第6話「かつての友」

 「なぁなぁ、ドラゴンを倒した時の話を聞かせてくれよ」


 食事をしている僕らの周りには、人だかりが出来ていた。

 ドラゴンを退治したなんてニュースはここ数年聞いていないらしく、どんな話か興味津々のようだ。


 ちなみに、やはり僕らに突っかかろうとした冒険者も居た。

 ヨソから来た新人冒険者が、ドラゴンを倒して周りから注目を集めているのを面白く思わないのだろう。

 しかし僕らに絡もうとするが、僕らの後ろで笑っているゼクスさんを見て、そのままペコっと頭を下げ、愛想笑いをしながら逃げて行った。

 確かギルドマスターって冒険者ランクの高い人がなるみたいだから、恐れられてもいるんだろうな。ゼクスさんは顔も怖いから尚更のことか。


 っと、話が逸れた。

 ドラゴン退治の話か。正直僕は見ていただけだから、特に何かしたわけじゃないんだよね。


「僕は勇者なので、基本見てただけです」


「えっ、お前勇者って……パーティの人達ランクいくつよ?」


「皆ランクEよ。こっちのアリアが上級職の聖騎士で、この子が斥候、そして私が魔術師」


 僕が勇者と分かった途端、一気に僕の周りからは人が減り、サラとアリアの方に集まった。

 アリアは食事に夢中で何か言われても適当な空返事が多い。リンは僕同様役に立ってないと思われているのだろう。あまり人が集まってこない。

 結果、サラが質問責めにあい、仕方がないという感じで答えている。


「勇者連れたEランクパーティがドラゴンを討伐した。ねぇ……」


 別のテーブルで酒を飲んでいた中年男性が、含みのある言い方をしてきた。

 言いたいことはわかる。ドラゴンを倒すなんて駆け出しの冒険者に出来る芸当じゃない。

 かと言って、倒したと言い張っても疑われるどころか、余計変なのに絡まれかねない。今はまだギルド内でゼクスさんがバックについてくれているが、ギルドを出たところを狙われたりするのも嫌だし、そんなのを警戒してビクビクしながら街を歩くのもごめんだ。

 申し訳ないけど、シオンさん達に一役買ってもらおう。


「実はですね。そこにいるシオンさんとフルフルさんが、それはもう腕の立つ方なんですよ。フルフルさんが水の特級魔法でドラゴンを凍らせて、シオンさんが持っている剣でズバーっとドラゴンの頭を一刀両断して倒してくれたんですよ」


 今度は視線がシオンさんとフルフルさんに向けられた。

 値踏みをするような視線を向けると、シオンさんとフルフルさんの間にイルナさんが立ちドヤ顔を決めた。

 イルナちゃんを見て、他の冒険者が納得の表情を浮かべる。


「僕らも一応応戦はしたのですが、どうにも歯が立たなくて全滅するところでしたよ」


 「なんだそういう事か」とゲラゲラと笑いながら解散ムードに。

 やんごとなき身分の護衛2人がドラゴンを倒した。彼らの中ではこれで納得したのだろう。


「何故、嘘をついた?」


 シオンさんが、興味深そうな顔で質問してくる。


「嘘ではないですよ。全滅しそうになったのも、シオンさんがトドメを刺したのも本当でしょ?」


「それはそうだが、その前にお前たちが弱らせている」


「そうですが、僕らが倒したと言えば、それを面白くないと思う人からどんな逆恨みを買うかわからないので、シオンさん達が倒したと言うのが一番手っ取り早かっただけです。もし不快に感じたならごめんなさい」


「いや、大丈夫だ」


「確かに、注目が集まるのは好きじゃないわ」


「はいです」


 そうだ。忘れないうちにシオンさん達に今回の報酬の山分けをしよう。

 今回ギルドの買取で頭が30ゴールド、爪が2ゴールドで売れた。

 彼らはいらないと言ったが、流石に大金だ。ネコババするのは気が引ける。

 それにヴェルに滞在するつもりがあるなら、お金が無いと彼らも厳しいはずだ。


「シオンさん。今回のドラゴンの素材が売れたので、半分づつでどうでしょうか?」


「半分づつと言うのは?」


「売れた金額が合計で32ゴールドなので、16ゴールドづつお互いのパーティの取り分でどうでしょうか? と言う事です。サラもそれで良いよね?」


「ええ。私達だけで倒したなんて言うつもりもないし、アリアもリンもそれで良いでしょ?」


 サラの問いかけに二人とも頷いて答える。


「いらぬわ。妾はお主等にやると言ったのだぞ? 舐めてくれるな!」


「ええ。私としても、一度上げたものを返してほしいと言う気は無いわ」



 う~ん、どうしよう?

