叢について
2024年2月29日、閏日に「
楽曲の原型ができたのは、2021年の1月。三年も前の話で、まだ実家暮らしの頃。「
この曲は自分で歌ってやろうと、買ったばかりのコンデンサーマイクを取り出して、手探りで歌いました。「うぉー、出しちまえばいいよ」から「ひゅるる ひゅるる」までの一連の歌詞は、即興で出てきた言葉です。その時の素直な気持ちが、ぽっと現れた感じでした。
そこから大学受験をボイコットし(最悪)、家出し(最悪)、東京で出会った人の家に居候し始める期間を経て、続きを作ることになったのは2023年の初旬の頃。先にデゴーや猿蛇、餞やら制作していたの相まって、どんどん先に追いやっていました。
というのも、「叢」のイントロから先が全くと言っていいほど思い浮かばなかったんです。最終的に10分尺という、自分の曲にしては長い尺になりましたが、当時はそんなんになるとは思っていなかった! そもそも、カルマーダルマというアルバムの最終曲になるとも想定していませんでした。次のアルバムの最初の曲にしようと、考えていたんです。
心境の変化は、この歌詞を改めて読んでからでした。
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出しちまえばいいよ
それでも残った肉欲が
俺たちの芯なのだろう
余震は続くよ
火山も雹も台風も
泳ぐ
ひゅるる
ひゅるる
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自分の今まで感じてきたこと、自分の思う今の理想とかがこの歌詞に詰まっているなって思いました。
カルマーダルマというアルバムは、自分の気持ちを色んなキャラクターに宿して、代弁してもらう形で曲を作っていました。そして、最後の曲になるにつれて私の感情の持ち方も変わってきて、前持っていた怨念のような気持ちが消えていく感覚がありました。思春期をカルマーダルマで過ごし、故郷を出て生活している今、そこに決着をつけなければいけない。そしてこの歌詞は私にとって「決着だ」と感じさせてくれた。代弁ではなく、確信を持って自分の言葉で歌えたからこそだと思います。
愛と性欲と自然への畏怖……って言うと、どうしても合点がいきません。だから、詩に起こすのだろうとは思うけども。
高校生だった当時、少しずつ沢山の人に自分の音楽を聴いてもらえるようになった辺りで、求められている(と、自分が思い込んでいる)音楽と、自分が作りたい(と、自分が思い込んでいる)音楽とのギャップに心が荒れていました。音楽のことだけでなく、自分の望みを自分の範疇の中で叶えることの難しさに嘆いていた時期だと思います。カルマーダルマというアルバムを制作するにあたって、この作品を完成させたら、もっと自信を持って生きていけるんじゃないかと思っていました(自信ってなんやねんとは思うけど)。
叢のMVの中に登場した二人の動物のキャラクターに、ハイエナのガクとタテガミオオカミのコウというのが居ます。これは、その頃の自分の中に居た二人のキャラクターなんです。
皆さんの中にも葛藤って存在すると思うんです。矛盾した二つの感情があると思う。自分の場合、その葛藤の象徴こそがその二人だったんです。全く違う、正反対の考えを持つ二人が、頭の中で言い争いをしていました。時に二人は一つになって、俺の寝ている隣で一緒に寝てくれました。辛い時は二人に声を掛けて、沢山の言葉をもらっていました。彼らは全く完璧ではなくて、間違ったことも沢山言っていて、俺が彼らを慰める瞬間も沢山ありました。一緒に泣いた日もありました。
今も自分の中に彼らは居るけど、もうその二人はそれぞれの道を歩み始めていて、彼らと会うことも少なくなりました。
叢のMVを制作しようと、GREENGECKOTYSONさんに声を掛けさせていただきました。彼女の生き方や、描かれる絵のスタイル、そしてハイエナに対する強い気持ちが自ずと俺を導いてくれたのだと思います。
そこからガクとコウというキャラクターについて一緒に話し合っていき、カナダから南米へ旅をする二人の獣人についての話を紡いでいきました。その中で、自分の中にあったガクとコウというキャラクターが、どんどん一般化されていく感覚があって、誰でも持つであろう葛藤や矛盾を象徴する形となって再び形が表れていきました。それがとても嬉しかった。自分の中だけにあったものが、どこかの誰かに伝わるような形で再び姿を明確に現された衝撃は、滅茶苦茶大きかったです。
彼女は、ガクはある時の自分で、コウもまた、ある時の自分であると言いました。それは私にとっても同じでした。
叢は旅の景色、でっかい自然と、性欲、相反する二人が最も近くなる距離を描いています。「出しちまえばいいよ」という言葉は、僕にとって一番大きな信頼の証のように感じています。信じることと、風を感じることが同時に襲ってくる感覚が俺は好きです。
