第6話 死にたい私と不甲斐なさ

「んー終わったぁ!」


 夜ご飯を食べ終えてから勉強再開して約二時間、しずくちゃんが大きく伸びをした。


「お疲れ様。とりあえず数学の課題は終わったね」

「うん! これでゆっくりできるよ~」

「え、まだまだすることあるよ?」

「え?」

「え?」


 疑問符を浮かべるしずくちゃんに私も首をかしげる。


「えっと……数学課題が終わったらほぼ終わりじゃないの?」


 課題量が毎回特に多い数学。それを教えられてる範囲まで終わらせたのは確かにでかい。


 でも……。


「何言ってるの。しずくちゃんはまだ他教科の課題終わってないでしょ?」

「そーだけど、暗記なんだから別に試験前にしてもよくない?」

「今回のお泊り会では課題が終わるのは最低条件だよ。そこからは試験の範囲にある問題集の箇所を解いたり、課題を見直したり、暗記したり」

「多いって! そんな量無理だよ! あたしいつも課題だけしかしないのに!」


 ブンブンと首を横に振られる。流石に困惑を隠せない。中学生の頃の私ですらやっていたことのはずなんだけど。


しずくちゃんって前のテストの順位どうだったっけ?」

「真ん中よりちょっと下ぐらいだったかなぁ」

「課題するだけでそんなに取れるの⁉」


 衝撃の発言で思わず声を上げてしまう。課題だけで平均ぐらい取れるものなの?


「いや、課題だけっていうのは言い過ぎだけどさ。前日に課題終わらせて暗記系を覚えたり、数学、物理、化学とかの計算が入るやつはちゃんとノート見直してるよ」

「問題集二周とかしないの?」

「二周⁉ 多すぎだって。それに問題集なんて開いたことないし」

「そういうもの?」

「うん。あと二周しなくても、間違ったところのやり方見直すだけでなんとかなるでしょ?」


 そんな当然でしょ? みたいな反応されても困る。


 私なんて毎回、課題と問題集を最低二周は終わらせて、暗記系は寝る前に復習しているのに。それでも不安なものは三周目を迎えて……。


 そういえば『彼女』も課題とノートの見直しだけしかしてなかったな。必死にテスト勉強している姿を見かけたことがない。


「……私ってやっぱり出来損ないだ」

「急にどうしたの⁉ 自分を卑下にしないで! 涼音すずねちゃんは凄いから!」

「――あっ、ごめん」


 自分の失言に気付いて口元を隠す。つい人前でネガティブな発言をしてしまった。『彼女』なら絶対に言わないのに。今はしずくちゃんと一緒にいるんだ。言葉には気を付けないと。


「それじゃ、疲れてる状態で勉強しても毒だからいったん休憩しよ。いい時間だししずくちゃんお風呂へ入ってきたら?」

「でも、涼音すずねちゃんがお客様なんだから一番風呂は渡さないと」

「私はもう少し勉強したいから気にしないで」

「……わかった」


 表情を曇らせたまましずくちゃんがしぶしぶといった様子で部屋を後にする。一人残された部屋で私は盛大にため息を吐いた。


「はぁ、ダメだなぁ……私」


 私の一言のせいで空気を壊した。自分の不甲斐なさが憎らしい。死にたい……なんてしずくちゃんの家じゃなかったら呟いていただろう。この気持ちから逃げるように暗記科目の教科書を開く。


 すると部屋のドアが開く音がした。いくらなんでも帰ってくるのが早すぎる。もしかして何か忘れ物でもしたのかな?


 顔を上げる。しかし目の前にいたのはしずくちゃんではなかった。


しずくちゃんのお母さん?」

「あはは。わたしのことは『朱莉あかりさん』でいいって言ったでしょ?」


 つい二時間ほど前に言われた言葉を思い出す。リビングにて『しずくちゃんのお母さん』と言おうとした際に、何度もしずくちゃんが反応したからそうするように提案されたのだ。


「すみません。それで、どうしました?」

「あはは、ごめんね。少し話せるかな?」

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