 僕がやってるのは余計な事だとわかっているけど……それでもダメだ、お金っていうのは魔物だ。

 後で遺恨が残る可能性が高いからこそ、ちゃんとしないといけない。父に常日頃から言われ続けてる事だ。


「わかりました。シオンさん、ではこうしましょう」


「うむ?」


「イルナさん達は、ヴェルでお祭りを楽しんでいきますか?」


「当然じゃ!」


 間髪入れず、ウキウキした表情でイルナさんが答えた。

 

「僕達はこの街で冒険者として依頼を受けて日々こなそうと思っていますが、何分不慣れなので、もし宜しければ手伝って欲しい時もあるのですが」


 チラッとシオンさんを見る。

 目が合い、シオンさんは僕に笑いかける。


「別に、それは構わないが」


「なので今回のヴェルまでの護衛のお礼と、今後困った時に助けてもらう分として、16ゴールド支払います」


「しかし」


「お金が無いと、滞在は難しいですよ?」


 彼らの懐事情は分からないけど、馬車の弁償代が手持ちでは足りないと言ってたので、そんなに多く持ち合わせがあるわけじゃないだろう。

 現に、僕の言葉でフルフルさんが表情を曇らせている。

 それでも矜恃があるのだろう。中々「うん」とは答えてくれない。


「し、しかし」


「お金があれば、イルナさんがお祭りを楽しめますよ」


「……わかった、金を受け取らせてもらう。その代わり何か困った事があれば呼んでくれ。出来る限り力になる」


 最後は彼らの忠誠心に物を言わせたやり方だったけど、何とか受け取ってもらえた。これで金銭関係の憂いは無くなった。

 シオンさんはお金を受け取り、軽く「フッ」っと笑った。


「お前は、変わった奴らだな」


「そうですか?」


「大金なんだろ? それを賄賂目的でもないのに、受け取らせるために必死になる奴なんて見たことないからな」


「お金は大事だからこそ、キッチリしないとダメだ。と父に言いつけられてますので」


 5年間引き籠って、無職だった僕が言うのもなんだけど。


「良い父親を持ったな」


「はい」


 シオンさんは目を細め、僕の返事に満足気な顔だ。

 彼らの信頼を得られたのは大きい。この街で活動するには僕らはいきなり目立ち過ぎた。

 快く思わない連中が絡んでくる可能性がある。アリア達は強いが、それ以上に強い冒険者はいくらでもいるはずだ。

 金を持った勇者と女の子3人の低ランクパーティなんて、悪い人間からしたらカモに見られる可能性もあるので、頼れる人間が一人でも欲しいという気持ちも正直ある。

 勿論利用しようという気は無い、彼らに助けが必要な時があれば、僕も同じように力を貸そうと思っている。



 ☆ ☆ ☆



 昼食も終わったし、街を散策したいところだけど、まずは宿の確保が先だな。

 宿を探すとなると、風呂付の宿じゃないとサラが多分文句を言うだろう。どうせならシオンさん達も一緒に宿を探すか提案してみよう。

 一緒の宿なら、何かあった時に連絡も取りやすいし。


 会計を済まそうとした僕たちの所へ、キョロキョロしながら一人の青年が近づいてきた。

 短髪の黒髪。はて、どこかで見た事がある気がする顔だけど。


「えっと、ドラゴンを倒した冒険者が居ると聞いたんだけど。貴方たちであっていますか?」


「はい、そうですが……何か用で?」


「俺はヴェル魔法学園の生徒なのですが、実は卒業試験の一環で、北の森に住むキラーファングを討伐しないといけないのですが。もし良かったらですが、討伐の手伝いを指名依頼で受けて欲しいけど、ダメかな?」


 卒業試験。そういえばそういう時期でもあるのか。

 確か卒業試験は引率の教員を連れて、指定されたモンスターを倒したり、指定された植物を採取したりと、学科によって違っていた気がする。

 その際に、冒険者を護衛として雇っても良かったはずだから、護衛の依頼かな。


 卒業試験の護衛依頼か、まだ着いて初日だし、サラ達の意見も聞いてからじゃないと答えられない。

 どう返事を出すか悩んでる僕を、黒髪の青年はじっと見てくる。


「あのさ、人違いかもしれないけど。もしかして、エルク君かい?」


 一瞬ドキッとした、魔法都市ヴェルで僕の名前を知っている人物、そんなのは決まって碌な相手じゃない。

 正直関わりたくないがもう遅い。

 適当にすっとぼけて切り抜けようとしたけど、先にリンが答えてしまった。


「エルクの知り合いですか?」


「やっぱりエルク君かい! 俺だよ? スクールだよ!」


 スクール君!

 彼は僕がイジメられてる時に、最後まで味方をしてくれた数少ない友人だ。

 同じ学年で入ったが、彼は確か3つ上だから、今は18歳か。

 ゆっくりと見上げて彼の顔を見てみる。顔つきは大人になってはいるけど、記憶の中のスクール君と一致している。


「スクール君久しぶりだね! 卒業試験って事はスクール君は今年で卒業なのかい?」


「あぁ、それで護衛の冒険者を探していたんだ。指名じゃない場合どんな冒険者が来るかわからないからね。人気がある冒険者はすぐに指名で埋まってしまうんだ」


 彼の名はスクール、生まれはここよりずっと西の山を越えた田舎だと言っていたっけ。

 彼の住んでる町では生まれた子供の名前に名詞を付けられる事が多いらしく、彼の両親は元々ヴェル魔法学園に通っていて、学園で大恋愛の末にスクールが生まれたので、名前をスクールと付けたと聞いている。


「いつのまに冒険者になっていたんだい? というかこっちに来てたなら顔を出してくれれば良かったのに」


「冒険者になったのはつい最近で、ヴェルにも今日着いたばかりなんだ」


「そうなのか。じゃあ良かったら街を案内しようか? 学生時代、キミは寮に篭って勉強ばかりしてたから、この街の事全然知らないだろ?」


「えっと……」


 テーブルを見渡す。全員が頷いているからOKのようだ。


「うん、それじゃお願いするよ」


 かつての旧友と出会えた。

 学園には1年位しか通っていなかったが、その間に出来た数少ない友人。スクール。

 彼に続いて僕らは席を立つ、街の案内をしてもらうために。

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