あの大きな震災のことや、疑りにかかって誰とも関われない自分や、同性愛者であることへの引け目だとか、自分の能力の低さや、家族のこと、恋や愛や、宗教や世界やなんやら。それらが全部混ざって、色んな感動や畏怖に繋がって、なんとも「こう」とは形容し辛いことになってます。それを伝えるのに自分が使った手段は「叫び」でした。これは声だけでなく、音そのものの叫びを出したいなあ、そう思ってラストの後奏が出来上がりました。今持てる全ての感情を、必死に持ち上げて音を鳴らしていく感覚をそこで初めて知ったように感じます。
「叢」という題は、荒野を想って名付けました。先の見えない荒野のような場所に、もっと草が生えていて欲しい。種を植えて、それが育っていって欲しい。と、思うのだけれど、それは叶わない願いだと同時に凄く感じている。そして、自分は荒野の景色がとても好きだとも感じる。矛盾してるけど、一つを選ぶには何か一つを捨てなきゃいけないというなら、隣の青い芝ではなくて、今いる砂利道を選ぶ。みたいな。そして英題の「Bush」は草むらという意味合いと、陰毛という意味もあります。歌詞で「ジンジロ毛が絡み合っている」と書きましたが、そういうことです。荒野に対する熱情と性欲が入り混じるような題に、勝手になっていきました。
何故なら「叢」という題は、歌詞ができる前から決まっていたからです。具体的な命名理由もなく、そう付けたかったから付けたというのに近い。意味合いは後付けですが、私の制作においてはそういうことがママあります。その時に惹かれた言葉が、結果一番似合う名に変化していきます。
ラストの「右もさ 左もさ」あたりからの歌詞は、台湾を一人で酔っ払いながらぶらついてる時に、ふと頭の中で浮かんで急いでメモした文章から書きました。
誰か、どこかの誰かと本気でぶつかり合ってみたいと思う気持ちがあります。何かに対して本気で否と言いたい、でも言ったら何かが終わってしまうかもしれない! でも言わなくちゃいけない。みたいな時ってあると思います。それで大事な人を傷つけてしまうこともあるかもしれないし、一生の別れを選択しなければならないこともあると思います。でも、そうしないと、自分はその人のことを呪ってしまうかもしれないとも思うんです。呪いになってしまって一番キツイのは自分です。これはそういう気持ちです。
ここまで色々書いてきたけれど、ちとムズイな……もっと頭イイ感じに纏めるつもりだったんだけど……。もとより、あんまり説明説明説明って感じにしないつもり(というより、できない)だったんだけど。作品を見て伝わってくれたらそれが本望ですんで! よろしくね。
あ、ちなみにラスト繰り返し言ってる言葉があると思うんですが、あれは「SAIKE SAIKE GO」つってます。これもマイク取り出して、なんとなく声入れたくなってふと出てきた言葉です。一応「さあ行け、ゴー」と「サイケ、ゴー」が混ざった感じのニュアンスで言ってるつもりです。
自分、昨日初めて、友人とバイクでニケツ(後ろ側)して高速に乗ったんです。フェイスシールドが無いヘルメットを被っていたから、すごい速さになっていくと目が開けられなくて、耳も風の音のノイズ音で埋め尽くされて。今までの人生で一番デカい音が耳で鳴っていたように思います。
その感覚と叢のラストシーンの感覚が似ています。ラスト、タテガミオオカミのコウが窓からせり出して、目をつぶって耳は風に揺れている。その時、MVで言うと丁度9分あたりの轟音が、彼の感じている風の音とすごく似ているように思うんです。あー、コウは今、こんな音を聴いているんだな、と思っています。
言いたいことは、大方言えたと思います! 敢えて言わないこともあるけれど、それはまあ、俺が意味ある文章として書き起こすことができない技術不足からです。もしかしたらこれから色々追記していくのかも。そうなったらまた別にお知らせしますね。読んでくれてありがとう! 「叢」という作品を、もし大事に思ってくれているなら、僕はそれほど嬉しいことはないと思います。
またこの場を借りて、叢の制作に関わっていただいた方々、
最高のアニメーションを描いて下さった GREENGECKOTYSONさん、
超かっけえベースを弾いてくれたZEROKUくん、
いつもありがとう、ギターを弾いてくれたいっちー、
マスタリングとレコーディングを担当して下さったのいずさん、
ボーカルの調整を担当して下さった日南めいさん、
歌詞を英語に翻訳して下さった飲み吹きさん、
に、感謝を申し上げます。本当にありがとうございました!!!
このような作品を生み出せて幸せです。これからも頑張って色々作っていきます! どうぞよろしく。
虻瀬犬
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