第78話 領主の息子
「初めまして、先生。私はアルフィンと申します」
「初めまして、アルフィン。俺はセンだ」
センは身なりの良い少年と自己紹介を交わす。
少年の名前はアルフィン、レイフェットの息子で本日からセンの生徒になる。
「セン、よろしく頼む。アルフィン、この先生は色々と面白いからな……期待していいぞ?」
「はい、お父様。わざわざありがとうございます」
アルフィンが笑顔でレイフェットに頭を下げると、レイフェットはセンに向かって軽く頭を下げた後、部屋から出て行く。
今センがいるのはレイフェット邸にあるアルフィンの私室だ。
レイフェットが部屋から出て行って十秒ほど経過した頃、笑顔を浮かべていたアルフィンが盛大にため息をつき、先程までの丁寧な様子とは打って変わり椅子に乱暴な様子で座る。
「はぁ……また新しい家庭教師か。面倒だな」
「……」
急に態度を変えたアルフィンに対して、センは特に何の反応を見せることなく黙って立っている。
「……?なんだ?俺の態度に驚かないのか?今までの奴等は大体目を丸くしていたんだがな」
そんなセンの態度が予想外だったのか、アルフィンが驚いたようにセンに話しかける。
センは軽くため息をつくと、近くに置いてあった椅子に座り足を組む。
(昨日の内に俺が家庭教師として新しく来ることを伝えてもらっておいたが……自然体だな。予想より素直なタイプなのかもな。ひねくれ者って感じではない……態度は悪いが)
センはアルフィンの態度を観察しながら口を開く。
「猫を被るならもう少し上手くやれ。レイフェットも苦笑していたぞ?」
「な!?お前!お父様を呼び捨てだと!?ふざけるな!」
レイフェットと呼び捨てにしたことでアルフィンが激昂するが、センはそれがどうしたと言わんばかりの態度で口を開く。
「ふざけてはいないさ。俺は元々レイフェットと話す時も呼び捨てにしている」
「お、お前!お父様は領主だぞ!?偉いんだぞ!?お前、馬鹿なのか?」
「確かに賢い方ではないな。まぁ、とりあえずその辺はいいだろ」
「いや、全然良くないぞ!?」
「レイフェット自身が気にしていないんだから気にするなよ。それともレイフェットがそんな些細なことで怒ったりすると思うか?」
「そ……それはそうだが……いや、敬意とかあるだろ?」
納得いかないと言った様子を見せるアルフィンにセンは笑いかける。
「レイフェットの事は尊敬しているさ。それに遜るだけが敬意の示し方ではないぞ?」
「……」
黙り込んだアルフィンを見て、センは少し感心する。
(レイフェットがやんちゃ坊主って言うから、どんなものかと思っていたが……かなりしっかりした子じゃないか。八歳の子供が敬意だ権威だのを理解しているなんて、日本じゃありえないからな)
センは昨日レイフェットから聞いた話から受けた印象から、アルフィンの評価を修正する。
「さて、何をするかな」
「は?お前、俺に勉強を教えに来たんだろ?」
「ん?なんだ、勉強したかったのか?」
「……いや、したくないけど」
そう言って視線を逸らすアルフィンを見てセンは苦笑する。
(勉強をしたくないと言うのは事実のようだが……レイフェットの事を尊敬しているみたいだし、やりたがらない理由が分からないな)
今日の所はその辺はいいかと考えながらセンは言葉を続けた。
「なら、今はいいだろ。これで遊ぼうぜ?」
そう言ってセンは腰に着けているポーチから手のひらサイズの箱を取り出す。
「……遊ぶって、家庭教師がそんなことでいいのかよ?」
「何をどう教えるかは俺に一任されているからな。今日はゲームの勉強だ」
「……ゲーム?」
アルフィンに箱を渡したセンは開けてみろと言う。
訝しげな顔をしているアルフィンだったが、どんな遊びをするのか内心気になっているようで、いそいそと箱を開ける。
中に入っていたのは重ねられたカードだった。
