかけられたら愛想笑いを返している。
正直、両方の話を聞いているせいでどっちも頭に入ってこない。
「ダンディのバカッ!!!」
だから急だった。
フレイヤさんは目に涙をいっぱい溜めて、そのまま走りドアを開けて部屋から出て行った。
「どうしたんですか?」
「あぁ。私はジャイルズに付いて行って、そのまま魔法学園に特別入学をすると言ったら、フレイヤも付いてくると言ったので、他人と目を合わして話す事が出来ないお前が来ても邪魔だから来るなと言ったら怒って出て行った」
「それは酷くないですか?」
確かにフレイヤさんの性格を考えたら付いて行くのは難しいだろうけど、そこまで突き放した言い方をしなくても。
フレイヤさんにとっては数少ない友達だからこそ、余計に堪えるだろう。
「構わん」
「追いかけた方が良いんじゃないですか?」
「構わん」
「でも……」
「しつこい!」
広間にダンディさんの声が響き渡り、そして静まり返った。
僕はそれ以上何も言えず。ただ微妙な空気になった広間で黙っているしか出来なかった。
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