第23話 死にたい私は懐かしい

「ごちそうさま」

「お粗末さまでーす」


 お粥を食べ終えると病院でもらった薬を飲みこむ。お医者さん曰くただの風邪だから薬を飲んで休んだら数日で治るらしい。


「お粥作ってくれてありがと」

「お見舞いに来たんだからこれぐらい当然! それにインスタントだし。美味しかった?」

「もちろん」

「よかった~」


 しずくちゃんがほっと胸を撫でおろす。


「あ、その器洗うついでにあたしのお弁当の容器も洗っていい?」

「いいけどそこまでしてもらわなくても……」

「あたしがしたいからいいの」


 私の器を取ると、シンクへ向かい食器洗いを始める。自分がリビングにいるのにシンクから音が聞こえて懐かさを覚えた。昔を思い出す。お母さんが、いや涼香すずかがいた頃は毎日聞いていた日常の音。普段聞き慣れている音なのに心地よい。


 まだ眠る気にもなれずテレビを点けて垂れ流しておく。そういえばテレビを点けたのも久しぶりだ。普段はスマホで動画を見るか勉強しかしないし、ニュースもスマホで見ている。最近だとテレビ離れという言葉だってあるし、需要そのものもなくなってきているのだろう。


 テレビでは虐待をテーマにしている話がされていた。主な内容がネグレクトや性的、暴力的な直近のニュース、その対処法の議論などなど。こういうニュースを見ていると自分の家庭がこうならなくてよかったと安心する。

 

「虐待かぁ」


 食器を洗い終えたしずくちゃんがやってきた。私の隣に座ると真剣にテレビを見つめる。


「虐待されたら通報ってよく聞くけど、それ以外に対処法ってないのかな」

「んー……強いて言うなら友達の家とかに隔離じゃないかな」


 しずくちゃんの質問にパッと思いついた方法を答える。実際正解なのかも分からないけど、きっと家にいるときよりはその子だって安心できるだろう。


「虐待なんて、この世からなくなればいいのに」

「それといじめもね」


 一応付け加えておく。いじめ……とまでは言わないが中学時代のときにあった涼香すずかとの比較は地味に辛かった。あの頃は何かと涼香すずかのことを逆恨みしていたのもあったし、競争心が激しかったから大変だったな。


 何かと涼香すずかに勝負を挑んで全てにおいて負けてたっけ。今では懐かしい記憶だ。


 ふと壁に掛けられている時計に目を向ける。そういえば昼休みが終わるのって一時二十分だったよね。


「もう一時五分になるけど大丈夫?」

「え、嘘⁉ もう行かないと!」


 カバンにしずくちゃんが急いで持ってきた荷物を手に取る。


「ごめん。もう授業があるから行くよ」

「お弁当の容器忘れてるよ」

「また放課後来るから大丈夫。それじゃまたね!」


 急いでリビングのドアを開けて外に飛び出していく。窓からしずくちゃんが走っていく姿が見えた。


 放課後も来てくれるんだ。最後の言葉が嬉しくて笑みが零れる。


 私はしずくちゃんの姿を見送るとテレビを消して自分の部屋へ向かった。まだ眠気はないが、目を閉じていればいつかは眠れるだろう。ベッドに潜り込むと目を閉じる。そしていつか来る眠りを待つのだった。

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