「これはプレイカードって言ってな。ハルキアの王都で売っているものだ。まぁ、シアレンの街でもすぐに売られると思うが」
アルフィンの取り出したカードを貸してくれと言って受け取るセン。
受け取ったカードの束をひっくり返すと、そこには図形と数字が書かれていた。
図形はハート、ダイヤ、スペード、クラブの四種類。書かれている数字は一から十三まで。
いわゆるトランプだった。
普通のトランプと違うのはエース、ジャック、クイーン、キングではなく、全て数字で書かれている事だった。
センはライオネル商会にトランプを作ってもらい、遊具の一つとして売りに出していた。
先程言った通り、プレイカードと言う名称ではあるが。
「……どうやって遊ぶんだ?」
「色々な遊びが出来るが……アルフィンは初めてだしな。簡単なゲームにしよう」
そう言ってセンはハートの一から十三までを順番に並べた後、アルフィンに手渡す。さらにスペードを同じように並べた後、自分の手元に置く。
「それぞれ手に持ったカードを同時に一枚テーブルの上に出す。数字が大きかった方の勝ちだ。一ゲーム十三回勝負して、より多く勝った方が勝ちだ」
「……なるほど」
「数字は分かるよな?」
「馬鹿にするな、そのくらい分かる」
「それは良かった。どうだ?やるか?」
「あぁ……面白そうだ」
アルフィンは手に持ったカードから一枚を選び、センの合図でテーブルの上に出す。
アルフィンの出したカードは十三。センのカードは一
「よし!俺の勝ちだな」
「あぁ、お前の勝ちだ。じゃぁ、この要領で続けて行くぞ?」
「よし、全部勝ってやる!」
機嫌良さそうにアルフィンが鼻を鳴らして、次のカードを選択する。
アルフィンの選んだカードは一。全部勝つと言った直後に最弱のカードを選ぶ辺り、強かな面も持っているようだ。
センの合図で再びカードを出すが、当然アルフィンは一なので負ける。因みにセンの選んだカードは二だった。
一戦一戦に時間のかからないゲームだ、あっという間に十三戦を終える。
結果はアルフィンの一勝十二敗。
「どういうことだよ!?なんで俺が出すカードより毎回一つ上の数字で勝てるんだよ!なんかズルしただろ!」
「さて?どうだろうな?」
「俺の選んだカードが分かってたからこんな勝ち方できたんだろ!?」
アルフィンの言葉にセンはニヤニヤするだけで答えない。因みにアルフィンは若干涙目だ。
「どうやったんだよ!?ズルいぞ!」
「仕方ないな……アルフィン、俺が最初にカードを並べて見せただろ?その後並べたカードを重ねてお前に渡した。覚えているか?」
センが問いかけるとアルフィンは口を尖らせたまま頷く。
「そしてそのままゲームを開始した。お前は俺がカードを並べた順番そのまま、手に持って出すカードを選んでいただろ?俺にしてみれば、カードの中身は分からないが場所は全部分かっているんだ。手に取ったカードがいくつのカードなのか目を開けていれば分かるって話だ」
「やっぱりズルじゃないか!」
「ズルじゃないさ。カードを出す時にアルフィンが俺に教えてくれていただけだ」
「うーーー!!」
駄々っ子の様に足をバタバタさせるアルフィン。そんなアルフィンをニヤニヤしながら見つめるセン。この場にニコルがいたら確実に悪い影響を与えそうな程、子供相手にも容赦ない男である。
「もう一回だ!」
弄ばれたにも拘らず、こうして負けん気を出してもう一度ゲームに挑もうとするアルフィンは、中々素直な子供にセンには見えた。
「いいだろう。今度は順番をバラバラにして手に持てよ?」
「分かってるよ!」
センとアルフィンは暫くゲームに興じる。
二戦目以降は程よく手を抜き、勝ったり負けたりする程度に抑え、それに一喜一憂するアルフィンと同じレベルでセンはぎゃーぎゃー言い合った。
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