第56話『月の巫女の力』
「うぅ、痛い……」
背中の鈍い痛みに耐えながら体を起こして、目を開ける。すると、さっきまでわたしが隠れていた石の柱が、粉々になっていた。
その柱の近くで、皆が魔物と戦っているのが見えた。戻らないと。
……立ち上がろうとすると、左足に鋭い痛みが走って、反射的に座り込でしまった。これ、折れてるのかな。
わたしの癒やしの力は、他人の傷は癒やすことができても、わたし自身の怪我は治すことができない。理由はわからないけど、これはそういう力。
「どうしよう……」
思わず呟いて、周囲を見渡す。すると、わたしが飛ばされたのは、祭壇へ続く階段の中腹だと気づいた。
――月の神殿の祭壇で、そのペンダントを掲げなさい。そうすれば、月の神殿は貴女に守る力を与えてくれるでしょう。
階段先の祭壇を目にした時、あの夜、月の女王様から言われた言葉を思い出した。
「……守る、力」
わたしは呟いて、壁に手をつきながら、右足を軸にして立ちあがる。そして少しずつ、慎重に階段を上る。
一歩。また一歩。石段を踏みしめるたびに痛みが走るけど、皆のほうがもっと痛いはずだし。急がないと。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……普段ならすぐに駆け上がれそうな階段を、わたしはものすごく時間をかけて、祭壇までたどり着いた。
「着い、た……」
階段の終わりを確認して、わたしは思わず、床に倒れ込む。目の前に広がる祭壇の床には月のペンダントに似た模様が描かれていた。ここが祭壇で間違いなさそう。
わたしは身につけていたペンダントを外し、しっかりと右手に握って、祭壇によじ登る。ここから先は体を支えてくれる壁もない。力を振り絞って、這うように祭壇の中心までやってくる。
「……お願いします。わたしに、皆を守る力をください」
そこで両手でペンダントを包み込むようにして、わたしは祈った。もう、守られてるだけじゃ嫌だから。
……直後、上から光の波が降ってきた。正確には違うのかもしれないけど、わたしにはそう見えた。
光の波がわたしを包み込むと同時に、全身が温かくなる。まるで、お母さんの腕の中にいるような、そんな感じ。
「光の、鎧……?」
続けて、月の神殿から与えられたらしい力の使い方が、頭の中に直接流れ込んできた。
その知識に圧倒されながら、わたしは思わず立ち上がる。思えば、いつの間にか足の痛みも消えていた。この光が治してくれたのかな。
ペンダントを身につけながら、降り注ぐ光に手をかざす。あったかい光の中、まるで星の光が直接降り注いできているかのような細かい光がある。それはわたしの手を通り抜けて、床へと落ちていく。
「――ルナ!」
……祭壇の下から、ウォルスくんの声が聞こえた。それではっとなって、みんなの方を見る。あの魔物が、じりじりとその距離を詰めていた。
――みんな、今行くから!
力の限り叫んで、わたしは階段を駆け下りた。
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