第149話 ルデルゼンのお出かけ
センがレイフェットの屋敷で色々と話をしている頃、ようやく体力が戻り自由に動けるようになったルデルゼンは、探索者ギルドの前に立っていた。
「そこまで久しぶりと言う訳では無いのですが……なんだか物凄く久しぶりな感じがします」
「そんなもんかにゃ?……あー、でもセンの家のベッドで寝てるだけだと物凄く時間が経つのが遅い感じがするにゃ。久しぶりって言うのも分かる気がして来たにゃ」
「おや?ニャルさんもセン殿の家で療養したことが?」
ルデルゼンが隣にいるルデルゼンの事を見下ろしながら尋ねると、ニャルサーナルは物凄くげんなりした顔で頷く。
「あるにゃ……超苦痛の日々だったにゃ。来る日も来る日もずっと草粥だったにゃ、死ぬかと思ったにゃ。いくら言っても肉をくれなかったにゃ、センはドケチにゃ」
「……なるほど。大変だったのですね」
ニャルサーナルの言葉にルデルゼンは誰がとは言わずに同情する。そんなルデルゼンの言葉の意図には気づかず、ニャルサーナルは全くにゃ!と憤慨する。
「ルデルゼンもセンにご飯を作らせる時は、よく言っておいた方が良いのにゃ」
「機会があればそうすることにします」
「にゃ?今日の晩御飯はいいのかにゃ?」
ニャルサーナルが首を傾げながら尋ねると、ルデルゼンは苦笑しながら頷く。
「えぇ、体力も戻りこうして動けるようになりましたし、今日から借りている宿に戻るつもりです。後日改めてお礼に伺うつもりですが、セン殿やラーニャさん達には家を出る時に挨拶してきました」
「なるほどにゃー。じゃぁニャルも今日から自分の部屋に戻るにゃ」
「自分の部屋ですか?」
ニャルサーナルの言葉に、今度はルデルゼンが首を傾げる。
「そうにゃ。ルデルゼンが寝てたのはニャルの部屋にゃ!今日までラーニャ達と一緒に寝てたにゃ」
「そ、そうだったのですか……それは申し訳ない事を……」
ルデルゼンが恐縮したように言うが……この場にセンがいれば即座にツッコミを入れた事だろう。ニャルサーナルの使っている部屋は客用の寝室であってお前の私室ではない、と。
「怪我をしてたから仕方ないにゃ。それより、ギルドに入らなくていいのかにゃ?」
「……そうですね。ここに居ては邪魔になりますし、中に入りましょうか」
ルデルゼンはそう言ってギルドの中に足を踏み入れる。次の瞬間、ギルドが一瞬静まり返り、ルデルゼンに視線が集まった。
ルデルゼンは若手でありながら二十階層に挑んでいる『陽光』のメンバーとして顔が知られており、また『陽光』がつい先日、ダンジョンで壊滅に近いダメージを負ったことも知られていた。
「……」
居心地の悪い感覚を味わいつつ、ルデルゼンはギルド内を見渡す。
「まだ来ていないか……」
ルデルゼンは目当ての人物がいないことを確認してからギルドの飲食スペースに向かう。
「いなかったのかにゃ?」
「えぇ、すみません、ニャルさん。お待たせしてしまって」
「にゃはは、別に構わないにゃ。今日の用事はセンを領主の所に迎えに行くだけだからにゃー、どうせあの二人は酒飲みながらゲームとかしてるだけにゃ。ニャルは基本的にセンが出かける時以外は暇にゃ」
センの護衛以外に特に用事は無いと言い切るニャルサーナルに、ルデルゼンは驚いた表情を見せるが、その表情の変化に気付いた者はいなかった。
それよりも、ニャルサーナルがルデルゼンに話しかけた事で、先程ルデルゼンに集まった物とは違った意味で視線が集まっている。
それは先日この場所でセンが集めた視線と同じ種類の物であったが、ニャルサーナルもルデルゼンも気づく事は無い。
「ニャルさんは、探索者と護衛を同時にやっているのですよね?大変ではありませんか?」
「んー?そんなことは無いかにゃ?センは基本的に引きこもりだからにゃ。外に出る時にちょろっと着いて行くだけだし……その外に出る時も、殆ど同じ場所にしか行かないから気楽なもんにゃ」
「……センさんは普段何をされているのですか?」
「んーよく分からんにゃ。領主の所に行ったり、弟子たちに勉強を教えたり……後は大体部屋に籠ってなんかやってるにゃ。でもいつも忙しそうだにゃー」
「……なるほど」
殆ど情報は得られなかったものの、これについては本人に聞くべきと思いそれ以上は聞かず、二人の分の飲み物を注文しながら話題を変えるルデルゼン。
「しかし、私だけでなく、ニャルさんもセンさんの所で療養されていたとは驚きました」
椅子に座りながら言うルデルゼンに対し、ニャルサーナルは普段通り、にゃははと笑って応える。
「センはあんなんだけど、結構お人好しだからにゃー。目の前で困っている相手を見たらちょっかいかけずにはいられない性質にゃ」
「ちょっかい、ですか?」
「そうにゃ。センはいつも、利用できるからとか手段があったからやっただけとか言ってるけど、別にそれをする必要はなかったはずにゃ。結果的にセンの力になると皆言ってるけど、そのままお礼言われてバイバイの可能性はいつもあった筈にゃ。だからセンにとっては親切ではなく、ただのちょっかい程度のつもりなのにゃ」
ニャルサーナルは拗ねているように唇を尖らせながら言う。
「ニャルさんは、センさんの事を心配されているのですね。いつか手酷い裏切りを受けるのではないかと」
ルデルゼンが穏やかな笑みを浮かべながらそう言うが、ニャルサーナルはその言葉にかぶりを振って見せる。
「それは違うにゃ。センはお人好しではあるけど、基本的にずる賢い奴だし、抜け目のない奴にゃ。いつもいやらしい事を企んでいる奴にゃ。だから心配する必要なんてないにゃ。でもまぁ……物凄く貧弱だし、むっつりだし、身内には激アマだからにゃ……護衛として注意が必要ってだけにゃ」
「……なるほど、それは注意が必要ですね」
酷い言い様だと思ったものの、センを貶している様には全く見えず……ルデルゼンは苦笑しながらニャルサーナルに頷く。
「全くなのにゃ。世話のかかる奴にゃ」
そう言って何故かドヤ顔で鼻を鳴らすニャルサーナル。
「私も、センさんには命を救っていただいた恩がありますからね。そう簡単に返しきれるものではありませんが……ニャルさんと協力してセンさんのお力になる所存です」
ルデルゼンは、センがまだ何をしようとしているかは知らなかったが、なんとなく手駒というか協力者を求めているのは分かっていた。
目的如何によっては協力する事は出来ないが、センの人となりや周りにいる人物の性格やセンとの関わり合い方などを見て、何か悪い事を企んでいるという事も無いだろうと思っている。
いずれ腹を割って話す必要はあるだろうし、ルデルゼン自身にも目標はあるが……先日提案してもらった内容から考えて、ルデルゼンの目的とセンがルデルゼンに求めることは乖離してはいない……いや、どちらかと言えば一致していると言っても良かった。
だからルデルゼンはセンの提案を受けるつもりでいるし、センの目的にも積極的に協力したいと考えている。
「その為にも今日の話し合いを丸く収める必要はありますが……」
そう呟き、ギルドの入り口に視線を向けたルデルゼンの目に、丁度ギルドに入って来た目的の人物が映った。
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